こんにちは、公認会計士の千日太郎です。8月21日の新発10年国債利回りは一時1.61%まで上昇し、2008年以来およそ17年ぶりの高水準となりました。これを受けて、9月の【フラット35】金利はどう動くのでしょうか。 この記事では、新発10年国債と機構債の金利推移、2つの予測シナリオやその根拠などをわかりやすく解説します。 【フラット35】9月金利予想 市場関係者は、米関税政策による企業業績の下振れ懸念の後退が株価を押し上げ、日銀が次の利上げを早めるのではないかとの思惑から、金利の上昇圧力となっていると分析しています。新発10年国債利回りは、住宅ローンの固定タイプの金利に影響を与え、住宅金融支援機構が【フラット35】の資金調達方法としている機構債の表面利率にも影響してきます。 では早速、これまでの機構債の表面利率や新発10年国債利回りの推移と9月の【フラット35】の金利予想です。 8月の金利予想と実態 8月の金利予想では、機構債の表面利率と新発10年国債利回りがともに大幅上昇したので、【フラット35】の金利上昇は抑えられて、1.89~1.97%になると予想しました。ただ、私の予想を超えて金利上昇が抑えられ、【フラット35】の金利は1.87%と想定を下回りました。 9月も引き続き機構債の表面利率と新発10年国債利回りが上昇すると考え、前月同様に【フラット35】の金利上昇は抑えられると予想します。前月は予想以上に金利上昇が抑えられるという結果であったため、今月はさらなる抑制を見込んで1.87%~1.93%と予想しました。 主要データ(2025年8月21日時点) 機構債発表日 2025年5月22日 2025年6月20日 2025年7月18日 2025年8月21日 機構債の表面利率(※1)1.94%1.88%2.02%2.08% 新発10年国債利回り(※2)1.54%1.43%1.55%1.61% ローンチスプレッド(※1)40bps(0.40%)45bps(0.45%)47bps(0.47%)47bps(0.47%) ※1 出典)住宅金融支援機構「既発債情報」 ※2 新発10年国債利回りは便宜上、機構債の表面利率からローンチスプレッドを差し引いた数値としています。 6月 7月 8月 9月千日太郎の予想 【フラット35】の金利(※3)1.89%1.84%1.87%1.87%~1.93% ※3 出典)住宅金融支援機構【フラット35】「借入金利の推移(借入期間21年以上35年以下、融資率9割以下、新機構団信付きの場合)」 なお、この予測ロジックは以下のとおりです。詳細は後述します。 ・予測ロジック(簡易式) 予測金利 ≒新発10年国債利回り + ローンチスプレッド – 調整幅(機構裁量) 新発10年国債利回りと機構債の金利推移 8月の新発10年国債利回りは、7月の1.55%から1.61%へ0.06ポイント上昇しました。これに対して、機構債の表面利率も2.02%から2.08%へ0.06ポイント上昇し、ほぼ同じ幅で動いたため、順当な結果といえます。 ローンチスプレッドとは? 新発10年国債利回りと機構債の表面利率の差は、“ローンチスプレッド”といわれます。このローンチスプレッドは、拡大傾向にありました。これは、住宅ローンを借りるわたしたちにとって、新発10年国債利回りが上昇した際に、住宅ローン金利の上昇がより大きくなってしまうことを意味します。 2025年5月から8月までの動き 2025年5月:0.40% 2025年6月:0.45%(前月より+0.05ポイント) 2025年7月:0.47%(前月より+0.02ポイント) 2025年8月:0.47%(前月と横ばい) 5月から7月にかけては、0.02~0.05ポイント幅で拡大していましたが、8月は横ばいで上昇が止まりました。これは、住宅ローン金利の急騰リスクがやや和らいだサインと言えます。 機構債と【フラット35】の金利推移 機構債の表面利率は、2.02%から2.08%へ0.06ポイント上昇しました。これに対して、千日太郎の【フラット35】金利予想は、1.87%から1.93%で、横ばいから0.06ポイントの上昇に抑えられるというものです。 なぜ抑えられるのか? この予想は、過去3か月にわたって【フラット35】の金利が、機構債の表面利率を下回っていることにあります。