相続不動産の売却にかかる税金とその税制特例について解説

更新日: / 公開日:2021.06.02

相続で取得した不動産に住む予定がない場合は、売却を検討することもあるでしょう。相続不動産を売却して現金化すれば、複数の相続人がいても財産を分けやすくなります。

相続不動産の売却には税金がかかりますが、税制特例を利用すれば節税できるかもしれません。この記事では、相続不動産の売却にかかる税金と税制特例、売却時の注意点について解説します。

相続不動産の売却でかかる税金の種類

相続不動産の売却でかかる税金は、相続時に支払う「登録免許税」と売却時に支払う「印紙税」「譲渡所得税」の3つです。それぞれの内容を確認していきましょう。

登録免許税

登録免許税とは、相続登記の際にかかる税金です。相続登記では、相続した不動産の所有権を被相続人から相続人へ変更する手続きをします。被相続人の名義のままでは不動産を売却できないため、売却前に所有権を相続人へ変更しておく必要があります。

登録免許税の税額は「不動産価格×0.4%(1,000分の4)」です。不動産価格は、市町村役場で管理している固定資産課税台帳の価格となります。

登録免許税は、原則として現金で法務局に納付しますが、オンライン申請なら電子納付も可能です。なお、相続登記を自身で行わずに司法書士に依頼する場合、報酬も含めて司法書士に支払うのが一般的です。

出典)国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」

印紙税

印紙税とは、不動産売買契約書に貼付する印紙のことです。契約金額によって、印紙税額は以下のように異なります。

印紙税額一覧表

契約金額印紙税額軽減税額
100万円超 500万円以下2,000円1,000円
500万円超 1,000万円以下10,000円5,000円
1,000万円超 5,000万円以下20,000円10,000円
5,000万円超 1億円以下60,000円30,000円
1億円超 5億円以下100,000円60,000円

※2014年(平成26年)4月1日~2022年(令和4年)3月31日に作成される「不動産の譲渡に関する契約書」については税額が軽減されています。

たとえば、相続不動産を3,000万円で売却する場合、印紙税額は2万円(軽減税額1万円)となります。

出典)国税庁「印紙税額一覧表(令和2年(2020年)4月現在)」

譲渡所得税

譲渡所得税とは、不動産の売却益(譲渡所得)に対して課税される税金です。相続不動産を売却して譲渡所得が生じる場合は、所得税や住民税を納める必要があります。譲渡所得は以下の計算式で求められます。

譲渡所得=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額

譲渡価額は、不動産の売却代金です。

取得費は、売却する不動産を取得するためにかかった費用のことです。相続不動産の場合、被相続人がその不動産を買い入れたときの購入代金や仲介手数料などの合計額となります。

建物については、減価償却費を控除した後の金額です。また、相続で払った登記費用も取得費に含まれます。取得費がわからない場合は、売却代金の5%相当額を取得費とすることも可能です。

譲渡費用には、相続不動産を売却するときに払う仲介手数料などが含まれます。特別控除額は、税制特例が適用されるときに控除できる金額です(後ほど詳しく説明します)。

譲渡所得の税額は、譲渡所得に税率をかけて計算します。税率は、不動産の所有期間に応じて以下のように異なります。

  • 長期譲渡所得:20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)
  • 短期譲渡所得:39.63%(所得税30%、復興特別所得税0.63%、住民税9%)
  • ※復興特別所得税の税率は2.1%で、これを所得税に乗じた値となります

不動産を売却した年の1月1日現在で所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」、5年以下の場合は「短期譲渡所得」となります。相続不動産の場合、被相続人の取得時期がそのまま相続人に引き継がれるため、被相続人の取得日から所有期間を判定します。

出典)
国税庁「土地や建物を売ったとき」
国税庁「No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」

相続不動産を売却するときの税制特例

相続不動産の売却では、税制特例を利用すると譲渡所得税の節税になります。ここでは、相続不動産の売却で適用される税制特例を3つ紹介します。税制特例の適用を受けるには確定申告が必要です。

