公開日:2026.07.22
離婚協議において、頭を悩ませる問題の一つがマイホームの扱いです。特に、住宅ローンが残っている家の場合は、金融機関との契約や権利関係の整理が複雑です。
大きな環境変化を迎える中で、「子どもの学校や生活環境に負担をかけたくない」「今の家にそのまま住み続けたい」と希望する人は多数存在しますが、夫婦間の話し合いだけで約束を済ませてしまうのは危険です。
この記事では、金融・不動産実務の観点から、離婚後も住宅ローンが残る家に妻が安心して住み続けるための具体的な選択肢と手続きを解説します。
【本記事の結論(要約)】

住宅ローンは原則として、契約者本人が居住することを契約・融資の条件にしています。離婚に伴い「誰のものか」「誰が住むのか」「誰が支払うのか」など所有者、居住者、債務者が変わることで、以下のようなリスクが生じます。
住宅ローン契約の前提として、金融機関は通常、住宅ローン契約者(債務者)が住宅に居住することを融資の条件としています。離婚に伴い、例えば住宅ローンの債務者である夫が家を出て妻が居住を続ける場合、「居住者(妻)」と「債務者(夫)」に不一致が生じます。
金融機関の承諾を得ずに債務者である夫が家を出て退去した場合、契約上の資金使途違反(契約者本人が居住していないこと)とみなされる可能性があり、この場合「期限の利益(分割で返済する権利)」を喪失します。結果として、金融機関から住宅ローン残債の一括返済を請求される恐れがあります。
また、財産分与を理由に、金融機関の事前承諾なく不動産の所有権(名義)を夫から妻へ変更(所有権移転登記)した場合も、同様に契約違反とみなされる恐れがあります。
夫婦共働き世帯で多く見られる「ペアローン」や収入合算による「連帯債務」「連帯保証」による住宅ローン契約は、離婚成立によって自動的に解除されることはありません。たとえ離婚協議書で「夫が妻の分も含め住宅ローン残債の全額を支払う」と合意したとしても、それはあくまで夫婦間の取り決めに過ぎず、金融機関に対する支払い義務は存続します。
例えば夫の返済が滞った場合、金融機関は連帯債務者や連帯保証人である妻に対して督促を行います。最終的に支払いができなければ最悪の場合、不動産は競売にかけられ、退去を迫られる恐れがあります。さらに、不動産売却後も金融機関に債務が残った場合は返済義務を負い続けることになります。
離婚後も債務者ではない妻が家に住み続けるための具体的な方法を検討する前に、まずは客観的な事実に基づいた現状把握が不可欠です。以下3つの確認事項を正確に把握することが、具体的な手続きの起点となります。
対象不動産の「登記事項証明書(登記簿謄本)」と、住宅ローンの契約書「金銭消費貸借契約書」を確認し、家とローンの権利関係を特定します。具体的には以下の3点を確認します。
これらの権利関係を特定することで、夫との合意が必須となる手続きの範囲や、妻単独での各種手続きの範囲が明確になり、その後の金融機関や弁護士への相談を円滑に進めることができます。
連帯保証人・連帯債務者について、詳しくは以下の関連記事で解説しています。
金融機関から送付される「返済予定表」や、インターネットバンキングの契約者専用ページなどを参照し、夫婦の現在の住宅ローン残債を正確に把握します。
加えて、ボーナス払いの有無や、滞納による遅延損害金が発生していないかの確認も必須です。ボーナス払いの有無は月々の実質的な返済負担額を把握するために不可欠な情報です。また、遅延損害金が発生している(延滞履歴がある)場合、他金融機関での借換審査においてもマイナス要因となります。
お住まいの家の現在の不動産価値を事前に把握します。複数の不動産会社などに査定を依頼し、実勢価格(実際に売却が見込まれる価格)の目安を把握します。この「現在の不動産価値」と前述の「現在の住宅ローン残債」の差額が、のちの財産分与や選択肢の検討における重要な判断基準となります。
前述で把握した「不動産価値」と「住宅ローン残債」のバランスによって、対象物件である家は「アンダーローン」と「オーバーローン」状態の2つに分類され、財産分与における取り扱いが根本的に異なります。
アンダーローンとは、仮に現在の家を売却すれば住宅ローン残債を完済でき、手元に資金が残る状態です。
