公開日:2025.10.21
こんにちは、公認会計士の千日太郎です。2025年10月、自民党の新総裁に利上げ慎重派とされる高市早苗氏が選ばれ、衆議院本会議で第104代内閣総理大臣に正式に指名されました。日本維新の会との連立により過半数を確保し、憲政史上初の女性首相として高市内閣が発足しています。
高市政権の経済・金融政策は、財政出動と持続的な賃上げを重視するスタンスであり、住宅ローン金利にも影響を与える可能性があります。
この記事では、【フラット35】の11月金利予測を中心に、新発10年国債と機構債の金利推移、2つの予測シナリオとその根拠について、わかりやすく解説していきます。
高市氏が新総裁に選ばれた直後は「高市トレード」で株価は高騰、新発10年国債利回りも一時は1.7%を超える勢いでしたが、10月中旬頃には、利回りは以前の水準に戻りました。
新発10年国債利回りについては、住宅ローンの固定金利に影響を与え、住宅金融支援機構が【フラット35】の資金調達方法としている機構債の表面利率にも影響してきます。
では早速、これまでの機構債の表面利率や新発10年国債利回りの推移と【フラット35】の金利予想です。
10月の金利予想では、機構債の表面利率は0.04ポイント上昇したものの、新発10年国債利回りが横ばいであったため、【フラット35】の上昇は抑えられて、1.89%~1.93%の間と予想しました。結果、【フラット35】の金利は予想レンジの下限である1.89%に落ち着きました。
11月の新発10年国債利回りは0.03ポイント上昇し、ローンチスプレッドは横ばいで機構債の表面利率は0.03ポイント上昇しています。前月同様に【フラット35】の金利上昇は抑えられることを見込んで、1.89%~1.92%と予想します。
主要データ(2025年10月17日時点)
機構債発表日 | 2025年7月18日 | 2025年8月21日 | 2025年9月19日 | 2025年10月17日 |
---|---|---|---|---|
機構債の表面利率(※1) | 2.02% | 2.08% | 2.12% | 2.15% |
新発10年国債利回り(※2) | 1.55% | 1.61% | 1.61% | 1.64% |
ローンチスプレッド(※1) | 47bps(0.47%) | 47bps(0.47%) | 51bps(0.51%) | 51bps(0.51%) |
※1 出典)住宅金融支援機構「既発債情報」
※2 新発10年国債利回りは便宜上、機構債の表面利率からローンチスプレッドを差し引いた数値としています。
8月 | 9月 | 10月 | 11月 | |
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【フラット35】の金利(※3) | 1.87% | 1.89% | 1.89% | 千日太郎の予想 1.89%~1.92% |
※3 出典)住宅金融支援機構【フラット35】「借入金利の推移(借入期間21年以上35年以下、融資率9割以下、新機構団信付きの場合)」
なお、この予測ロジックは以下のとおりです。詳細は後述します。
10月の新発10年国債利回りは、1.61%から1.64%へ0.03ポイント上昇し、機構債の表面利率も2.12%から2.15%へ0.03ポイント上昇しました。
新発10年国債利回りと機構債の表面利率の差は“ローンチスプレッド”といわれます。このローンチスプレッドは、拡大傾向にありました。これは、住宅ローン利用者にとって、新発10年国債利回りが上昇した際に、住宅ローン金利の上昇幅がより大きくなることを意味します。
7月から8月にかけては、横ばいで推移しましたが、9月には0.04ポイント拡大し、10月は再び横ばいとなりました。これは、投資家の長期金利の先高観が強まっていることを意味します。
機構債の表面利率は2.12%から2.15%へ0.03ポイント上昇しました。これに対して、千日太郎の【フラット35】金利予想は、1.89%から1.92%とし、横ばいから0.03ポイントの上昇に抑えられるというものです。
この予想は、過去5か月にわたって【フラット35】が機構債の表面利率を下回っていることにあります。これは、住宅金融支援機構が収益性を問わず、低金利政策を維持していることを意味します。
【フラット35】(買取型)は、住宅金融支援機構が機関投資家に「機構債」という債券を販売して資金を集め、その資金で住宅ローンを提供する仕組みです(詳細は後述)。簡単に言えば、機構債の表面利率は「仕入れ値」、【フラット35】の金利は「販売価格」にあたります。
対象月 | 機構債(前月) | 【フラット35】金利 | 金利差 |
---|---|---|---|
6月 | 1.94% | 1.89% | -0.05ポイント |
7月 | 1.88% | 1.84% | -0.04ポイント |
8月 | 2.02% | 1.87% | -0.15ポイント |
9月 | 2.08% | 1.89% | -0.19ポイント |
10月 | 2.12% | 1.89% | -0.23ポイント(過去最大) |
上記は直近5か月の動きです。5月の機構債の表面利率は、【フラット35】の金利に対して、0.05%マイナスです。これは、住宅金融支援機構が1.94%で資金を仕入れて、1.89%の金利の住宅ローンとしてわたしたちに提供していることを意味します。
続いて、7月は0.04ポイントの差でしたが、8月は0.15ポイントにマイナス幅が一気に拡大し、さらに9月は0.19ポイント、10月は過去最大の0.23%までマイナス幅が拡大しました。つまり5か月連続で異例のマイナス収支が続いているだけでなく、その幅も拡大傾向にあるのです。
千日太郎の予想としては11月も収支がマイナスの状態が続くと見ています。そのため、金利の予想レンジを1.89%~1.92%とし、以下2つの予想シナリオを想定しています。
10月は新発10年国債利回りが上昇していないにもかかわらず、機構債の表面利率が上昇しています。その上昇をあえて住宅ローンの金利に反映させないというシナリオです。
9月の機構債の表面利率と10月の【フラット35】の金利差は、前述のとおり0.23ポイントでした。10月の機構債の表面利率が2.15%なので、仮にマイナス幅を0.23ポイントとすると11月の【フラット35】の金利は1.92%になるというシナリオです。
【フラット35】の金利抑制は、日銀がマイナス金利政策を解除した2024年3月以降も続いていました。しかし、機構債の利率を下回る水準をつけたのは2025年6月が初めてです。
この背景には、住宅金融支援機構は非営利の独立行政法人であり、国の政策的役割を担っているという特性があります。しかし、営利を目的としていない住宅金融支援機構といえども、このような状態を永続的に続けられるものではありません。
政局は流動的ですが、高市氏も玉木氏も財政重視の立場をとっているため、今後も住宅金融支援機構がコストを上回る水準で【フラット35】を提供し続けることを期待しています。
住宅ローンの【フラット35】(買取型)は、下図のように住宅金融支援機構が民間金融機関から債権を買い取って証券化し、機関投資家に債券市場を通じて機構債という形で販売するという仕組みになっています。
出典)フラット35「Qフラット35のしくみを教えてください。」
この機構債は毎月20日前後に表面利率を発表し募集します。投資家たちは機構債を安全資産という考えで購入するので、その表面利率は新発10年国債利回りに連動する傾向があります。
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