updated:2022.05.11
老後に必要な生活費は、持ち家と賃貸で大きく変わります。持ち家の場合、老後の生活費はいくら必要なのでしょうか。
公的年金だけで足りない分は、貯蓄などでカバーしなくてはなりません。年金生活に入る前に老後の生活費について把握し、必要な資金を準備しておくことが大切です。
今回は、持ち家の場合の老後資金の目安や、資金が足りないときの対処法について解説します。
「人生100年時代」や「老後資金2,000万円問題」などに起因して、老後資金という言葉が注目を集めています。一方で、老後資金が具体的に何を指しているのか分からないといった方もいるのではないでしょうか。
老後資金とは定年後にかかる費用を全て含めた資金を指します。具体的には、日々の生活費や医療費、介護費だけでなく、趣味のための娯楽費なども含みます。また、老後はまとまった資金が必要になることが多く、これらを公的年金のみで賄うのは難しいでしょう。そのため、一定のゆとりをもった老後資金を確保しておく必要があります。
平均寿命や平均余命は年々伸びています。平均余命とは「あと何年生きられるか」の平均年数を指し、生まれたばかりの0歳の子の平均余命が平均寿命です。
平成30年「簡易生命表」によると、平均寿命は男性81.25歳、女性87.32歳と前年よりもやや高くなっています。平均余命も、65歳で男性19.70年、女性24.50年、80歳で男性9.06年、女性11.91年で、前年を上回っています。
また、95歳まで生きる確率は、男性で10人に1人弱(9.6%)、女性で4人に1人強(26.0%)です。毎年じわじわと高齢化が進んでいることから、「人生100年時代」を意識せざるを得ません。
生命保険文化センター「生活保障に関する調査(令和元年度)」によると、8割超(84.4%)の人が自分の老後に「不安感あり」と答えています。さらに、「非常に不安を感じる」という人が2割弱(19.0%)もいます。
不安を感じる理由として、次のようなものが上位を占めます(複数回答)。
また、老後の長期化と併せて少子化も進んでおり、高齢者を支える現役世代とのバランスが崩れつつあります。2012年は65歳以上1人を2.4人で支える「騎馬戦型」だったものが、2050年には1.2人で支える「肩車型」になります。
このひずみは社会保障を直撃しており、公的年金の削減や、医療・介護の保険料アップ、サービスを受けるときの負担増といった形で、すでにじわじわと現れ始めています。
参考)生命保険文化センター 令和元年度「生活保障に関する調査」【PDF】
話題になった「老後資金2,000万円問題」で計算の際に活用されたのが、総務省「家計調査」の高齢無職世帯の家計(夫65歳以上、妻60歳以上)です。この統計を基に必要な生活費を考えてみましょう。
2019年のデータを見ると、毎月の支出の内訳は下記の通りで、夫婦無職世帯で27.1万円、単身無職世帯で15.2万円です。一方で、毎月の実収入はそれぞれ23.8万円、12.5万円で、毎月の不足額の平均は、夫婦無職世帯で3.3万円、単身無職世帯で2.7万円です。
表 高齢無職世帯の家計(単位:円)
消費支出・その他 | 夫婦無職世帯 (夫65歳以上、妻60歳以上) |
単身無職世帯 (65歳以上) |
---|---|---|
食費 | 66,458 | 35,883 |
住居費 | 13,625 | 12,916 |
水道光熱費 | 19,983 | 13,055 |
家具・家事用品費 | 10,100 | 5,681 |
被服・履物費 | 6,065 | 3,659 |
保健医療費 | 15,759 | 8,445 |
交通・通信費 | 28,328 | 13,117 |
教育・教養娯楽費 | 24,824 | 16,596 |
その他(交際費、雑費等)* | 54,804 | 30,387 |
税・社会保険料 | 30,982 | 12,061 |
支出合計 | 270,928 | 151,800 |
実収入 | 237,659 | 124,710 |
収支 | ▲33,269 | ▲27,090 |
※端数処理の誤差を”その他”で調整