取得費加算の特例

「取得費加算の特例」とは、売却する相続不動産に対する相続税を取得費に加算できる特例です。取得費が増えると課税所得が減るので、譲渡所得税の節税になります。

本特例の適用を受けるには、相続税申告期限の翌日以降3年以内(相続開始から3年10ヵ月以内)に売却する必要があります。

出典)国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」

相続空き家の3,000万円特別控除

「相続空き家の3,000万円特別控除」とは、相続した空き家を売却するときに、一定の要件を満たすと最高3,000万円の特別控除が適用される特例です。課税所得を大きく減らせるので、譲渡所得税の節税になります。

「1981年(昭和56年)5月31日以前に建築」「マンション(区分所有建物)不可」などの条件があるため、適用対象となる建物は限定されます。また、取得費加算の特例とは併用できない点にも注意が必要です。

出典)国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」

居住用財産の3,000万円特別控除

「居住用財産の3,000万円特別控除」とは、マイホームを売却したときに、一定の要件を満たすと最高3000万円の特別控除が適用される特例です。相続した不動産に相続人が居住していた場合は、本特例の適用を受けられます。

以前に住んでいた場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があります。本特例は、取得費加算の特例との併用が可能です。

出典)国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」

相続不動産の売却における注意点

相続不動産の売却における注意点は以下2つです。

確定申告が必要

相続不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合は、確定申告をして譲渡所得税を納めなくてはなりません。原則として、相続不動産を売却した翌年の2月16日~3月15日が確定申告期間となります。

期限までに確定申告をしないと無申告加算税や延滞税が課される可能性があるので、手続きを忘れないようにしましょう。

なお、税制特例を考慮して計算した結果、譲渡所得がマイナスとなって譲渡所得税がかからない場合も確定申告は必要です。たとえ要件を満たしていても、確定申告をしないと税制特例は適用されないので注意が必要です。

分割方法によって支払う税金が変わる

相続不動産の分割方法は、「代償分割」と「換価分割」の2つがあります。

  • 代償分割:特定の相続人が不動産を相続・売却し、他の相続人に代償金を支払う方法
  • 換価分割:相続人全員で不動産を相続・売却し、その売却代金を分割する方法

どちらを選択するかによって、譲渡所得税額が変わることがあり、各種税金の精算方法も変わってきます。税理士などの専門家に相談した上で、どちらを選ぶか判断するといいでしょう。

相続不動産売却後の確定申告の流れ

上記で説明したとおり、相続不動産を売却して利益が出た場合は、確定申告しなければなりません。ここでは確定申告の流れをご紹介します。

STEP1 必要書類の用意

まずは、確定申告に必要な書類の用意をします。基本的な必要書類は以下のとおりです。

  • 確定申告書B様式
  • 申告書第三表(分離課税用)
  • 譲渡所得の内訳書
  • 登記事項証明書
  • 不動産売買契約書(またはその写し)
  • 各種手数料の領収書や納税を証明する書類(またはその写し)

上記の他、各種特例の適用を受ける場合は、特例に応じた書類を別途用意する必要があります。

STEP2 譲渡所得を計算する

次に、譲渡所得を計算します。計算式は以下のとおりです。

譲渡所得=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額

STEP3 申告書類の記入

次に、申告書類の記入をします。申告書類の記入については、税務署の窓口や電話で相談すると、書き方を教えてもらうことができます。また、どうしても難しい場合は、税理士などに依頼することも検討してみましょう。

STEP4 税務署に書類を提出する・e-Taxで申告する

申告書類の記入を終えたら、税務署に提出しましょう。e-Taxを利用することで、税務署に書類を持参したり郵送しなくても、インターネットを通して確定申告が可能です。

出典)国税庁 e-Taxホームページ

まとめ

相続不動産の売却では税金がかかりますが、税制特例をうまく利用すれば節税できる可能性があります。自分で確定申告をしたり、特例が適用されるか判断したりするのが難しい場合は、税理士や不動産会社などの専門家に相談しましょう。

執筆者紹介

「住まいとお金の知恵袋」編集部
金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。

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