小規模企業共済とは?メリット・デメリットと加入までの流れを解説

更新日: / 公開日:2021.12.01

小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者向けの退職金制度です。自営業の方が、国民年金以外の老後資金を準備する手段として活用できます。一方で、小規模企業共済は、状況によっては損をする恐れもあるため、加入前に仕組みを理解しておくことが大切です。

この記事では、小規模企業共済の概要やメリット・デメリット、加入すべきかどうかについて詳しく解説します。

小規模企業共済とは

小規模企業共済とは、個人事業主や小規模企業の経営者・役員を対象とした積み立てによる退職金制度です。中小企業基盤整備機構が運営しており、廃業や退職時の生活資金の準備、年金対策などに活用できます。

小規模企業共済の加入人数は2023年3月末時点で、約162万人、資産運用残高は約11兆1,313億円です。

出典)中小企業基盤整備機構「小規模企業共済(現況)」

加入資格

小規模企業共済の加入資格は、以下のとおりです。

  1. 建設業、製造業、運輸業、宿泊業、娯楽業、不動産業、農業を営み、常時使用する従業員数が20人以下の個人事業主または会社役員
  2. 卸売業、小売業、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営み、常時使用する従業員数が5人以下の個人事業主または会社役員
  3. 事業に従事する組合員数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員数が20人以下の協業組合の役員
  4. 常時使用する従業員数が20人以下で、農業経営を主とする農事組合法人の役員
  5. 常時使用する従業員数が5人以下の弁護士法人、税理士法人などの士業法人の社員

1と2に該当する場合は、個人事業主1人につき共同経営者2人まで加入できます。「常時使用する従業員」には、家族従業員と共同経営者(2人まで)は含まれません。2つ以上の業種を行っている事業主・共同経営者は、主たる事業の業種で加入します。

掛金

小規模企業共済の掛金は、積み立て途中の掛金の増減額も可能で、月額1,000円から70,000円の範囲内で、一口を500円単位で自由に設定できます。掛金の前納にも対応しており、前納すると一定割合の前納減額金を受け取れます。

納付方法は個人の預金口座からの振替で、「月払い」「半年払い」「年払い」の3つから選択できます。なお、業績悪化や災害などで掛金を払うのが難しい場合は、一時的に支払いを停止する「掛け止め」も可能です

小規模企業共済はいつ支払われるのか

小規模企業共済に一定期間以上加入し、個人事業の廃業や会社の解散などの事態が生じた場合に、掛金額と納付月数に応じた共済金が支払われます。そして、共済金は共済事由や掛金の納付月数によって額が変わります。

共済事由

共済事由とは、共済金や解約手当金が支払われる理由のことをいいます。共済事由は以下の4種類です。

共済事由の詳細

共済事由内容
A共済事由
(共済金A)
・個人事業の廃止
・個人事業主・共同経営者の死亡
・個人事業の廃業に伴う共同経営者の退任
・会社の解散
B共済事由
(共済金B)
・老齢給付(65歳以上で180ヵ月以上の掛金納付)
・会社役員の疾病・負傷・65歳以上による退任
・会社役員の死亡
準共済事由
(準共済金)
・法人成り(その会社の役員に就任しなかった場合)
・会社役員の退任(疾病・負傷・65歳以上・死亡・解散を除く)
解約事由
(解約手当金)
・任意解約
・12ヵ月以上の掛金滞納

共済金の返戻率

共済事由によって受け取れる共済金額の割合(返戻率)は変わります。各共済事由の返戻率は以下のとおりです。

各共済事由の返戻率

納付年数A共済事由B共済事由準共済事由
5年103.6%102.4%100.0%
10年107.6%105.1%100.0%
15年111.7%107.8%100.0%
20年116.1%110.8%100.0%
30年120.8%117.0%100.0%

納付年数が長くなると返戻率が上がります。例えば、毎月1万円ずつ掛金を払った人が20年間納付した後、事業の廃止によって共済金を受け取る(A共済事由に該当する)場合、掛金合計金額の240万円に返戻率の116.1%を掛け合わせた約279万円となります。

・上記の算式
1万円/月 × 12回 × 20年 × 116.1% = 約279万円

なお、共済事由が任意解約に該当し、納付月数が20年(240ヵ月)未満の場合、解約手当金の額は掛金合計額を下回るので注意しましょう

共済契約者が死亡した場合

共済契約者が死亡した場合は、遺族が共済金を受給できます。請求順位は配偶者(事実婚も含む)が第一順位者で、次いで子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、その他の親族の順となります。また、法定相続と異なり、第一順位の人がすべての共済金を受給することとなります。

ただし、子以下は共済契約者の収入によって生計を維持されていた者が優先されます。小規模企業共済法に規定された受給権者が存在しない場合、共済金は支給されません。

出典)中小企業基盤整備機構「小規模企業共済 制度のしおりP11~12」

小規模企業共済のメリット

小規模企業共済には、主に以下2つのメリットがあります。

税金対策になる

納付時

小規模企業共済の掛金は全額を課税所得から控除できるので、所得税と住民税の税金対策になります。例えば、課税所得金額が400万円、掛金月額が10,000円であれば年36,500円、30,000円なら年109,500円が節税額の目安です。