これは、住宅金融支援機構は収益性を問わず、低金利を続けていることを意味します。 【フラット35】(買取型)の仕組みをおさらい 【フラット35】(買取型)は、住宅金融支援機構が機関投資家に「機構債」という債券を販売して資金を集め、その資金で住宅ローンを提供する仕組みです(詳細は後述)。簡単に言えば、機構債の表面利率は「仕入れ値」、【フラット35】の金利は「販売価格」にあたります。 2025年6月から8月まで異例のマイナス収支が続く 6月:機構債1.94% vs【フラット35】金利1.89% 7月:機構債1.88% vs【フラット35】金利1.84% 8月:機構債2.02% vs【フラット35】金利1.87% → -0.15ポイント(過去最大) 上記は直近3か月の動きですが、6月(機構債発表日5月22日)の機構債の表面利率は、【フラット35】の金利に対して、0.05%のマイナスです。これは、住宅金融支援機構が1.94%で資金を仕入れて、1.89%の金利の住宅ローンとしてわたしたちに提供していることを意味します。 続いて、7月は0.04ポイントの差でしたが、8月は0.15ポイントまで拡大しています。つまり、3か月連続で異例のマイナス収支が続いているだけでなく、その幅も拡大傾向にあるのです。 関連記事はこちらフラット35の買取型・保証型の違いを徹底比較!どっちがいい? 住宅金融支援機構がどこまで金利を抑えるか?2つの予想シナリオ 千日太郎の予想では、9月もマイナス収支が続くと見ています。そのため、予想レンジを1.87%~1.93%とし、以下の2つのシナリオを想定しています。 シナリオ①:1.87%「激変緩和」 8月は新発10年国債利回りと機構債の表面利率が上昇しましたが、住宅金融支援機構は住宅金融の円滑化のため、その上昇をあえて住宅ローンの金利に反映させないというシナリオです。 シナリオ②:1.93%「マイナス幅の限度」 7月の機構債の表面利率と8月の【フラット35】の金利差は、前述のとおり0.15ポイントでした。8月の機構債の表面利率が2.08%なので、仮にマイナス幅を0.15ポイントとすると9月の【フラット35】の金利は1.93%になるというシナリオです。 【フラット35】の金利がなぜここまで抑えられるか? 【フラット35】の金利抑制は、日銀がマイナス金利政策を解除した2024年3月以降も続いています。しかし、機構債の利率を下回る水準をつけたのは、2025年6月が初めてです。 この背景には、住宅金融支援機構は非営利の独立行政法人であり、国の政策的役割を担っているという特性があります。しかし、営利を目的としていない住宅金融支援機構といえども、このような状態を永続的に続けられるものではありません。少しでも長く、この低金利を続けてほしいものですね。 【フラット35】(買取型)の資金調達の仕組み 住宅ローンの【フラット35】(買取型)は、下図のように住宅金融支援機構が民間金融機関から債権を買い取って証券化し、機関投資家に債券市場を通じて機構債という形で販売するという仕組みになっています。 出典)【フラット35】 Q.フラット35のしくみを教えてください。 この機構債は毎月20日前後に表面利率を発表し募集します。投資家たちは機構債を安全資産という考えで購入するので、その表面利率は新発10年国債利回りに連動する傾向があります。 専門スタッフに相談してみる SBIアルヒの店舗にて、フラット35の無料相談ができます。※SBIアルヒのWEBサイトに遷移します。 専門スタッフに相談してみる SBIアルヒの店舗にて、フラット35の無料相談ができます。 ※SBIアルヒのWEBサイトに遷移します。 執筆者紹介 千日太郎(Sennichi Taro) 公認会計士としての専門知識を活かし、YouTubeなどを通じて住宅ローンの仕組みや金利動向についての情報を発信。住宅購入を検討する人に向けた実務的な内容を中心に、金融に関する知識をわかりやすく解説している。 著書『住宅ローンで「絶対に損したくない人」が読む本』では、住宅ローンの選び方や返済計画に関する基本的な考え方を丁寧に紹介しており、実用的な入門書として一定の評価を得ている。 住宅ローンに関する独自の視点や分析は、利用者や一部の業界関係者からも注目されており、継続的に情報提供を行っている点が特徴。
