住まいとお金の知恵袋 一覧(公開日順)

  • 不動産投資でかかる費用と税金の種類、注意点を解説

    不動産投資でかかる費用と税金の種類、注意点を解説

    不動産投資では、物件を売買するときや所有中にさまざまな費用や税金がかかります。長期にわたる安定収入を確保するには、物件取得前にどのような費用や税金がかかるかを把握し、シミュレーションをしたうえで、物件を選ぶことが大切です。 この記事では、不動産投資でかかる費用や税金の種類と注意点を解説します。 不動産投資でかかる費用の種類 まずは、不動産投資でかかる費用の種類を確認していきましょう。 購入時にかかる費用 不動産投資で物件を購入する際にかかる費用は以下のとおりです。 費用 内容 金額の目安 仲介手数料 仲介業者に支払う手数料 売買価格×3.0%+6万円+消費税 司法書士報酬 司法書士に所有権移転登記や抵当権設定登記を依頼する場合に支払う費用 10~20万円程度 融資手数料 融資を利用する際に必要な事務手数料や保証料 金融機関によって異なる。 仲介手数料は、不動産の売買価格によって変わります。仮に物件価格が3,000万円であれば、仲介手数料の金額は「96万円+消費税」となります。なお、仲介業者なしで不動産を購入する場合は不要です。 所有権移転登記や抵当権設定登記(融資を利用する場合に必要)を司法書士に依頼する場合、司法書士報酬が必要になります。10~20万円程度が目安ですが、実際にかかる費用は司法書士によって異なります。また、融資を利用して購入をする場合には、融資事務手数料が発生します。 所有中にかかる費用 不動産投資で物件の所有中にかかる費用は下記のとおりです 。 費用 内容 金額の目安 修繕費 不定期で発生する修繕費、設備交換費用など 物件種別や築年数、管理状況などに左右される 管理費・修繕積立金 区分マンションの場合に毎月支払う費用 管理費:月額220円/㎡程度修繕積立金:月額180円/㎡程度 業務委託手数料 賃貸管理及び収納代行を依頼する場合に管理会社に支払う費用 家賃の5.0%程度 ローンの支払利息 不動産投資ローンの支払利息 借入残高の2.0~5.0%程度 火災保険料、地震保険料 加入する火災保険・地震保険の保険料 年数万円程度 税理士報酬 税理士に確定申告を依頼する場合に支払う費用 3万円程度(確定申告のみを依頼する場合) その他費用 不動産投資に必要な交通費、通信費、教材費、交際費など 支出内容によって異なる 区分マンションに投資する場合は、管理費・修繕積立金の支払いが必要です。金額はあくまで目安であり、実際には物件種別や築年数、管理状況などに左右されます。 賃貸管理を依頼する際の業務委託手数料や不動産投資ローンの支払利息も、管理会社や金融機関によって異なるため、購入前に確認しておくことが大切です。税理士報酬は、顧問契約を締結する場合は月数万円程度の顧問料が発生し、決算時に追加費用がかかることもあります。 そのほか、会計上は減価償却費も費用として計上されます。実際に手元のお金を支払うものではありませんが、確定申告などでは知っておく必要があります。 売却時にかかる費用 不動産投資で物件を売却する場合は、以下の費用がかかります。 費用 内容 金額の目安 仲介手数料 仲介業者に支払う手数料 売買価格×3.0%+6万円+消費税 司法書士報酬 司法書士に抵当権抹消登記を依頼する場合に支払う費用 2万円程度 ローン返済手数料 不動産投資ローンの残債を一括返済するための費用 金融機関によって異なる 不動産投資では、基本的に物件売却時にも仲介手数料がかかります。ただし、仲介なしで不動産を売却する場合は不要です。 また、抵当権抹消登記(融資を利用していた場合に必要)を司法書士に依頼する場合、司法書士報酬も必要になります。加えて、ローンが残っている不動産を売却する場合は、ローン返済手数料も発生します。 不動産投資でかかる税金の種類 次に、不動産投資でかかる税金の種類を確認していきましょう。 購入時にかかる税金 物件購入時にかかる税金は下記のとおりです。 