<アンダーローンのイメージ図>

この「含み益(売却益)」は夫婦の共有財産とみなされ、財産分与の対象となります。財産分与には以下のような方法(例)があります。
オーバーローンとは、家を売却しても住宅ローン残債を完済できず、含み損が残る状態です。

実務上の財産分与の計算において、オーバーローンの含み損分は、預貯金や生命保険の解約返戻金といった他のプラスの資産・財産と通算して全体の財産額を算出します(通算説)。
住宅ローンや不動産の所有権などの複雑な問題を放置し、「夫が家を出てローンを支払い続ける代わりに、養育費や慰謝料は請求しない」という解決策を考えるかもしれませんが、この選択はリスクを伴います。
そもそも養育費は「子どもの生活を保障するための独立した権利」であり、金融機関に対するローン債務とは性質が全く異なります。そのため、「住宅ローンを支払う代わりに養育費は支払わない」と合意したとしても、その効力が将来にわたって常に認められるとは限りません。
万が一、夫が住宅ローンの支払いを滞納して家が競売にかけられた場合、妻は住む家(場所)を失うと同時に、本来受け取るべきであった養育費すら受け取れない事態に直面することもあります。
※財産分与や養育費・慰謝料に関する取扱いは、個々の事情や財産状況によって異なります。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、具体的な事案については弁護士などの専門家にご相談ください。
ここからは、妻が家に住み続けるための3つの具体的な選択肢と、それぞれの条件、実行手順を解説します。
<居住継続のための3つの選択肢:「所有者・居住者・債務者」の状況整理>
| 所有者 | 居住者 | 債務者 | |
|---|---|---|---|
| 選択肢1:妻の単独名義化 | 妻 | 妻 | 妻 |
| 選択肢2:夫名義での賃貸借契約の締結 | 夫 | 妻 | 夫 |
| 選択肢3:リースバックの活用 | 第三者 | 妻 | なし |
※住宅ローンが夫単独名義だった場合を想定。
夫との権利関係のトラブルを防ぐためには、妻自身が単独で住宅ローンを借り換え、不動産の名義・所有権を妻単独に変更する選択肢があります。これにより所有者、居住者、債務者いずれも妻になります。
メリット:家に関する夫との権利関係・金銭的なつながりを断ち切ることができます。夫の経済状況の悪化に伴う住宅ローン返済の不払いや、それに伴う家の競売リスクを排除し、「妻自身の家」としての権利を盤石なものにできます。
注意点:妻自身に、単独で住宅ローンを組むだけの十分な信用力(収入実績や勤務実績、継続的な返済能力など)が求められます。金融機関の審査は厳格であり、希望通りの借入額とならないケースもあります。
必要条件:妻単独でのローン借換審査(収入基準・信用情報など)を通過すること。
実行手順:「不動産の所有権を移す契約」と「新たにお金を借りる契約」の2つを準備し、それらをワンセットとして同日に完了させる必要があります。
融資実行・一括返済・登記手続き
上記「1」と「2」の契約に基づく資金の移動と権利の移行を、すべて同日中に行います。
資金の移動:妻の口座に新規ローンの融資金が振り込まれ、その資金を用いて既存のローン(夫名義)の残債を一括返済します。
登記手続き:以下の3つの登記を同時に申請します。
※上記の手順は一般的な実務の流れを解説したものであり、すべてのケースで実行可能であることを保証するものではありません。ご自身の判断だけで進めず、事前に金融機関の窓口、および弁護士、司法書士、税理士などの専門家へ個別にご相談ください。
妻単独での住宅ローン審査の通過が困難な場合、所有権とローン名義を夫に残したまま、正式な賃貸借契約を締結して居住を継続する方法があります。この方法では、所有者および債務者は夫、居住者は妻になります。
メリット:妻が住宅ローン借入不可であっても、転居に伴う子どもの環境変化を回避できます。夫が賃貸借契約の可能な不動産投資ローンなどへ借り換えた上で、夫と妻の間で賃貸借契約を締結することで、居住権限の根拠を明確にできます。