こんにちは、公認会計士の千日太郎です。今月から【フラット35】の金利予想を「住まいとお金の知恵袋」で連載します。7月に入ってから参院選の影響からか、債券価格は下がり長期金利が上昇しつづけています。 新発10年国債利回りは住宅ローンの固定タイプの金利に影響を与え、住宅金融支援機構が【フラット35】の資金調達方法としている機構債の表面利率にも影響してきます。 2025年8月【フラット35】金利予想 では早速、直近4カ月の機構債の表面利率や新発10年国債利回りの推移と8月の【フラット35】の金利予想です。8月は機構債の表面利率と新発10年国債利回りがともに大幅上昇しましたが、【フラット35】の金利上昇は抑えられて、1.89~1.97%になると予想しました。 機構債発表日 2025年4月17日 2025年5月22日 2025年6月20日 2025年7月18日 機構債の表面利率(※1)1.65%1.94%1.88%2.02% 新発10年国債利回り(※2)1.30%1.54%1.43%1.55% ローンチスプレッド(※1)35bps(0.35%)40bps(0.40%)45bps(0.45%)47bps(0.47%) ※1 出典)住宅金融支援機構「既発債情報」 ※2 新発10年国債利回りは便宜上、機構債の表面利率からローンチスプレッドを差し引いた数値としています。 5月 6月 7月 8月千日太郎の予想 【フラット35】の金利(※3)1.82%1.89%1.84%1.89~1.97% ※3 出典)【フラット35】「借入金利の推移(借入期間21年以上35年以下、融資率9割以下、新機構団信付きの場合)」 新発10年国債利回りと機構債の表面利率の推移 新発10年国債利回りの上昇幅は、1.43%から1.55%へ0.12ポイントの上昇となりました。これに対して、機構債の表面利率は1.88%から2.02%へ0.14ポイントの上昇です。今月はほぼ同じ幅で動いたので、順当な結果と言えます。 機構債の表面利率と新発10年国債利回りの表面利率の差は“ローンチスプレッド”といわれます。機構債は35年という長期の住宅ローン債権を裏付けとしています。そのため、金利が一定以上出なければ、債券としての成立が難しくなります。 最近では、このローンチスプレッドが拡大傾向にありました。これは、住宅ローンを借りるわたしたちにとって、新発10年国債の利回りが上昇した際に、それ以上に住宅ローン金利が上昇する可能性が高まることを意味します。 4月0.35ポイント、5月0.40ポイント、6月0.45ポイントと約0.05ポイント幅で拡大し続けていたのですが、7月は0.47ポイントと上昇ペースが落ちたので、これは良い傾向です。 機構債と【フラット35】の金利推移 機構債の表面利率は1.88%から2.02%へ0.14ポイントの上昇に対して千日太郎の【フラット35】の金利予想は1.84%から1.89%へ0.05ポイントの上昇に抑えられるというものです。 この予想を支えているのは、過去2か月にわたって【フラット35】の金利が機構債の表面利率を下回っていることにあります。一言で言うと、住宅金融支援機構は収益性を問わず、低金利を続けているのです。 【フラット35】(買取型)の資金調達の仕組み(詳細は後述)によると、住宅金融支援機構は、機関投資家に対して「機構債」と呼ばれる債券を販売することで資金を集め、その資金をもとに個人向けの住宅ローンを提供するという仕組みになっています。つまり、機構債の表面利率はいわば資金の仕入値にあたり、【フラット35】の金利が売値にあたります。 5月に発行された機構債の表面利率は1.65%で【フラット35】の金利は1.82%でした。これは、住宅金融支援機構が1.65%で資金を調達し、それを1.82%の金利で住宅ローンとして提供していることを意味します。 この差額は、住宅金融支援機構の運営費用やリスク管理などに充てられるものであり、利益を目的としたものではありません。実際、住宅金融支援機構は非営利の独立行政法人であり、営利を目的していない点にご留意ください。 