公開日:2023.11.29
家族信託とは、財産の管理、運用、処分を家族に任せるための制度です。親の判断能力が低下した場合、子どもの判断で親の財産を運用、処分できるため、認知症対策として注目されています。家族信託をする場合、どのような費用や税金がかかるのでしょうか。
この記事では、家族信託にかかる費用や税金とその相場について解説します。
家族信託では、状況に応じて以下5つの税金がかかる場合があります。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
家族信託の場合、委託者と受益者が同じ人であれば贈与税は発生しません。しかし、委託者以外の人が受益者となった場合、財産を贈与したとみなされ、受益者に贈与税がかかります。
例えば、「父:委託者、子:受託者、母:受益者」とし、信託財産である収益不動産(信託前は父名義)の家賃収入を母(受益者)が受け取るような場合が考えられます。
家族信託では、信託財産から生じる利益を受け取る「受益者」が亡くなったときに相続が発生します。受益者の死亡によって信託契約を終了する場合は、信託財産を相続する人に相続税が課されます。受益者の死亡後も信託契約を継続する場合は、受益権を引き継ぐ人に相続税がかかります。
信託財産から得られる収入(所得)については、受益者が所得税を納めなくてはなりません。また、受益者が受益権を売却した場合は、その利益に所得税がかかります。なお、受益者が法人であれば、法人税が発生します。
不動産を信託する場合、不動産の所有者が委託者から受託者に代わります。そのため、次年度からは受託者に固定資産税の納税義務が生じます。
ただし、信託契約において「固定資産税は受益者が負担する」と明記すれば、受託者の自己資金ではなく信託財産から納めることが可能です。
信託財産に不動産が含まれる場合、「信託による所有権移転登記」の登録免許税がかかります。
所有権移転登記は、不動産の名義人を委託者から受託者に変更するための手続きです。登録免許税額については後述します。
ここでは、家族信託を自分で手続きする場合と専門家に依頼した場合の費用相場を紹介します。
家族信託の手続きでは、戸籍謄本や印鑑証明書、住民票などの公的書類を取得しなくてはなりません。信託財産に不動産が含まれている場合は、登記事項証明書(登記簿謄本)も必要です。取得費用はいずれも1通につき数百円程度です。
家族信託では、信託財産を管理するための信託口口座を開設します。金融機関によって異なりますが、開設費用は5~10万円程度が一般的です。正確な金額は金融機関に確認しましょう。
家族信託では、信託口口座を開設する際に、金融機関から公正証書で作成された信託契約書の提出を求められる場合がほとんどです。そのため、信託契約書を公正証書にする必要があります。公正証書にかかる費用は以下のとおりです。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円超 200万円以下 | 7,000円 |
200万円超 500万円以下 | 1万1,000円 |
500万円超 1,000万円以下 | 1万7,000円 |
1,000万円超 3,000万円以下 | 2万3,000円 |
3,000万円超 5,000万円以下 | 2万9,000円 |
5,000万円超 1億円以下 | 4万3,000円 |
1億円超 3億円以下 | 4万3,000円+5,000万円ごとに1万3,000円 |
3億円超 10億円以下 | 9万5,000円+5,000万円ごとに1万1,000円 |
10億円超 | 24万9,000円+5,000万円ごとに8,000円 |
家族信託では、状況に応じて信託監督人や受益者代理人を設定する場合があります。
信託監督人や受益者代理人を専門家に依頼すると、月額数万円程度の費用がかかります。
上述したように、信託財産に不動産が含まれている場合は、信託登記の登録免許税がかかります。税額は「不動産の固定資産税評価額×0.4%」です。ただし、土地については0.3%の軽減税率が適用されます(2026年3月31日まで)。
例えば、土地3,000万円、建物2,000万円の場合の登録免許税額は、以下のとおりです。
専門家に依頼する場合は、上記の「自分で手続きする場合の費用」に加えて、以下の費用負担が発生します。
実際にかかる費用は専門家によって異なります。依頼の際に費用をしっかりと確認することが大切です。
租税特別措置法第41条の4の2によると、信託財産から生じた損失は、信託財産以外から生じた所得との損益通算ができません。例えば、信託された収益不動産で赤字が生じても、信託財産以外の収益不動産の所得とは損益通算できないため、税負担が増える恐れがあります。
大規模修繕などで赤字の発生が見込まれる収益不動産がある場合は、信託する前に税理士などの専門家に相談しましょう。
出典)国税庁「第41条の4の2(特定組合員等の不動産所得に係る損益通算等の特例)関係」
家族信託は、認知症などによる判断能力の低下に備えるには有効な手段です。ただし、専門家に手続きを依頼する場合はまとまった費用がかかります。家族信託でかかる税金・費用の相場を把握したうえで、利用するかを判断しましょう。
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