自身の節税額が気になる方は、小規模企業共済制度の加入シミュレーションをお試しください。

受取時

共済金の受取方法は、「一括」「分割」「一括と分割の併用」の3種類があります。

一括で受け取る場合は「退職所得控除」、分割の場合は「公的年金等控除」が適用されるため、所得税・住民税の負担軽減が期待できます。

資金の借り入れができる

小規模企業共済の貸付制度とは、掛金納付期間に応じた貸付限度額の範囲内で事業資金などの借り入れができる制度です。「一般貸付制度」のほかに、「緊急時経営安定貸付け」「傷病災害時貸付け」なども用意されています。

一般貸付の場合、2023年8月時点では、貸付限度額は掛金の7~9割が目安で、利率は年1.5%です。経済環境の変化により資金繰りが悪化したり、病気やケガで入院したり、災害で被害を受けたりした場合は、一般貸付よりも低金利で借り入れが可能です。例えば、「緊急時経営安定貸付け」は、2023年8月時点では、利率は年0.9%です。

小規模企業共済のデメリット・注意点

小規模企業共済には、主に以下のようなデメリット・注意点もあります。

元本割れすることもある

12ヵ月未満の任意解約

小規模企業共済は、加入期間12ヵ月未満で任意解約すると掛け捨てとなります。また、掛金納付月数が6ヵ月未満の場合は、共済事由に該当しても受け取れません。そのため、小規模企業共済は、長期にわたって掛金を納付する前提で加入することが前提といえます。

20年未満の任意解約は元本割れする

小規模企業共済は、掛金納付月数が20年未満で任意解約をした場合は元本割れします。業績悪化などにより掛金の支払いが厳しい場合は、掛金の減額や掛け止めをして、できる限り任意解約を避けるほうがいいでしょう

なお、加入期間20年未満で元本割れするのは任意解約のみです。個人事業の廃止などに該当する場合は、加入期間20年未満でも元本割れしません。

事業規模が大きいと加入できない

小規模企業共済の加入資格には、常時使用する従業員数などの要件があります。事業規模が大きく、多くの従業員がいる場合は要件を満たさないため加入できません。

掛金は事業上の損金・必要経費に算入できない

小規模企業共済の掛金は、共済契約者が自身の収入から納付する必要があります。事業上の損金や必要経費には算入できないので注意しましょう。

小規模企業共済の加入手続きの流れ

小規模企業共済の加入手続きの流れは以下のとおりです。

  1. 必要書類を準備する
  2. 書類を窓口へ提出する
  3. 中小企業基盤整備機構から書類を受け取る

必要書類のうち、「契約申込書」と「預金口座振替依頼書」の2つは中小企業基盤整備機構に資料請求すると入手できます。その他に、加入希望者の立場に応じて必要になる書類があります。

例えば、個人事業主の場合は確定申告書の控えが必要です。開業したばかりで確定申告書がない場合は開業届の控えを提出します。会社役員は履歴事項全部証明書、共同経営者は確定申告書の控えや共同経営契約書の写しなどが必要になります。

必要書類が準備できたら、金融機関の窓口などで申込手続きを行いましょう。初回の掛金を現金で支払う場合は、払込区分に応じた現金が必要です。申込日から40日程度で、中小企業基盤整備機構から「共済手帳」や「加入者のしおり」などの各種書類が届きます。

小規模企業共済に加入すべきかどうか

小規模企業共済に加入すべきかどうかは、加入年数や退職金積み立てにおける自身の価値観によって異なります。小規模企業共済では、加入期間が12か月未満の場合や、解約が20年未満の場合には元本割れのリスクが存在します。

個人事業主や経営者にとっての退職金積み立ての方法は、小規模企業共済以外にも個人型確定拠出年金(iDeCo)や自己積み立て型のNISA、民間の個人年金保険などがあります。

もし自身で運用の自由を重視する価値観を持っているならば、iDeCoやNISAの方が適しているかもしれません。逆に、支払いを行うだけで運用を専門家に任せたいのであれば、民間の保険会社が提供する年金保険が適している可能性があります。

単に「個人事業主だから」や「加入資格があるから」といった理由だけでなく、競合する商品の知識を深めた上で、総合的な観点から判断することが重要です。

まとめ

小規模企業共済を利用すれば、退職金がない自営業者でも老後資金を準備できます。掛金は全額所得控除となり、もしものときは貸付制度も利用できるので、加入資格を満たすなら活用したい制度です。一方で、価値観によってはより優れていると感じる商品もあるかもしれません。視野を狭めず、ライフスタイルに合った老後資金づくりを考えてみてはいかがでしょうか。

執筆者紹介

大西 勝士(Katsushi Onishi)
金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。
<運営ブログ>
https://www.katsushi-onishi.com/

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