公開日:2025.09.12
住宅ローンの名義変更は、離婚や相続、収入の変化など、人生の転機に直面したときに検討される重要な手続きです。名義変更は単なる書類の差し替えではなく、金融機関の審査や税務上の影響も伴うため、慎重な対応が求められます。
この記事では、名義変更の基本的な考え方から、ケース別の対応方法や代替手段、注意点までをわかりやすく解説します。

住宅ローンは、契約者の信用情報や返済能力をもとに金融機関が融資を行う仕組みです。そのため、名義変更(契約者の変更)は原則として認められていません。名義変更によって審査の前提が崩れるため、金融機関は慎重な姿勢を取ります。
ただし、以下のようなやむを得ない事情がある場合には、例外的に名義変更が認められることもあります。
これらの例外について、具体的なケースごとの対応方法を詳しく見ていきましょう。
住宅ローンの名義変更が必要になる状況は、人生のさまざまな転機に伴って発生します。ここでは、代表的な3つのケースについて、それぞれの対応方法と注意点を詳しく解説します。
離婚により夫婦の生活が分かれると、住宅の所有者や居住者が変わることがあります。特に、ペアローンを利用していた場合は、どちらが住宅を引き継ぐか、ローンの返済をどうするかが大きな課題となります。
たとえば、夫名義の住宅に妻が住み続ける場合、妻が住宅を買い取る形で、夫から妻への名義変更を行い、新たに住宅ローンを契約する必要があります。この際、金融機関による審査が行われ、収入や信用情報、物件の担保評価などが確認されます。
また、離婚協議書や財産分与の内容が審査に影響することもあるため、事前に専門家へ相談し、必要書類を整えておくことが重要です。
住宅ローンの契約者が亡くなった場合、相続人が住宅ローンを引き継ぐことになります。このとき、団体信用生命保険(団信)の加入状況によって対応が大きく異なります。
| 団信に加入している場合 | 保険金によって住宅ローンが完済されるため、相続人に返済義務は発生しません。 |
|---|---|
| 団信に未加入の場合 | 残債は相続人が引き継ぐ必要があり、住宅ローンの継続か売却かを判断する必要があります。 |
住宅ローンを引き継ぐ場合には、金融機関の審査が必要となり、相続人の収入や信用情報、物件の担保評価などが確認されます。また、遺産分割協議書などの提出も求められるため、相続発生後は早めに対応を始めることが望ましいです。
病気や退職などにより収入が減少し、住宅ローンの返済が困難になるケースでは、家族への名義変更を検討することがあります。たとえば、親の収入が減った場合に、子が住宅ローンを引き継ぐ形で名義変更を行うケースです。
この場合、子が新たに住宅ローンを契約し、既存のローンを一括返済する「借り換え」が一般的な方法となります。借り換えには金融機関の審査があり、収入や信用情報、物件の担保評価などが確認されます。
また、借り換えによって名義変更が実現する場合でも、贈与税や登記費用などの負担が発生することがあるため、税理士や司法書士への相談をおすすめします。
住宅ローンの名義変更を進めるには、金融機関との調整や必要書類の準備、スケジュール管理が欠かせません。ここでは、手続きの流れと注意点を3つのステップに分けて解説します。
名義変更は、金融機関の承諾がなければ進めることができません。まずは、現在のローンを契約している金融機関に相談し、名義変更が可能かどうかを確認しましょう。金融機関によっては、名義変更そのものを認めていない場合もあります。その場合は、「借り換え」や「親子間売買」などの代替手段を提案されることもあります。
相談時には、以下のような情報を整理しておくとスムーズです。
また、手続きにかかる期間や必要書類、審査の流れについても事前に確認しておくと、後の準備がしやすくなります。
名義変更には、状況に応じてさまざまな書類が必要になります。以下は主な例です。
これらの書類は、提出時期や有効期限が決まっていることもあるため、スケジュール管理が非常に重要です。特に、相続や離婚などで複数の関係者が関わる場合は、書類の取り寄せや署名・押印に時間がかかることもあります。