税金 内容 税額の目安 印紙税 売買契約書に貼付する収入印紙 契約金額による※1 登録免許税 土地・建物の所有権移転登記、抵当権設定登記にかかる税金※2 所有権移転登記:固定資産税評価額×2.0%抵当権設定登記:借入金額×0.4% 不動産取得税 不動産を取得した際にかかる税金 固定資産税評価額×4.0% 固定資産税 購入した年の残日数分の日割り計算分 固定資産税額×購入した年の残日数/365日 ※1 契約金額1,000万円超 5,000万円以下の場合は2万円 ※2 融資を利用していた場合のみ必要 印紙税は売買契約時、登録免許税は司法書士報酬に含めて支払うのが一般的です。不動産取得税は、物件取得から半年~1年後に都道府県から納税通知書が届きます。また、固定資産税は毎年1月1日時点の所有者に課される税金であるため、購入した年の残日数分を購入時に支払う必要があります。 なお、上記の税額は本則税率の場合であり、軽減税率が適用される場合もあります。 所有中にかかる税金 物件を所有している間は以下の税金がかかります。 税金 内容 税額の目安 固定資産税・都市計画税 毎年1月1日現在の土地・建物の所有者にかかる税金 固定資産税:固定資産税評価額×1.4%都市計画税:固定資産税評価額×0.3% 所得税・住民税 1年間の不動産所得(不動産投資の利益)にかかる税金 所得税:所得金額×5.0~45.0%復興特別所得税:その年の基準所得税額×2.1%住民税:所得金額×10.0% 物件を所有している間は、固定資産税・都市計画税を毎年支払います。 市区町村から納税通知書が届くため、自分で税額を計算する必要はありません。 不動産所得については、給与所得や事業所得などと合算して所得税額を計算し、確定申告をして税額を納めます。確定申告をすれば、住民税は市区町村から納税通知書が届きます。 売却時にかかる税金 不動産を売却する際は、以下の税金がかかります。 税金 内容 税額の目安 印紙税 売買契約書に貼付する収入印紙 契約金額による※1 登録免許税 抵当権抹消登記にかかる税金※2 不動産1個につき1,000円(土地と建物で合計2,000円) 譲渡所得税(所得税・住民税) 不動産の譲渡所得(売却益)にかかる税金 短期譲渡所得:譲渡所得×39.63%長期譲渡所得:譲渡所得×20.315% ※1 契約金額1,000万円超 5,000万円以下の場合は2万円 ※2 融資を利用していた場合のみ必要 印紙税は売買契約時、登録免許税は司法書士報酬に含めて支払うのが一般的です。 譲渡所得(売却益)が発生する場合は、確定申告をして譲渡所得税を納めなくてはなりません。譲渡した年の1月1日現在で、所有期間が5年以下の場合は「短期譲渡所得」、5年超の場合は「長期譲渡所得」となります。 不動産投資の費用・税金に関する注意点 不動産投資の費用や税金に関する注意点は主に以下2つです。 必要経費になる支出とならない支出がある 不動産投資では、関連支出を経費に計上すると課税所得が減額され、所得税・住民税の負担軽減が期待できます。 ただし、必要経費になる支出とならない支出があります。たとえば、不動産所得にかかる所得税や住民税、不動産投資に直接関係ない支出は必要経費になりません。 必要経費になるか判断できない場合は、税務署や税理士に相談しましょう。 期限内に確定申告を行う 不動産所得や譲渡所得が生じた場合は、必ず期限内に確定申告を行いましょう。確定申告期間は毎年2月16日~3月15日です。期限内に申告を行わないと、延滞税などがかかる恐れがあります。 自分で確定申告をするのが難しい場合は、税理士に依頼することも可能です。 関連記事はこちら確定申告とは?手続きの流れや方法を解説 まとめ 不動産投資では、さまざまな費用や税金が発生します。物件を購入する場合は、これらの費用を踏まえた収支シミュレーションをした上で投資判断を行うことが大切です。不動産投資でかかる費用や税金を理解して、優良物件を探しましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 次に読むべき記事 自宅購入はより安全で優れた不動産投資!? 不動産投資といえば、マンションやアパートを貸し出して家賃収入を得ることをイメージするのではないでしょうか。しかし、考え方によっては賃貸暮らしの家賃支出をなくし、ローンの返済とともに資産を増や...

