公開日:2026.02.04
地震などの自然災害で住宅が損壊した際、被災者生活再建支援金などの公的支援を受けるために欠かせないのが「罹災(りさい)証明書」です。
被災時に「地震保険金を請求する際にも、罹災証明書が必要なのでは?」と疑問に思う方も多いでしょう。実は、自治体が行う罹災証明書発行のための「被害認定調査」と保険会社が行う地震保険の「損害調査」とは、目的や基準が大きく異なります。この違いを正しく理解していないと、いざという時に「思ったより保険金が少なくて生活再建が難しい」といった事態を招きかねません。
この記事では、罹災証明書の定義や地震保険金請求との関係、具体的な発行手続きの手順を整理して解説します。さらに、地震保険の補償不足を補い、確実に住まいを守るための備えについても詳しく紹介します。

まずは罹災証明書の役割と、地震保険を請求する際に罹災証明書が必要になるかどうかを整理していきましょう。
罹災証明書とは、地震や風水害などの自然災害によって住宅が被害を受けた際、その被害の程度を自治体が認定・証明する書類です。
市区町村の職員などが現地調査を行い、被害状況に応じて「全壊」から「一部損壊」までの6区分で判定されます。この判定結果は、被災者生活再建支援金の受給や義援金の配分、税金の減免など、公的な支援を受けるための「共通の尺度」として用いられます。
■災害の被害認定基準(令和3年6月24日付府政防670号内閣府政策統括官(防災担当))
住家の主要な構成要素(屋根、壁、柱など)の損害が、住家全体に占める割合によって以下のように区分されます。
| 損害の区分 | 損害基準判定(住家の主要な構成要素の経済的被害の住家全体に占める損害割合) |
|---|---|
| 全壊 | 50%以上 |
| 大規模半壊 | 40%以上50%未満 |
| 中規模半壊 | 30%以上40%未満 |
| 半壊 | 20%以上30%未満 |
| 準半壊 | 10%以上20%未満 |
| 準半壊に至らない(一部損壊) | 10%未満 |
出典)内閣府「災害に係る住家の被害認定」
罹災証明書と混同されやすいものに「被災証明書」があります。最大の違いは、「証明の対象」が住居(家)であるかどうかです。
| 書類名称 | 主な対象物 | 判定の有無 |
|---|---|---|
| 罹災証明書 | 現に居住している住宅(持ち家・借家) | 「全壊」「半壊」などの判定あり |
| 被災証明書 | 住宅以外の建物(店舗、空き家)、工作物(塀、門扉)、動産(車、家財) | 被災した事実のみを証明(判定なし) |
地震保険金を請求する際、罹災証明書の提出は原則として不要です。地震保険は損害保険会社が独自の基準で調査を行うため、自治体の調査結果を待たずに請求手続きを進めることができます。
ただし、大規模な災害などで現地調査が困難な場合に限り、保険会社から参考資料として提示を求められたり、罹災証明書を調査の代わり(援用)として活用したりするケースがあります。
地震保険と罹災証明書では、損害を判定する際の査定対象や範囲、認定基準などが大きく異なります。そのため、「罹災証明書は半壊なのに、地震保険は一部損(または支払いなし)だった」というズレが生じることがあります。
地震保険の査定対象は、建物の骨組みにあたる「主要構造部」に限定されています。主要構造部とは、建築基準法等で定められた以下の部分を指します。
たとえ内装や設備がボロボロになっても、基礎や柱といった骨組みに被害がなければ、地震保険の判定は低くなる仕組みです。なお、津波による浸水被害の場合は、例外的に「浸水の高さ」に基づいて損害を判定します。
罹災証明書は、主要構造部だけでなく、非主要構造部を含めた「住家全体」の損害を査定します。
内閣府の指針に基づき、屋根や柱などの部位ごとに細かく損害額(経済的被害)を算出し、それらを合算して建物全体の被害割合を決定します。地震保険では無視される「建具(窓・ドア)」「給排水設備」「内装」なども判定に含まれるため、地震保険よりも範囲が広くなります。
地震保険と罹災証明での査定対象を一覧にすると、以下のようになります。
| 査定対象(例) | 地震保険 | 罹災証明書 | ||
|---|---|---|---|---|
| 主要構造部 | 柱 | 〇 | 〇 | |
| 梁 | 〇 | 〇 | ||
| 屋根 | 〇 | 〇 | ||
| 耐力壁 | 〇 | 〇 | ||
| 基礎 | 〇 | 〇 | ||
| 非主要構造部 | 雑壁 | × | 〇 | |
| 外部仕上材 | × | 〇 | ||
| 建具 | ドア | × | 〇 | |
| 扉 | × | 〇 | ||
| サッシ | × | 〇 | ||
| 設備 | バルコニー | × | 〇 | |
| エレベーター | × | 〇 | ||
| 受水槽設備 | × | 〇 | ||
| 給排水設備 | × | 〇 | ||
| 外部階段 | × | 〇 | ||
出典)財務省「地震保険制度の概要」および内閣府「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」を基に筆者作成
マンションの場合、「どこを見て判定するか」のルールが根本的に異なるため、戸建て以上にズレが生じやすくなります。
個人の専有部ではなく、マンション全体(柱・梁など)の共用部の被害状況で判定が決まります。そのため、部屋の内装がボロボロでも、建物の骨組みが無事なら「支払対象外」となるケースが一般的です。
