2023.11.01

マンション長寿命化促進税制とは?概要やメリットを解説

公開日:2023.11.01

令和5年度税制改正の大綱にて、マンション長寿命化促進税制の創設が決定しました。マンションを適切に管理し、修繕積立金の確保や長寿命化工事を実施することで、区分所有者の固定資産税が軽減されます。ただし、制度の適用を受けるにはいくつかの条件を満たす必要があるため、制度について理解を深めておくことが大切です。

この記事では、マンション長寿命化促進税制の概要やメリット、手続きの流れを解説します。

マンション長寿命化促進税制とは?

マンション長寿命化促進税制とは、一定の条件を満たしたマンションが長寿命化工事を実施した場合に、その翌年度の固定資産税が減額される制度です。区分所有者が支払う工事完了翌年度の固定資産税(建物部分のみ)が、1/2~1/6の範囲内で減額されます。減額割合は、各自治体の条例によって決定されます。

「長寿命化工事を実施した場合」とは、以下3つの工事を全て実施した状態をいいます。

  • 外壁塗装等工事
  • 床防水工事
  • 屋根防水工事

なお、マンション長寿命化促進税制の適用を受ける条件については、この後詳しく解説します。

制度創設の目的と背景

多くの高経年マンションでは、管理計画期間の不足や推定修繕工事項目の漏れなどから、修繕積立金が不足しています。国土交通省の「平成30年度マンション総合調査」によれば、現在の積立金残高が計画に対して不足しているマンションは34.8%です。

修繕積立金が不足していることがわかっていても、修繕積立金の引き上げや長寿命化工事の実施は、合意形成が難しいです。一方で、長寿命化工事が適切に行われなかった場合、外壁がはがれて廃墟化が進むなど、周囲に悪影響を与える恐れがあります。

そこで、必要な修繕積立金の確保や適切な長寿命化工事の実施について、所有者の合意につなげるために、マンション長寿命化促進税制が創設されました。

出典)国土交通省「平成30年度マンション総合調査」

マンション長寿命化促進税制の適用条件

マンション長寿命化促進税制の適用を受けるには、マンションと管理計画の面で、条件を満たす必要があります。

マンションの条件

まず、マンションが以下の条件を満たす必要があります。

  1. 築後20年以上が経過している
  2. 総戸数が10戸以上
  3. 過去に長寿命化工事を1回以上実施している

これらの条件を満たすマンションでないと、そもそもマンション長寿命化促進税制の適用対象となりません。

管理計画の条件

上述の条件を満たすマンションであることに加え、管理計画を作成し、適切な管理がされている必要があります。具体的には、以下のいずれかの手段で、管理計画の認定を受けている必要があります。

①マンション管理計画認定制度を利用する

マンション管理計画認定制度を利用することで、管理計画が一定の基準を満たしていると自治会から認定を受けることができます。マンション管理適正化法に基づき、2022年4月からマンション管理計画認定制度が開始されました。

マンション管理計画認定制度の認定を受けたうえで、令和3年9月1日以降に修繕積立金の額を管理計画の認定基準まで引き上げることが、長寿命化促進税制の適用条件です。具体的な金額は以下のとおりです。

「修繕積立金ガイドライン」に示す修繕積立金の額の目安の水準の下限値

出典)国土交通省「マンション長寿命化促進税制の要件」

②自治体から助言または指導を受ける

マンション管理計画認定制度を利用せず、自治体からの助言または指導を受けたうえで、以下の基準を満たすように長期修繕計画を見直す必要があります。

助言又は指導を受けた管理組合の管理者等に係るマンションが特例を受けるための長期修繕計画の基準等

なお、修繕積立金の基準額は以下のとおり定められています。

「助言・指導及び勧告に関するガイドライン」に示す修繕積立金の基準額

出典)国土交通省「マンション長寿命化促進税制の要件」

2度目の長寿命化工事の条件

上述のマンションおよび管理計画の条件を満たしたうえで、2度目の長寿命化工事を行い、2023年(令和5年)4月1日~2025年(令和7年)3月31日の期間内に完了させる必要があります。

工事期間については、今後この期間が延長される可能性ないとは言い切れません。どうしても2度目の長寿命化工事を期間内に実施できない場合でも、引き続き動向に注目しておくといいでしょう。

マンション長寿命化促進税制のメリット

マンション長寿命化推進税制には、以下のようなメリットがあります。

固定資産税が減額される

上述した条件を満たせば、各区分所有者が翌年度に支払う固定資産税(建物部分のみ)が減額されるため、税負担の軽減が期待できます。なお、減額割合は1/2~1/6の範囲内で、自治体によって異なります。

マンション価値の維持・向上につながる

必要な修繕積立金を確保し、長寿命化工事を行うことで、良好な住環境が保たれます。結果として、マンションの資産価値の向上につながり、売却がしやすくなる可能性があります。

マンション管理組合の負担軽減が期待できる

修繕積立金の引き上げや長寿命化工事の実施は、区分所有者の金銭的な負担が増えるため、話し合いがうまく進まないことがあります。「固定資産税の減額」という共通のメリットによって合意形成が容易になれば、マンション管理組合の負担軽減が期待できます。

マンション長寿命化促進税制の注意点

マンション長寿命化促進税制には、以下のような注意点もあります。

  1. 管理計画の認定が必要になる
  2. 長寿命化工事の実施には費用がかかる

管理計画認定マンションとして手続きをする場合は、一定の基準を満たす管理計画を策定し、自治体から認定を受けなくてはなりません。また、修繕積立金の額の引き上げも必要です。助言や指導を受ける場合は、長期修繕計画が一定の基準に適合することが要件となっています。

長寿命化工事については、「外壁塗装等工事」「床防水工事」「屋根防水工事」の3つを全て行わなくてはなりません。固定資産税の減額だけでなく、かかる工事費用も考慮したうえで、適用を受けるか判断することが大切です。

マンション長寿命化促進税制を受けるための手続き

マンション長寿命化促進税制を受ける場合は、以下の流れで手続きを進めます。

  1. 修繕積立金の額を引き上げる
  2. マンションの管理計画の認定を取得する
  3. 長寿命化工事を実施する
  4. 工事完了日から3ヵ月以内に市町村へ減税措置を申告する

各区分所有者が市町村へ申告する際は、以下の書類が必要です。

  • 固定資産税減額申告書
  • 総戸数を確認できる書類
  • 修繕積立金引上証明書(写し可)
  • 管理計画の認定通知書(写し可)
  • 過去工事証明書(写し可)
  • 大規模修繕等証明書(写し可)

必要書類については、管理組合の管理者が取得し、各区分所有者に配布することが想定されています。

まとめ

マンション長寿命化促進税制は固定資産税の減額だけでなく、マンション価値の維持や向上、管理組合の負担軽減も期待できます。ただし、管理計画の認定取得などの要件を満たす必要があるため、費用対効果を考慮して適用を受けるか判断しましょう。

執筆者紹介

「住まいとお金の知恵袋」編集部
金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。

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