余裕を持ったスケジュールを立て、必要に応じてチェックリストを作成しておくと安心です。
名義変更には、税務や登記などの専門的な知識が求められる場面もあります。以下のような専門家に相談することで、手続きをより確実に、スムーズに進めることができます。
| 税理士 | 名義変更が贈与とみなされる場合の贈与税のリスクや、節税対策についてアドバイスを受けられます。 |
|---|---|
| 司法書士 | 不動産の登記変更手続きや、必要書類の確認・作成を代行してもらえます。 |
| ファイナンシャルプランナー(FP) | 家計全体の見直しや、ローン返済計画の再設計をサポートしてくれます。 |
専門家の力を借りることで、手続きの正確性と安心感が大きく高まります。特に初めて名義変更を行う方や、複雑な事情がある場合は、早めの相談をおすすめします。
住宅ローンの名義変更は、金融機関の審査や契約条件によっては認められないケースもあります。そんなときは、名義変更に代わる方法を検討することで、実質的に同様の効果を得られる可能性があります。
ここでは、代替手段として「親子間売買」と「リースバック」の概要をご紹介します。
親子間売買とは、親と子の間で不動産売買契約を結び、子が住宅を購入することで名義を変更する方法です。名義変更が難しい場合でも、所有権の移転を通じて実質的な名義変更が可能になります。
ただし、税務や住宅ローン審査の面で注意が必要です。詳しくは以下の記事で、メリット・デメリットや手続きの流れを解説しています。
リースバックは、住宅を売却した後も同じ家に住み続けられる仕組みです。住宅ローンの返済が難しい場合や、名義整理をしたい場合に柔軟な選択肢となります。
契約内容や買い戻しの条件など、事前に確認すべきポイントがあります。詳しくは以下の記事で、仕組みやメリット・注意点を解説しています。
ここでは、住宅ローンの名義変更に関するよくある質問をまとめ、わかりやすくお答えします。本文では触れきれなかった細かなポイントも補足していますので、ぜひ参考にしてください。
A. 名義変更そのものでは金利が変わることはありませんが、借り換えを伴う場合は新たな契約条件となるため、金利が変動する可能性があります。借り換え先の金融機関や契約内容によっては、金利が上がることも下がることもあるため、事前に比較検討が必要です。
A. 原則として、住宅ローン控除は契約者本人に適用されるため、名義変更後に新たな契約者が控除を受けるには、一定の条件を満たす必要があります。たとえば、居住要件や所得要件、登記名義との一致などが求められます。税務署や税理士に確認することをおすすめします。
A. 名義変更により住宅ローン契約が新しくなる場合、団信も新たに契約し直す必要があります。既存の団信は前契約者に紐づいているため、引き継ぎはできません。新契約者の健康状態によっては、団信に加入できないケースもあるため、事前の確認が重要です。
A. 可能ですが、住宅ローン契約との整合性が必要です。共有名義にする場合は、登記上の持分割合やローンの返済責任が明確である必要があります。金融機関によっては、共有名義に対してペアローンや連帯債務型の契約を求めることもあります。
住宅ローンの名義変更は、離婚や相続、収入減少といった人生の節目に直面したときに検討される重要な手続きです。原則として金融機関の承諾が必要であり、審査や税務面での確認も伴うため、安易に進めることはできません。
しかし、状況に応じて名義変更が認められるケースもあり、借り換えや親子間売買、リースバックなどの代替手段を活用することで、実質的な名義変更が可能になる場合もあります。
手続きを進める際は、金融機関への事前相談や必要書類の準備を丁寧に行い、税理士・司法書士・ファイナンシャルプランナーなどの専門家の力を借りることで、安心して対応することができます。
名義変更は、住まいや家族の将来に関わる大切な選択です。焦らず、正しい情報と適切なサポートをもとに、最善の方法を見つけていきましょう。
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