    2023.02.01不動産投資
  • 年金のみで生活できるのは5人に1人

    年金のみで生活できるのは5人に1人

    近年、「老後破産」という言葉は様々なメディアなどで取り上げられています。公的年金の財源や年金支給年齢引き上げの問題など、老後の生活に不安を感じている人も多いのではないでしょうか。 そこでこの記事では、現在持ち家所有者である60歳~65歳の男女395名を対象に、SBIエステートファイナンスが老後破産に関するアンケートを実施した調査結果をご紹介します。 年金のみで生活できるのは5人に1人 Q1.老後破産への不安はありますか? 老後破産への不安については、「不安がある」(36.7%)と「どちらともいえない」(34.2%)の回答が全体の70.9%となり、多くの人が老後破産について「不安はない」と言えないことが分かります。 【考察】 出典)内閣府『令和2年版高齢社会白書(全体版)』 内閣府が2019年に実施した「高齢者の経済生活に関する調査」によると、60~64歳の高齢者は25.6%の人が「家計にゆとりがなく、多少心配である」、もしくは「家計が苦しく、非常に心配である」と回答しています。 SBIエステートファイナンスの調査は、内閣府による調査と集計方法や対象が異なるものの、老後破産について「不安がある」と回答した人が多い結果となりました。 次回の内閣府の調査では、新型コロナウイルスの影響や近年の物価上昇などを受けて、家計にゆとりがないと回答する人が増加するかもしれません。 Q2.将来、年金(厚生年金と国民年金)のみで家計収支はプラスになる予定ですか? 年金のみで家計収支がプラスになるのは19.5%で、80.5%の人は年金だけでは老後の生活費を賄えないと認識していることが分かります。 【考察】 厚生労働省の2021年度の調査によると、老齢年金の平均年金月額は145,665円であると分かります。また、家計年報によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の平均支出は225,550円です。これらの調査は、あくまでも収入と支出のそれぞれの平均値であり、家計収支がプラスである人がどれくらいいるのかは不明でした。 一方で、SBIエステートファイナンスの調査では80.5%の人の家計収支がマイナスであるということが分かり、平均年金月額と平均支出の約80,000円の差からも納得できる結果となりました。 出典) ・厚生労働省『令和3年度厚生年金保険・国民年金令和4年12事業の概況』 ・令和2年度家計年報 Q3. 年金(厚生年金と国民年金)と将来想定される年金以外の収入(株や不動産収入等)で家計収支はプラスになりますか? 年金以外に想定される収入を含めたとしても、家計収支がプラスになる人は20.5%しか増えず、「いいえ」が60.0%を占め、老後の家計収支をプラスに出来ない人が大半であることが分かります。 年金以外に収入があっても、4人に1人は老後破産が不安 Q4.将来想定される年金(厚生年金と国民年金)と将来想定される年金以外の収入をすべてお答えください(複数回答可) 「個人年金保険」が39.2%ともっとも多く、次に「株式などの配当収入」が37.0%、「確定拠出年金」が25.3%とのことです。年金以外の収入を準備されていない人は15.9%となっています。 年金以外の収入源を持つ人の老後破産への意識の違い 年金以外の収入源が「無し」と回答した15.9%の人のうち、58.7%が老後破産について「不安がある」と回答しており、年金以外の収入源がある人と比較すると、老後破産への不安が高いことが分かります。 【考察】 「株式などの配当収入」や「民間の個人年金保険」の収入がある人は、約40%近くが「不安はない」と回答しています。一方で、「確定拠出年金」の収入がある人では、28.0%しか「不安はない」と回答していません。 確定拠出年金の制度が始まったのは2001年からのため、現在60~65歳の人は確定拠出年金だけでは、十分な収入になっていない可能性があります。また、「株式などの配当収入」や「不動産収入」がある人でも、4人に1人以上は老後破産について「不安がある」と回答しており、たとえある程度の資産を所有している人でも、老後破産は他人ごとではないのかもしれません。 まとめ 5人に1人しか年金のみでは家計収支はプラスにならず、安心した老後の生活を送るためには、年金以外の収入を早くから準備しておく必要があることが分かりました。まずは現時点での老後の収入金額の把握と、現時点での支出も踏まえ、節約できる費用なども考慮し、将来家計収支をプラスに出来るかどうかを確認しましょう。もし難しい場合は、収入を補填するための資産形成や住まいの資産価値の有効利用も含め、早めの対策をすることが大切です。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 次に読むべき記事 老後破産とは?その原因と事前の準備・対策を解説 「老後破産」は、日本人の高齢化などにより、取り上げられるようになったテーマの一つです。様々なメディアなどで目にする機会も増え、老後の生活を不安に感じる人もいるでしょう。 この記事では、老後破...