生活再建が目的のため、建物の構造だけでなく、エントランスの破損やライフラインの状況など、マンション全体の「居住機能」も加味して判定されます。
このように「建物としては丈夫(保険は対象外)」だが「生活には支障がある(罹災証明書は認定)」というケースが発生するため、結果に大きな差が出ることがあるのです。
罹災証明書は自動的に送られてくるものではなく、被災者自身が自治体に申請する必要があります。
住宅のある市区町村の担当窓口(防災課や資産税課など)で申請します。 近年は「オンライン申請」を導入する自治体が増えており、マイナポータルなどを通じてスマートフォンやパソコンから手続きが可能です。発行手数料は原則として無料です。
申請ができるのは、被害を受けた住宅の所有者や居住者、またはその代理人です。手続きには以下の書類を用意しましょう。
出典)
・政府広報オンライン「住まいが被害を受けたとき 最初にすること」
・マイナポータル「【災害】罹災証明書の発行申請」
発行までの期間は通常1週間〜数週間程度です。ただし、大規模な災害で調査件数が多い場合は、1か月以上かかることもあります。
正確な被害認定を受けるためには、片付けや修理を始める前に現場を記録することが不可欠です。自治体調査の前に修繕してしまうと、本来の被害区分が認められない恐れがあります。写真は引きの写真と寄りの写真を撮っておくと安心です。
地震保険は被災後の生活を支える大切な制度ですが、実は「家を元通りに建て直す」ためのものではありません。ここでは補償の限界と、それを補うための選択肢を解説します。
地震保険で支払われる保険金には、法律に基づいた独自のルールがあります。
まず、設定できる保険金額は、主契約である火災保険の30%〜50%(建物は最大5,000万円、家財は最大1,000万円)と決められています。つまり、最大でも火災保険の半分までしか補償されません。
また、実際の支払額は以下の4つの損害区分に応じて機械的に決まります。
| 損害の区分 | 支払われる保険金(契約金額に対して) |
|---|---|
| 全損 | 100% |
| 大半損 | 60% |
| 小半損 | 30% |
| 一部損 | 5% |
このように、地震保険だけでは建物の再建費用や住宅ローンの完済には不足するケースが多いため、不足分をどう補うかが重要になります。
地震保険の不足分をカバーする手段は、大きく2つに分けられます。ひとつは既存の地震保険に「特約」として上乗せする方法、もう一つは「単独」で加入できる保険を利用する方法です。
これらは、保険金の支払い基準によって以下の3つのタイプに分類できます。特に、記事前半で解説した「罹災証明書」の判定結果がそのまま支払いの根拠となるタイプがある点は知っておくとよいでしょう。
| 商品タイプ(分類) | 支払いの基準 | 罹災証明書 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 上乗せ特約(損保会社の特約など) | 保険会社の損害調査 | 不要 | 地震保険に上乗せする特約。保険会社の査定結果に連動して支払われる。 |
| 震度連動型 | 観測された震度 | 不要 | 地震の震度に応じて、定額の保険金が支払われるため、受け取りが速い。 |
| 罹災証明書連動型 | 罹災証明書の認定 | 必要 | 保険会社の調査とは異なる、行政の被害認定に基づいて保険金が支払われる。 |
出典)主要な損害保険会社および少額短期保険会社の商品概要を基に筆者作成
重視するポイントによって、選ぶべき備えは変わります。
保険会社の調査や自治体の判定を待つ必要がない「震度連動型」が適しています。
「罹災証明書連動型」の組み合わせがおすすめです。
地震保険の査定基準と、罹災証明書の認定基準は異なります。そのため、地震保険では「対象外」や「一部損」となった場合でも、自治体の調査では生活への支障が考慮され「半壊」以上と判定されるケースもあります。
このように、「異なる2つの査定基準」を持つことで、認定のズレによる「もらいそびれ」のリスクをカバーできる点が最大のメリットです。
罹災証明書は、公的支援を受けるために不可欠な書類ですが、地震保険の請求には原則として不要です。最後に、この記事の重要なポイントを振り返りましょう。
| 項目 | 重要なポイント |
|---|---|
| 役割の違い | 罹災証明書は「公的支援」のため、地震保険は「保険金支払い」のために、それぞれ異なる基準で調査が行われます。 |
| 査定範囲のズレ | 地震保険は「骨組み(主要構造部)」のみを査定しますが、罹災証明書は「家全体(内装・設備含む)」を判定するため、結果に差が出ることがあります。 |
| 写真撮影の重要性 | 正確な被害認定を受けるには、片付けや修理を始める前に、建物の全景と損壊箇所のアップを必ず撮影して保存してください。 |
| 生活再建への備え | 地震保険の補償は火災保険の最大50%です。不足分を補うために、罹災判定と連動する民間保険などで備えを強化しましょう。 |
地震などの大規模災害が発生した際、住宅ローンだけが残り、再建資金が足りないという事態は避けなければなりません。万が一の際、自分や家族の生活をどう守るのか。今のうちに地震保険の契約内容を確認し、「上乗せの備え」を整えておくことが、安心への第一歩となります。
執筆者紹介
次に読むべき記事
日本は「地震大国」と言われており、過去には巨大地震が発生して住宅が倒壊するなどの被害が生じています。地震による建物や家財の被害に備えるには、地震保険を付帯するのが有効です。万が一被害にあった...