公開日:2022.10.12
「相続登記が行われない」などの理由で、所有者が分からない土地が増えています。この所有者不明土地問題を解消するために、2つの法律が成立して不動産のルールが見直されました。
罰則規定も設けられているため、変更点を理解しておくことが大切です。この記事では、所有者不明土地を解消するために成立した2つの法律のポイントを解説します。
所有者不明土地とは、以下のいずれかの状態になっている土地のことです。
国土交通省の調査によると、全国の土地のうち所有者不明土地の割合は24%で、その面積は九州本島の大きさに匹敵する規模に拡大しています。
出典)法務省民事局「民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要」
所有者不明土地の問題点は下記のとおりです。
転居や相続の際に登記(名義変更)が行われず、長期間そのままになっていると、所有者の特定が困難になります。所有者の探索自体にコストがかかるほか、公共事業や民間取引における土地の利活用が阻害されます。また、土地の管理不全により、近隣の土地へ悪影響を及ぼす恐れもあります。
高齢化の進展による死亡者数の増加などによって、早期に対策を講じないと所有者不明土地問題が深刻化する恐れがあります。
所有者不明土地の解消に向けて、2021年(令和3年)4月21日に以下3つの軸から法制の見直しが行われることとなりました。
不動産登記制度の見直しと相続土地国庫帰属法の創設は「所有者不明土地の発生予防」、土地利用に関する民法の見直しは「土地利用の円滑化」を目的としています。
ここでは、不動産登記制度見直しのポイントを紹介します。
相続登記はこれまで任意でしたが、所有者不明土地の発生予防のために申請が義務化されました。施行日は2024年(令和6年)4月1日です。申請義務に関するルールは以下2つです。
いずれも正当な理由なく義務に違反した場合、10万円以下の過料の適用対象となります。
相続人が登記名義人の法定相続人である旨を申し出ることで、相続登記の申請義務が履行できる「相続人申告登記」が新設されました。2024年(令和6年)4月1日に施行されます。
現在は、法定相続分の割合を確定するために、すべての相続人を把握できる資料を準備しなくてはなりません。一方、相続人申告登記では、自分が相続人であることがわかる書類(戸籍謄本など)を提出するだけで済みます。1人の相続人が、相続人全員分をまとめて申し出ることも可能です。そのため、簡易に相続登記の申請義務の履行が可能となります。
ただし、あくまでも相続登記の申請義務を履行するための登記制度であり、遺産分割が成立した場合は従来どおりの相続登記が必要です。
現在、住所等変更登記は任意であり、行われないことが多いのが現状です。所有者不明土地の発生要因の1つとなっているため、登記申請が義務化されます。2026年(令和8年)4月までに施行される予定です。
今後、登記簿上の所有者は、その住所等を変更した日から2年以内に住所等変更登記の申請をしなくてはなりません。正当な理由なしに義務に違反した場合は、5万円以下の過料の適用対象となります。
続いて、土地利用に関する民法見直しのポイントを紹介します。
所有者不明・管理不全状態の土地・建物を対象に、個々の土地・建物の管理特化した財産管理制度が創設されました。施行日は2023年(令和5年)4月1日です。
調査しても所有者やその所在が不明な土地・建物については、利害関係人が地方裁判所に申し立てることにより、弁護士や司法書士などの中から管理人を選任してもらえます。裁判所の許可を得れば、管理人は所有者不明土地の売却等が可能です。
所有者の管理が不適当で、他人の権利・法的利益が侵害される(またはその恐れのある)土地・建物については、利害関係人が地方裁判所に申し立てることにより、管理人を選任してもらえます。これによって、補修工事、ごみ・害虫の駆除などを管理人に依頼できるようになります。
共有物の利用や共有関係の解消がしやすくなるように、共有制度全般について見直されました。2023年(令和5年)4月1日に施行されます。共有物の利用については、共有物の軽微な変更に必要な要件が緩和されました。全員の同意は不要で、持分の過半数で決定できるようになります。
所在不明な共有者がいる場合は、裁判所の許可を得れば、管理行為や変更行為が可能となります。管理行為は残りの共有者の持分の過半数、変更行為は残りの共有者全員の同意が必要です。
共有関係の解消については、所在不明の共有者の持分の取得、その持分を含めた不動産全体の第三者への譲渡が可能となります。その際は、持分に応じた時価相当額の金銭供託が必要です。
上記のほかに、以下2つのルール変更が予定されています。
※いずれも2023年(令和5年)4月1日施行
被相続人の死亡から10年経過後の遺産分割は、原則として具体的相続分を考慮せず、法定相続分または指定相続分によって画一的に行うことになります。相隣関係については、「隣地の所有者やその所在が分からない場合は隣地が使用できる」などの仕組みが設けられました。
出典)法務省民事局「所有者不明土地の解消に向けて、不動産に関するルールが大きく変わります。P5~7」
相続または遺贈により土地の所有権を取得した相続人が、土地を手放して国庫に帰属させることを可能にする「相続土地国庫帰属制度」が創設されました。今後は、相続で取得して管理や処分に困っている土地を国に引き取ってもらえるようになります。
相続土地国庫帰属法の詳細は、以下の記事で詳しく解説しています。
不動産登記法・土地利用に関する民法の改正、相続土地国庫帰属法の創設によって、不動産ルールが大幅に変更されます。特に相続登記や住所等変更登記の申請義務化は、違反すると過料の対象となるため要注意です。不動産を取得・売却する可能性がある場合は、今回の不動産ルール変更の内容を理解しておきましょう。
執筆者紹介
次に読むべき記事
不動産を相続することになった場合、さまざまな手続きが必要になります。不動産相続では、相続税や遺産分割で、トラブルが発生することもあります。不動産相続をスムーズに進めるには、手続きの流れを理解...