※総務省「家計調査」2019年より筆者作成
この毎月の不足額30年分の累計額を計算すると、夫婦無職世帯では、1,188万円(=3.3万円×12ヵ月×30年)、単身無職世帯で972万円が必要となります。
ただし、家計調査の支出に占める住居費がかなり少なく、高齢世帯の多くが持ち家であること背景にあると考えられます。持ち家であれば住居費が少額で済むため、平均額としてかなり低くなります。また、「消費支出」のため、住宅ローン返済分が含まれていないことも少額になっている原因です。
そのため、賃貸の世帯や、住宅ローンの返済が老後も続く世帯では、住居費に平均とのギャップがある点を考慮しなければなりません。また、持ち家のマンションの場合は、管理費や修繕積立金、固定資産税がかかるので、住宅ローンの完済後も平均額を超えます。他の費用も、自分の老後の生活費と比べることをおすすめします。
なお、生命保険文化センター「生活保障に関する調査(令和元年度)」によると、夫婦2人で老後生活を送るうえでの「ゆとりある老後生活費」の回答(対象:18~69歳)の平均額は月36.1万円です。老後資金に「旅行やレジャー」「趣味や教養」「日常生活費の充実」などが上乗せされた金額です。
仮にこの36.1万円と家計調査の実収入を比べてみると、月12.3万円のマイナスであり、30年分の累計額を計算すると、4,428万円のマイナスです。これを実現するには、老後資金を手厚く準備することが必要です。
参考)生命保険文化センター 令和元年度「生活保障に関する調査」【PDF】
老後には基本的な生活費以外にも次のようなライフイベント費がかかります。
例えば、介護費用の平均額は在宅・施設混合のデータで494万円(一時費用69.0万円、毎月7.8万円、要介護期間54.5カ月。生命保険文化センター「生命保険に関する実態調査 平成30年」)です。有料老人ホーム等への入所を考えている場合はさらに費用がかかり、在宅介護だけに限ると311万円(一時費用67.2万円、毎月4.6万円、要介護期間53.1ヵ月)です。
以上のように、老後は基本的な生活費以外にもまとまった資金が必要になるので、こうした費用も見積もったうえで準備をしなければなりません。そのため、確保するべき老後資金の目安は、次のように計算することができます。
例えば、公的年金が年間240万円、老後の生活費が年間300万円、65歳を定年として、ライフイベントに1,500万円を見積もった場合は下記のように算出されます。
総務省の「家計調査報告」によると、夫婦高齢者無職世帯(65歳以上の夫婦のみの無職世帯)の家計収支は社会保障給付(年金収入)が219,976円に対し、支出は255,550円です。
年金収入のみの場合、老後の生活費は月約4万円不足します。年間約50万円の支出超過のため、仮に老後生活が30年続くとすると、1,500万円程度の資金が必要です。
もちろんあくまでも平均結果であり、この数字がそのまま当てはまるわけではありません。共働きで年金収入が多い世帯であれば、公的年金だけでも十分な生活費を確保できるでしょう。
一方で、「自営業で年金が少ない」「豊かなセカンドライフを送りたい」「リフォームの予定がある」といった場合、より多くの資金を準備する必要があります。
参考)総務省「家計調査報告(家計収支編)2020年(令和2年)平均結果の概要(P18~19)」
60歳以上(二人以上の世帯のうち勤労者世帯)の持ち家率は90.4%で、持ち家が全体の9割を占めています。また、家計収支の支出の内訳を確認すると、住居費は14,518円と少額であることから、先程示した総務省の家計収支はあくまで持ち家の場合の生活費だと考えられます。
賃貸住まいは家賃がかかり、持ち家の場合に比べて住居費の負担が増えるため、老後の生活費は月4万円の不足では済まないでしょう。一生賃貸で過ごすには、持ち家よりもさらにまとまった老後資金を準備する必要があります。
参考)総務省「家計調査報告(家計収支編)2020年(令和2年)平均結果の概要(P18~19)」
老後にいくら必要なのかは世帯によって異なります。そのため、自分の家計ではどれくらいの資金が必要なのか下記の順番で確認しましょう。
