公開日:2025.09.22
こんにちは、公認会計士の千日太郎です。日銀は9月19日の金融政策決定会合で、政策金利を0.5%に据え置くことを決めました。米国の関税強化策の影響が今後、日本経済に及ぼす可能性を慎重に見極めていく構えです。これを受けて、10月の【フラット35】金利はどう動くのでしょうか。
この記事では、新発10年国債と機構債の金利推移、2つの予測シナリオやその根拠などをわかりやすく解説します。
日銀の金融政策決定会合に先立って行われた米国FOMCでは、0.25%の利下げが決定されました。声明では雇用の下振れリスクが高まったためとしています。市場はこれを好感し株価は急上昇していますが、執筆時点の新発10年国債利回りには大きな影響は出ていません。
新発10年国債利回りは、住宅ローンの固定タイプの金利に影響を与え、住宅金融支援機構が【フラット35】の資金調達方法としている機構債の表面利率にも影響してきます。
では早速、これまでの機構債の表面利率や新発10年国債利回りの推移と10月の【フラット35】の金利予想です。
9月の金利予想では、機構債の表面利率と新発10年国債利回りがともに0.06ポイント上昇したため、【フラット35】の上昇は抑えられて、1.87~1.93%になると予想しました。結果【フラット35】の金利は、1.89%と予想の中央あたりの水準に落ち着きました。
10月の新発10年国債利回りは横ばいであるのに対し、ローンチスプレッドの拡大によって機構債の表面利率が0.04ポイント上昇しています。前月同様に10月の【フラット35】の金利上昇は抑えられることを見込んで、1.89%~1.93%と予想します。
主要データ(2025年9月19日時点)
機構債発表日 | 2025年6月20日 | 2025年7月18日 | 2025年8月21日 | 2025年9月19日 |
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機構債の表面利率(※1) | 1.88% | 2.02% | 2.08% | 2.12% |
新発10年国債利回り(※2) | 1.43% | 1.55% | 1.61% | 1.61% |
ローンチスプレッド(※1) | 45bps(0.45%) | 47bps(0.47%) | 47bps(0.47%) | 51bps(0.51%) |
※1 住宅金融支援機構「既発債情報」
※2 新発10年国債利回りは便宜上、機構債の表面利率からローンチスプレッドを差し引いた数値としています。
7月 | 8月 | 9月 | 10月 千日太郎の予想 | |
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【フラット35】の金利(※3) | 1.84% | 1.87% | 1.89% | 1.89%~1.93% |
※3 出典)住宅金融支援機構【フラット35】「借入金利の推移(借入期間21年以上35年以下、融資率9割以下、新機構団信付きの場合)」
なお、この予測ロジックは以下のとおりです。詳細は後述します。
9月の新発10年国債利回りは、8月と同じ1.61%で横ばいとなりました。これに対して、機構債の表面利率は、ローンチスプレッドが拡大したため、2.08%から2.12%へ0.04ポイント上昇しました。
新発10年国債利回りと機構債の表面利率の差は、“ローンチスプレッド”といわれます。このローンチスプレッドは、拡大傾向にありました。これは、住宅ローンを借りるわたしたちにとって、新発10年国債利回りが上昇した際に、住宅ローン金利の上昇がより大きくなってしまうことを意味します。
6月から7月にかけては、0.02ポイント幅で拡大しましたが、8月は横ばいで上昇が止まり、9月には再び0.04ポイント拡大しています。これは、投資家の長期の金利に対する先高観が強まっていることを意味します。
機構債の表面利率は、2.08%から2.12%へ0.04ポイント上昇しました。これに対して、千日太郎の【フラット35】金利予想は、1.89%から1.93%とし、横ばいから0.04ポイントの上昇に抑えられるというものです。
この予想は、過去4か月にわたって【フラット35】が機構債の表面利率を下回っていることにあります。これは、住宅金融支援機構は収益性を問わず、低金利を続けていることを意味します。
【フラット35】(買取型)は、住宅金融支援機構が機関投資家に「機構債」という債券を販売して資金を集め、その資金で住宅ローンを提供する仕組みです(詳細は後述)。簡単に言えば、機構債の表面利率は「仕入れ値」、【フラット35】の金利は「販売価格」にあたります。
上記は直近4か月の動きですが、6月(機構債発表日5月22日)の機構債の表面利率は、【フラット35】の金利に対して、0.05%マイナスです。これは、住宅金融支援機構が1.94%で資金を仕入れて、1.89%の金利の住宅ローンとしてわたしたちに提供していることを意味します。
続いて、7月は0.04ポイントの差でしたが、8月は0.15ポイントまでマイナス幅が一気に拡大し、さらに9月は過去最大の0.19ポイントまでマイナス幅が拡大しました。つまり、4か月連続で異例のマイナス収支が続いているだけでなく、その幅も拡大傾向にあるのです。
千日太郎の予想では、10月も収支がマイナスの状態が続くと見ています。そのため、金利の予想レンジを1.89%~1.93%とし、以下2つのシナリオを想定しています。
9月は新発10年国債利回りが上昇していないにもかかわらず、機構債の表面利率が上昇しています。その上昇をあえて住宅ローンの金利に反映させないというシナリオです。
8月の機構債の表面利率と9月の【フラット35】の金利差は、前述のとおり0.19ポイントでした。9月の機構債の表面利率が2.12%なので、仮にマイナス幅を0.19ポイントとすると10月の【フラット35】の金利は1.93%になるというシナリオです。
【フラット35】の金利抑制は、日銀がマイナス金利政策を解除した2024年3月以降も続いていました。しかし、機構債の利率を下回る水準をつけたのは、2025年6月が初めてです。
この背景には、住宅金融支援機構は非営利の独立行政法人であり、国の政策的役割を担っているという特性があります。しかし、営利を目的としていない住宅金融支援機構といえども、このような状態を永続的に続けられるものではありません。
将来的には、金利ある世界への過渡期に限定した、ある種のボーナス期だったと振り返ることになるかもしれませんね。
住宅ローンの【フラット35】(買取型)は、下図のように住宅金融支援機構が民間金融機関から債権を買い取って証券化し、機関投資家に債券市場を通じて機構債という形で販売するという仕組みになっています。
出典)フラット35「Qフラット35のしくみを教えてください。」
この機構債は毎月20日前後に表面利率を発表し募集します。投資家たちは機構債を安全資産という考えで購入するので、その表面利率は新発10年国債利回りに連動する傾向があります。
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