  • 不動産投資とは

    不動産投資とは?仕組みやメリット・デメリット、始め方を解説

    不動産投資は、安定収入が期待できる投資方法です。ゆとりある老後生活を送るための資産形成手段として注目されています。ただし、不動産投資にはリスクもあるため、不動産を購入する前に、正しい知識を身につけておくことが大切です。 この記事では、不動産投資の仕組みやメリット・デメリット、始め方について詳しく解説します。 不動産投資とは? 不動産投資とは、所有する不動産を貸し出して家賃収入を得る投資のことです。入居者がいれば、 自らが働くことなく毎月家賃収入を受け取れます。 「不動産投資は難しそう」と思うかもしれませんが、不動産選びから賃貸管理まで全てひとりで行う必要はありません。不動産を探す際には、不動産会社から紹介してもらいながら探すことができます。また、賃貸管理を管理会社に任せられるため、仕事をしながら副業として不動産投資に取り組むことも可能です。 不動産投資の利益は2種類 不動産投資の利益は、「インカムゲイン」と「キャピタルゲイン」の2つに分かれます。 インカムゲインとは、不動産の所有中に継続して得られる利益のことです。家賃収入や更新料などの、安定的・継続的な利益が該当します。 キャピタルゲインとは、不動産の売却によって得られる利益(売却益)のことです。不動産価格が上昇し、取得時より高い価格で売却できれば、取得価額と売却価額の差額が利益となります。 投資対象不動産の種類 不動産投資の対象となる主な不動産の種類は以下のとおりです。 一棟マンション 一棟アパート 区分マンション 戸建て 一棟マンション・アパートの投資は貸し出せる部屋数が多い分、相対的に大きな利益が期待できます。ただし、不動産価格が高額で、多額の資金が必要になります。 区分マンションの投資は、マンションの1室を貸し出す方法です。一棟物件に比べると価格は低額ですが、戸数が少ない分、一棟物件ほどの大きな利益は期待できなくなります。 また、戸建てを貸し出す方法もあります。戸建てを貸し出す場合、主な入居者としてファミリー層が想定されます。ファミリー層は入居期間が長い傾向にあるため、長期的な安定収入が期待できます。一方で、アパートやマンションに比べると入居者が見つかりにくい側面もあります。 それぞれの特徴を理解して、投資の対象とする不動産を選びましょう。 新築と中古の違い 不動産投資は、「新築」と「中古」の違いを理解しておくことも重要です。 新築は建物や設備が新しいので、入居者が見つかりやすく、長く稼働できます。一方で、購入して中古になると、すぐに資産価値が大きく下がるデメリットもあります。 中古は新築より不動産価格が低額ですが、築年数が経過していると、購入後すぐに多額の修繕費がかかることもあるので注意が必要です。 不動産投資のメリット 不動産投資には、以下のようなメリットがあります。 安定収入を得られる 不動産投資は、入居者がいれば毎月家賃が得られます。一般的な仕事とは異なり、労働時間や場所などに収入が左右されません。うまく運用できれば、大きな労力をかけることなく安定収入を確保できるでしょう。 他人資本を活用できる 不動産投資では、借入金で不動産を取得可能です。また、入居者からの家賃収入でローンを返済できます。まとまった自己資金を準備しなくても、他人資本を活用して効率的に資産を形成できます。 働かずに収入が得られる 不動産投資は、入居者がいれば、自らが働くことなく毎月家賃収入を受け取れます。不動産購入後の賃貸管理も管理会社に任せられるため、本業の仕事以外に余分な手間やコストをかけることなく収入を得ることができます。 生命保険効果がある 不動産投資で金融機関から融資を受けるときは、「団体信用生命保険(団信)」に加入するのが一般的です。返済中に契約者が死亡した場合は、団信の保険金で残債が弁済されるため、家族にローンのない不動産を残せます。 インフレに強い インフレ(物価上昇)時は、実物資産である不動産の資産価値は下がりにくく、家賃は上昇しやすい傾向にあります。また、物価が上昇しても額面金額は変わらないため、借入金額は実質的に目減りします。これらの特徴から、不動産投資はインフレに強いと言えます。 不動産投資のデメリット 一方で、不動産投資は以下のようなデメリットもあります。 