老後は公的年金が主な収入源という家庭が多いのではないでしょうか。年金額は何年支払ったかだけでなく、その支払額や国民年金か厚生年金なのか等によっても個人差があります。公的年金がいくらもらえるかについては、後述します。
公的年金の他に事業やアルバイトによる収入がある人は、その見込み収入額を踏まえた上で世帯収入がいくらになるのか把握しましょう。
月々の支出額を明確にし、各費用にいくら使っているか把握しましょう。食費や日用品費のような変動する項目については、一定期間の平均値を取って試算するのがおすすめです。その他にも、不定期で発生する住居のメンテナンス費用なども一定額計上しておくことで、より正確な費用を見積もることができます。
なお、総務省の家計調査報告では平均23万円程度*という結果が出ていますが、家計支出は現役世代の生活水準などによって異なりますので、あくまで参考程度にしたほうが無難と言えそうです。
参考)総務省 「家計調査報告(家計収支編)2020年(令和2年)表1 二人以上の世帯のうち65歳以上の無職世帯の家計収支―2020年―」
毎月の収入や支出を計算したら、最後に今後数十年の収支をシミュレーションしてみましょう。エクセルで自作したり、ノートなどにまとめたりするのが大変であれば、日本FP協会が公開している「家計のキャッシュフロー表*」などを利用すると、数値を入力するだけで簡単に作成できます。
生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」によると、公的保証や企業保障以外の自助努力による老後生活のための経済的準備状況として、「準備している」と答えた方の割合は20歳代で半数弱、30歳代で65%程度となっています。実態としては、比較的早い段階から老後資金の準備を始めている方が多いようです。
「人生100年時代」や「老後資金2,000万円問題」に起因して、老後生活における必要額は増加していますので、その資金を準備し始める時期は早ければ早いほど良いでしょう。仮に老後資金を2,000万円貯めると仮定すると、貯蓄を始める時期が早ければ早いほど月々の貯蓄額は小さく済みます。一方で、子供の教育費や住宅ローンの返済が重なっている期間などは貯蓄をしようとしても難しいのが実状です。子供の教育費があまりかからないうちにある程度貯蓄をしておくなど、計画的に準備されることをおすすめします。
十分な老後資金を準備するには、なるべく早く対策を講じなくてはなりません。節約などの家計改善も有効ですが、一定の収入源を確保することも大切です。
金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(2019)」によると、60代の収入は多い順に「公的年金」、「就業」、「企業年金、個人年金、保険金」、「と続いています。また、2人以上世帯では半数弱、単身世帯では3人に1人強の人が働いています。
70歳以上の2人以上世帯のデータでは、「公的年金」、「金融資産の取り崩し」、「企業年金、個人年金、保険金」、「就業」と続きます。また、70歳以上でも5人に1人は働いています。
表 老後における生活資金源(複数回答)(単位:%)
年代 | 60代 | 70歳以上 | |
---|---|---|---|
世帯 | 2人以上 | 単身 | 2人以上 |
公的年金 | 86.8 | 78.1 | 89.9 |
就業 | 45.8 | 36.0 | 20.1 |
企業年金、個人年金、保険金 | 37.1 | 32.0 | 26.1 |
金融資産の取り崩し | 30.2 | 27.5 | 26.9 |
利子配当所得 | 2.6 | 10.0 | 4.2 |
不動産収入 | 7.6 | 4.8 | 8.4 |
子供などからの援助 | 4.3 | 1.7 | 5.5 |
公的援助 | 3.6 | 10.2 | 4.3 |
※金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(2019)」より筆者作成
※70歳以上は単身世帯のデータなし