一方で、5月に発行された機構債の表面利率は1.94%で【フラット35】の金利は1.89%でした。この差の0.05%は、住宅金融支援機構にとって純粋な損失となります。さらに6月も、機構債の表面利率が1.88%であるのに対し、【フラット35】の金利が1.84%となっており、0.04%の差が生じています。 関連記事はこちらフラット35の買取型・保証型の違いを徹底比較!どっちがいい? 住宅金融支援機構がどこまで金利を抑えるか?2つの予想シナリオ 千日太郎の予想としては、8月も収支がマイナスの状態を維持すると見ています。予想に1.89%~1.97%という幅を持たせているのには、それぞれの予想シナリオがあるためです。 シナリオ①「激変緩和」 これは、金利が急激に上昇した局面でも【フラット35】の金利上昇が1カ月あたり0.05ポイント程度に抑えられてきた過去の傾向を踏まえ、今月も同様の抑制が行われるとするシナリオです。 シナリオ②「マイナス幅の限度」 過去2か月、機構債と【フラット35】の金利差は0.04~0.05ポイントでした。7月に発行された機構債の表面利率が2.02%でしたから、仮にマイナス幅を0.05ポイントとすると【フラット35】の金利は1.97%になるというシナリオです。 【フラット35】の金利抑制と機構債との関係 【フラット35】の金利が長期金利や機構債の上昇に対して抑えられる傾向は、日銀がマイナス金利政策を解除した2024年3月19日から一貫して継続してきました。しかし、機構債の表面利率を下回る水準をつけたのは、2025年6月が初めてです。 このように金利を抑えられている主な理由は、住宅金融支援機構が国の政策実施機関に位置づけられる独立行政法人であり、営利を目的としない非営利団体であることにあります。とはいえ、収益が減少することが明らかな施策を行うことは、極めて異例な対応と言えるでしょう。 金利抑制の持続性と機構債の発行動向 このような状態はいつまでも続くとは考えにくく、いつかは終わるだろうと見ています。しかし、7月の機構債の発行額は605億円と、4,5月の102億円、6月の295億円から大きく増加しています。 日銀が利上げを開始してもなお、変動金利を選択する人の割合が増えつづけ、住宅金融支援機構の債権残高が減少傾向にありました。その中でのこの7月の発行額の増加は、【フラット35】の需要回復の兆しとも言えます。 【フラット35】を利用する立場としては、こうした低金利の傾向が少しでも長く続くことを期待したいところです。 出典)住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査(金利タイプ)」 【フラット35】(買取型)の資金調達の仕組み 住宅ローンの【フラット35】(買取型)は、下図のように住宅金融支援機構が民間金融機関から債権を買い取って証券化し、機関投資家に債券市場を通じて機構債という形で販売するという仕組みになっています。 出典)【フラット35】Qフラット35のしくみを教えてください。 この機構債は毎月20日前後に表面利率を発表し募集します。投資家たちは機構債を安全資産という考えで購入するので、その表面利率は新発10年国債の利回りに連動する傾向があります。 専門スタッフに相談してみる SBIアルヒの店舗にて、フラット35の無料相談ができます。※SBIアルヒのWEBサイトに遷移します。 専門スタッフに相談してみる SBIアルヒの店舗にて、フラット35の無料相談ができます。 ※SBIアルヒのWEBサイトに遷移します。 執筆者紹介 千日太郎(Sennichi Taro) 公認会計士としての専門知識を活かし、YouTubeなどを通じて住宅ローンの仕組みや金利動向についての情報を発信。住宅購入を検討する人に向けた実務的な内容を中心に、金融に関する知識をわかりやすく解説している。 著書『住宅ローンで「絶対に損したくない人」が読む本』では、住宅ローンの選び方や返済計画に関する基本的な考え方を丁寧に紹介しており、実用的な入門書として一定の評価を得ている。 住宅ローンに関する独自の視点や分析は、利用者や一部の業界関係者からも注目されており、継続的に情報提供を行っている点が特徴。