ただし、夫が不動産投資ローンなどへ借り換えをしなかった場合や、賃貸借契約を締結せずに妻が居住を継続した場合は、以下のリスクがある点に注意が必要です。
注意すべき5つのリスク:
※契約中の住宅ローン規約や、お住まいの自治体の規定によって判断が異なることがあります。夫名義の家への居住を検討される際は、金融機関や弁護士などの専門家へご相談ください。
必要条件:夫が住宅ローンから不動産投資ローンなどの賃貸借契約が可能なローンへ借り換えた上で、夫と妻の間で賃貸借契約を締結すること。
実行手順:
なお、不動産投資ローンは居住を目的とする住宅ローンよりも金利が高い傾向にあり、住宅ローン控除の適用対象外ともなります。この方法は、夫側の借り換え手続きへの協力と経済的負担増の理解が必須となります。
妻が住宅ローンを組めず、夫との不動産賃貸借契約も不可能な場合の選択肢として、第三者に家を売却した上で賃借人としてその家で居住を継続する「リースバック」があります。リースバックを活用することで、所有者を第三者、居住者は妻となり、住宅ローンは完済することになります。
メリット:リースバックを取り扱う事業者(または投資家)に、夫婦双方の住宅ローン残債を上回る金額で売却することができれば、住宅ローンを完済することができます。不動産の売却と同時に賃貸借契約を締結するため、所有権は移転するものの、家賃を支払うことで今の家に住み続けられます。
留意点:リースバックは、一般的な不動産市場での相場よりも売却額が安くなる傾向があります。また、毎月の家賃負担が現在の住宅ローン返済額を上回ることがある点にも注意が必要です。
必要条件:売却額が住宅ローン残債を上回る「アンダーローン」の状態であり、売却による資金をもって住宅ローン残債を完済できること。
実行手順:
リースバックの活用においても、物件の所有権者である夫の合意と手続きへの協力が必須となります。
離婚と住宅ローンが絡む問題は、当事者同士の話し合いだけで解決することは困難です。スムーズに手続きを進めるためには、段階に応じて適切な専門家に相談することが大切です。
行動の起点となるのは、「家の現在の価値」を知ることです。まずは不動産会社に査定を依頼し、アンダーローンかオーバーローンかを把握するための材料を集めます。不動産価値を知ることが居住継続の選択肢を考えるスタートになります。
家の現在価値と住宅ローン残債が明確になった次の段階として、現在借り入れのある金融機関や新規借り換え候補となる金融機関へ相談します。「妻の単独名義で住宅ローンへの借り換えが可能か」「夫名義で不動産投資ローンなど(賃貸借)への借り換えが可能か」など、金融機関の審査基準と見解を確認し、現実的に実行可能な選択肢を絞り込みます。
実行可能な選択肢が見えた段階で、夫との具体的な財産分与や慰謝料、養育費の交渉に入ります。合意した内容を口約束や当事者間の念書で終わらせず、弁護士へ依頼し、必要に応じて法的な強制執行力を持つ「強制執行認諾文言付き公正証書(離婚協議書)」を作成するなどの対応を行うことで、将来の不払いトラブルなどへの備えになります。
離婚協議が成立し、金融機関との本契約(融資実行など)が完了するタイミングで、法務局にて不動産の名義変更を行います。所有権移転登記や抵当権抹消・設定の手続きは極めて専門的であるため、一般的には司法書士に代行を依頼し、確実な権利関係の移行を完了させます。
※上記は、一般的な進め方の一例です。離婚条件の調整が必要な場合などは、専門家への相談が先行することもあります。
離婚後も妻が現在の家に住み続けるためには、主に「妻の単独名義化」「夫名義での賃貸借契約締結」「リースバックの活用」という3つの選択肢が存在します。
どの選択肢が実現可能かは、現在の「不動産価値」と「住宅ローン残債」のバランス(アンダーかオーバーか)によって決まります。
そのため、まずは不動産査定による客観的な不動産価値の把握から第一歩を踏み出し、現在の資産バランスを明確にした上で、金融機関や弁護士・司法書士などの専門家に段階的に相談することで、ご自身と子どもの安全な生活基盤を確保してください。
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