働き方改革など、副業などの情報が増え、今まで会社員だった人も副業や独立開業などを考える方が増えてきているようです。特に事業として何かをやりたいと思う場合、最初に気になるのは資金面ではないでしょうか?
今回は、今まで会社員として勤めてきたが、今後は犬のしつけ教室を開いて、将来的にはトレーナーの育成やペットフードの販売なども展開していきたいと思う45歳のKさんの事例をご紹介します。
[ご相談者 Kさん]
45歳男性 現在は会社員。配偶者あり、子なし。
無類の犬好きで、大型犬・小型犬含めて3頭を飼っている。
自宅は近くに山もある郊外の一軒家。実家もそばにあって、犬を走らせる庭もある。
今後、自分のライフワークとして、犬のしつけ事業を展開したい。
Kさん: 会社への毎日の通勤時間が結構長く、このまま身体が疲弊するくらいなら、今のうちに、いつかやりたいと思っていた犬関係の仕事に切り替えていこうかと思うようになりました。一番心配なのは、事業を始めるにあたっての資金面です。預貯金は生活費にとっておきたいので、どこか少しでも資金調達できるところがあればと思っています。銀行はやっぱり厳しいのでしょうか?
FP吹田:そうですね。銀行の融資の審査基準は各行様々ですが、一般的に決算2期分など数年間の決算書をもとに黒字であることが前提になっています。その上で、収益性、成長性、安全性、そして返済能力を審査されるようですね。
Kさん: やっぱりそうですか。赤字決算では厳しいと聞いたことがありますが、そもそも、自分のような新規組はもっとハードルが高いですね。他には何か候補はありますでしょうか?
FP吹田:民間の銀行を補完する役目として、日本政策金融公庫の存在も知っておきましょう。これは、日本の中小企業・小規模事業者等を支援する公的機関なので、金利も安定的に固定金利がベースになっています。
Kさん: 公的機関なのは、ちょっと安心できそうですね。自分のような、これからという状況でも借りられるのでしょうか?
FP吹田:日本政策金融公庫にも、いくつかの融資の種類がありますが、今回は、新創業融資と新規開業資金の融資にフォーカスしてみましょう。新創業融資は、Kさんのように新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方が対象で、新規開業資金のほうも、新規事業を始める方や事業開始後約7年以内が対象となっています。ただ、どちらも事業に関して、一定要件を満たすことが求められています。
Kさん: 一定要件ですか?どんなことでしょうか?担保とか?
FP吹田:担保は原則不要なのですが、雇用の創出を伴う事業など雇用創出等の条件と、新創業融資では自己資金要件も明記されています。自己資金は1割以上必要とされていて、実際は平均3割くらいが目安になっているようです。
Kさん: なるほど。自分の事業で人をすぐに雇用できるかなど、よく考えないといけませんね。実際どのくらい融資されているのでしょうか?
FP吹田:規定では上限数千万円と高額にみえますが、実際は、300万円~コンサルタントを通じて申し込んで1000万円台くらいと言われています。
Kさん: え?コンサルタントに頼むのですか?
FP吹田:一般的に、創業時に無担保融資で1000万円を上回る借入を行うことは、現実的にはなかなか難しいと言われています。特に公庫の創業融資が通る確率は1~2割と言う意見もあり、審査が通りやすい事業計画などの書類作成、更に面接のコツなど、コンサルタントに依頼する方もいるようですよ。
Kさん: なるほど…。簡単にはいかなそうですね。コンサルタントの報酬も発生するでしょうし。他には資金調達できる手段ってありそうでしょうか?
FP吹田:そうですね。事業用と限定されていないのですが、不動産を担保にして融資をしてもらう方法があります。
Kさん: 不動産ですか?それは自分の不動産でないといけないのでしょうか?
FP吹田:いえ、ご本人名義のみでなく、ご家族名義の不動産でも可能で、中にはローン返済中でも可能なところもあります。
Kさん: それは可能性が出てきました。法人化する前に個人でも申し込めるのでしょうか?
FP吹田:はい、不動産の担保があるので、返済能力について審査が通れば、銀行や日本政策金融公庫より緩めといえそうです。
Kさん: なるほど。どのくらい融資が可能かは、担保となる不動産しだいですよね。
FP吹田:おっしゃる通りです。不動産担保ローンの融資可能額は、担保物件の評価額の8~7割程度と言われています。
Kさん: わかりました。自宅の土地や、実家の土地もあるので、検討してみようと思います。ちなみに費用などはかかるのでしょうか?
FP吹田:そうですね。担保設定による融資なので、住宅ローンのように、抵当権設定費用や収入印紙、更に不動産鑑定費用や融資事務手数料がかかると思っておいてください。
Kさん: なるほど。専門のコンサルタントに頼まなくてもいいのがちょっと気楽です。
FP吹田:気楽と言っても、安易に借りられるだけ借りてしまうと、その後の返済が負担になってしまうこともあるので、やはり事業計画を立てて、返済できる内容で検討することが大事ですよ。なお、民間の銀行・日本政策金融公庫・そして不動産担保ローンの特徴や違いを一覧にしてみましたので、ご参考にしてください。
事業資金の調達に使える手段(これから事業を始める場合)
不動産担保ローン | 日本政策金融公庫 | 民間の金融機関 | |
---|---|---|---|
新創業融資・ 新規開業資金 |
事業用融資 | ||
特徴 | 不動産を担保にし、使途も比較的自由な融資 | 一般の金融機関が行う金融を補完することを目的に融資を行う | 事業の実績や返済能力を審査し一定の範囲内の融資を行う |
借入要件は? | ◎ 比較的緩い |
△ 一定の要件あり |
△ 一定の要件あり |
申込者の要件は? | 個人でも法人でも | 個人でも法人でも(個人事業の確定申告書の提出必須) | 一般的に一定(2期など)以上の業歴や債務超過でない法人 |
自己資金は? | 状況しだい | 融資額の1割以上、平均は3割程度 | ある程度必要 |
担保は? | 家族や本人名義の不動産も可能(ローン返済中でも) | 新創業融資は原則不要 新規開業資金は応相談 |
身内の名義の不動産では厳しい |
保証人は? | 原則不要(担保提供者など保証人を必要とする場合もある) | 原則不要 | 代表者の保証は必要 |
借入可能目安は? | 物件の評価額の8~7割程度 | 上限は新創業融資3000万円、新規開業融資7200万円(実際は平均300万~1000万円台が多い) | 平均300万~コンサルタント経由で1000万円台など |
2019年10月筆者調べ
◯ メリット
・公的な融資なので安定的な固定金利
・担保や保証人は原則不要
△ デメリット
・新規事業の融資には、雇用創出などの要件や自己資金要件を満たすことが求められる
・審査が通り、1000万円台の借入を実現するには、コンサルタントに頼むことが必要になる場合も
◯ メリット
・不動産を担保にするので、法人個人など事業に対する要件が比較的緩い
・担保物件の対象が幅広く、その評価額の8~7割程度まで借入可能
△ デメリット
・もし、返済できなくなった場合、担保とした不動産を失う
執筆者紹介