公的年金は、加入していた年金制度や加入期間、厚生年金であれば給与額によって異なります。
厚生労働省「令和元年度厚生年金保険・国民年金事業の概況 」の平均額では、65歳以上の受給者の平均額は下表のようになっており、会社員・公務員の男性で約17.1万円、女性は約10.9万円です。国民年金だけの自営業や専業主婦の平均額は5.6万円です。
表 年金の平均受給額(単位:円)
年金の種類 | 平均月額 | |
---|---|---|
性別 | 男性 | 女性 |
国民年金+厚生年金 (会社員や公務員) |
171,305 | 108,813 |
国民年金のみ (自営業や専業主婦など) |
56,049 |
厚生労働省「令和元年度厚生年金保険・国民年金事業の概況 」より筆者作成
次に、満額の国民年金と平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)43.9万円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の金額は下記のとおりです。
表 平均的な給与水準における厚生年金と満額の国民年金(単位:円)
年金の種類 | 令和2年度 | 令和元年度 |
---|---|---|
国民年金+厚生年金 (会社員や公務員) |
220,724 | 220,266 |
国民年金のみ (自営業や専業主婦など) |
65,141 | 65,008 |
※日本年金機構「令和2年(2020年)4月分からの年金額等について」より筆者作成
老齢基礎年金(国民年金)は、保険料の納付月数で支給額が決まります。20歳から60歳まで、40年間(480ヵ月)保険料を納めれば、満額の月65,075円(2021年度)を受け取ることができます。老齢基礎年金額は下記の算式で求めることができます。
※2021年度
※一部免除や全額免除を受けた月数に応じて加算あり
自分が受け取れる年金額について把握する最も良い方法としては、誕生月に毎年届く、ねんきん定期便を確認することです。ねんきん定期便は、50歳未満の人はこれまでの加入実績に応じた年金額が記載されており、50歳以上の人は現在の収入水準が60歳まで続いた場合の、受取り見込み額が記載されています。
また、ねんきん定期便に記載されているアクセスキーを利用して日本年金機構の「ねんきんネット」にアクセスすれば、最新の年金情報等を確認することができます。
なお、年金受取開始は原則65歳ですが、これを早くしたり(繰上げ)、遅くしたり(繰下げ)することもできます。受給額がどれくらい変わるのかなどの試算も、ねんきんネットで行うことができます。
会社員は給与から厚生年金保険料が天引きされますが、自営業者は国民年金保険料を自分で納める必要があります。公的年金を満額受給できるように、保険料の納付漏れがないようにしておくことが大切です。
参考)
・日本年金機構「令和2年(2020年)4月分からの年金額等について」
・日本年金機構「ねんきんネット」
個人年金保険とは、契約時に設定した保険料払込期間に保険料を払い込むことで、一定期間(5年、10年など)年金を受け取れる貯蓄型保険です。個人年金保険に加入すれば、公的年金の不足分を補うことができます。
また、個人年金保険では、年金の受取開始前に契約者に万が一のことがあれば、払込保険料に応じた死亡保険金が支払われ、年金の受取期間中に受取人が亡くなった場合は、遺族に年金が支払われます。
個人年金保険は、毎月保険料を支払うことで、半強制的に老後資金を準備できるのがメリットです。また、一定金額までの保険料は生命保険料控除の対象なので、所得税・住民税の節税にもなります。
ただし、低金利の影響で予定利率が下がっているため、保険料を長期間支払ってもお金はそれほど増えません。さらに、保険商品はインフレに弱く、物価上昇により払込保険料が実質的に目減りする恐れがあることや、中途解約すると元本割れの可能性もある点には注意が必要です。
iDeCo(イデコ)とは、自分で掛金の拠出や運用方法を選んで運用する私的年金制度です。定期預金や投資信託などから運用商品を選択して運用を行います。60歳になるまで掛金を拠出し、60歳以降に老齢給付金を受け取る仕組みで、加入区分に応じて掛金の上限額が設けられています。
小規模企業共済とは、自営業者や経営者のための退職金制度です。廃業や退職時に備えて積み立てができ、月々の掛金は1,000円~7万円まで500円単位で自由に設定できます。加入後の増額・減額も可能です。掛金は全額所得控除で、共済金を受け取るときも退職所得控除や公的年金等控除が適用されます。
老後資金を準備するためには定年後も仕事を続けることが有効です。独立行政法人労働政策研究・研修機構の行った「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」によると、再雇用や継続雇用制度によって60歳以降も働き続けることができる企業は増加傾向にあります。老後資金に不安がある場合は、勤めている企業の雇用制度の確認や、老後も働くことができる企業がないか探してみましょう。
また、健康上の理由などによってフルタイムで働くことが難しい場合は、自分のペースでアルバイトを行うだけでも、老後資金の対策となるでしょう。
参考)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」
老後に向けて資産を増やすには、株や不動産などの資産運用に取り組むのもひとつの方法です。具体的には、NISA口座を活用しての投資、個人向け国債、不動産投資などがあります。株式や不動産はインフレに強い資産で、物価上昇時にはそれらの資産価値も上昇する傾向にあります。上記で紹介したiDeCoとNISAの違いは下表の通りです。
表 iDeCoとつみたてNISA
種類 | iDeCo | つみたてNISA |
---|---|---|
目的 | 老後資金 | 自由 |
対象年齢 | 20~60歳未満 | 20~60歳未満 |
非課税投資枠 | 年14.4万~81.6万円 | 年40万円 |
非課税期間 | 60歳まで(積立期間) | 最長20年間 |
対象商品 | 元本確保型商品(預金・保険等)と投資信託 | 株式や投資信託等 |
途中引出し | 原則60歳まで不可 | いつでも可能 |
掛金の所得控除 | あり | なし |
受取時の課税 | 優遇あり | 非課税 |
※筆者作成
また、株式投資のハードルが高いという場合には、運用をプロに任せられる投資信託や、嗜好に合わせて設計されるロボアドバイザーなどのサービスもあります。
不動産の資産運用は、収益用不動産を購入して家賃収入を得る方法が一般的です。しかし、低金利の住宅ローンを利用して自宅を購入することも、考え方によっては資産運用と言えるでしょう。
持ち家の場合、老後の生活費が月4万円程度不足する可能性があることがわかりました。老後の生活費が足りないと想定されるときは、どのように資金を準備すればよいのでしょうか。
ここでは、老後の生活費が足りないときの対処方法を5つ紹介します。
支出を見直して生活コストを下げることができれば、老後の生活費は少なくなります。食費や電気代といった変動費の節約は労力がかかる割に得られる効果が小さいので、固定費を中心に支出を見直すといいでしょう。
たとえば、都心部に住んでいるなら、マイカーを手放してカーシェアリングを利用したほうが節約になるかもしれません。また、保険を見直すことで、保険料の負担が軽減されることもあります。
現在よりも少ない支出で生活ができれば、年金収入だけで暮らせる可能性もあります。
持ち家で老後の生活費が月4万円不足するのは、夫婦高齢者無職世帯のケースでした。そのため、老後も働いて公的年金以外の収入を得ることができれば、生活費の不足を解消することは可能です。
「老後を迎えてまで働きたくない」と思うかもしれませんが、月4万円の不足を補うだけならフルタイムで働く必要はありません。自分のペースでアルバイトを行うだけでも、十分に稼げる金額ではないでしょうか。
また、老後も働くことで、社会とのつながりや生きがいを得られるメリットもあります。
公的年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、「繰下げ」によって受給開始を遅らせることも可能です。年金の繰下げを行うと、最大で42%毎月の年金が増額されます。老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに、繰下げによる年金の増額率は以下の通りです。
繰り下げによる年金増額率
請求時の年齢 | 増額率 |
---|---|
66歳0ヵ月~66歳11ヵ月 | 8.4~16.1% |
67歳0ヵ月~67歳11ヵ月 | 16.8~24.5% |
68歳0ヵ月~68歳11ヵ月 | 25.2~32.9% |
69歳0ヵ月~69歳11ヵ月 | 33.6~41.3% |
70歳0ヵ月~ | 42.0% |
繰下げによって増えた年金額は一生変わらないため、老後の生活費の不足を解消できる可能性があります。65歳以降も一定の勤労収入がある場合や当面は年金をもらえなくとも生活に支障がない場合は、年金の繰下げを検討しましょう。
預貯金だけでなく、投資信託などを活用して運用しながら資産を取り崩すことで、資産寿命を延ばすことができます。たとえば、3,000万円の資金を毎月13万円取り崩しながら年4%で運用を行うと、預貯金よりも資産は約17年長持ちします。
ただし、あくまでもシミュレーション結果であり、この通りに運用できるとは限りません。また、投資信託は元本保証ではないので、損失が発生する可能性もあります。資産寿命を延ばすために資産運用に取り組む場合、特に高齢になってからの資産運用は、リスクの取りすぎに注意しましょう。
参考)SBI証券「資産の寿命は大丈夫?「人生100年時代」の資産運用とは?」」
老後の生活費が足りない場合、持ち家を活用して資金調達する方法もあります。詳しくは後述します。
持ち家の人は金融資産だけでなく、「不動産」という資産もあるわけです。そして、この不動産が老後資金の“最後の砦”になる可能性も秘めています。
老後資金、特に介護資金などで不動産を活用する方法には次のようなものがあります。ただし、不動産の立地や評価額によって利用できない場合もあります。
「リバースモーゲージ」とは、自宅に住み続けながら、自宅を担保に毎月の生活費を借りることのできるサービスです。一時金で受け取る方法や、設定した枠内で自由に借りるタイプがあります。ただし、対象エリアが主要都市に限定されていることが多く、一定評価額以上の戸建てが中心で、条件として相続人全員の同意や連帯保証人を求められることもあります。
「リースバック」とは、自宅をリースバック会社に売却し、売却代金を受け取る一方で、買主にリース料を支払って自宅に住み続けるサービスです。売却代金は一括で受け取れます。ただし、対象エリアが主要都市に限られます。引っ越しをせずに住み続けられる点が大きな特徴で、リースバック運営会社によって条件などが異なります。
不動産担保ローンとは、不動産を担保にお金を借りることです。戸建て、マンションとも対象ですが、主要都市に限る金融機関が多いようです。金融機関によっては本人名義の物件だけでなく、配偶者や親名義でも担保にできるところもあります。比較的低金利で借りられます。
自宅を売却することで有料老人ホームの入居金に充てる、老後資金の不足分を補うなど、売却代金を活用できます。売却後の住まいがない場合は、住まいをどうするかという問題が残ります。
自宅を賃貸に出すことで、収入を得ることもできます。リフォーム費用などをかけても、空室リスクがある点に注意。また、こちらも売却する場合と同様に、住まいをどうするかという問題が残ります。
老後への備えとして、わが家の住まいを点検し、将来、どのような活用の選択肢が使えるのか、あるいは使えないのかなども知っておくといいでしょう。それも老後資金準備の一環と言えます。
持ち家の資産価値を活かす方法は、以下のページでさらに詳しく紹介しています。
老後の生活費は、持ち家でも月4万円程度不足する可能性があることがわかりました。ただし、あくまでも平均額であるため、まずは自身に必要な生活費を把握することが大切です。この記事で紹介した内容を参考に、老後資金の準備を始めましょう。
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