さまざまな費用がかかる 不動産投資は購入時や所有中、売却時に次のような費用がかかります。 購入時   仲介手数料印紙税登録免許税(所有権移転、抵当権設定)司法書士報酬ローン事務手数料不動産取得税など 所有中 管理費・修繕積立金(区分マンションの場合)業務委託費(賃貸管理を業者に任せる場合)固定資産税・所得税住民税退去時の原状回復費用・修繕費など 売却時 仲介手数料印紙税登録免許税(抵当権抹消)ローン繰上返済手数料譲渡所得税(所得税・住民税) など 費用が収入を上回る場合、損失が生じてしまいます。購入時の費用だけでなく、投資期間中にかかる全ての費用も確認し、 収益を確保できるか見極めることが大切です。 関連記事はこちら不動産投資でかかる費用と税金の種類、注意点を解説 さまざまなリスクがある 不動産投資にはさまざまなリスクが存在します。「空室リスク」「災害リスク」「流動性リスク」の3つが代表的です。 空室リスクは、入居者が見つからず家賃収入を得られなくなるリスクです。空室期間が長期化すると、ローン返済に支障が出る恐れがあります。 災害リスクは、地震や火事、台風などによって建物が被害を受けるリスクです。空室の長期化、家賃・資産価値の低下を招く恐れがあります。 流動性リスクは、不動産を売却できなくなるリスクです。不動産を売却するには、不動産会社と媒介契約を締結して買い手を見つけなければなりません。なかなか買い手が見つからず、現金化に時間がかかることもあります。 関連記事はこちら不動産投資の8つのリスクとその対策 不動産投資の始め方 「不動産投資を始めたい」と思ったら、以下の流れで手続きを進めましょう。 十分な 知識を身につける 不動産会社を探して不動産を紹介してもらう 売買契約、融資契約、賃貸管理契約を締結する 入居者を募集し、賃貸借契約を締結する(空室の不動産を購入する場合) 関連書籍やセミナーなどで十分な知識を身につけてから、不動産会社を探して不動産を紹介してもらいます。不動産会社を選ぶときは、実績や業績、評判などを確認し、複数の不動産会社を比較・検討しましょう。 不動産が見つかったら売買契約や融資契約を行い、必要に応じて賃貸管理を依頼します。既に入居者がいれば、契約後すぐに家賃収入を得られます。空室の不動産を購入する場合は、入居者募集を行いましょう。 関連記事はこちら不動産投資の始め方 まとめ 不動産投資は安定収入が期待でき、他人資本を活用して効率的に資産を形成できるのが魅力です。一方で、購入時だけでなく所有中や売却時にも費用がかかり、空室リスク、災害リスク、流動性リスクといったさまざまなリスクも存在します。不動産投資の成功率を高めるためにも、十分な知識を身につけてから不動産投資を始めましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 次に読むべき記事 自宅購入はより安全で優れた不動産投資!? 不動産投資といえば、マンションやアパートを貸し出して家賃収入を得ることをイメージするのではないでしょうか。しかし、考え方によっては賃貸暮らしの家賃支出をなくし、ローンの返済とともに資産を増や...

    2023.01.18不動産投資
  • 廃業したら借入金はどうなる?廃業と借入金の関係や手続きまで解説

    廃業したら借入金はどうなる?廃業と借入金の関係や手続きまで解説

    自分が経営してきた会社を廃業する。廃業に至るには様々な原因や理由がありますが、いずれにしても重く大きな決断です。しかし、その決断を下す前に、基礎知識を身につけておくことが重要です。 そこでこの記事では、「会社を廃業したら借入金はどうなる?」「廃業するとき借入金が残っている場合の手続きを知りたい」等の疑問を抱く相談者にFPが解説します。 〔ご相談者 Sさん〕 ・45歳男性。自身の経営する会社の代表。 ・資金繰りが悪化したことにより事業の経営が厳しいと思っている。 ・一方で、借入金が残っている状態であり、廃業が可能か、手続きについても相談したい。 会社の廃業にはどのような方法がある? Sさん:今まで頑張って会社経営をしてきましたが、最近は資金繰りが苦しくなってきました。自分の年齢も考えると、いっそのこと廃業したほうが楽になるのでは?と思い始めました。会社の運転資金として銀行からの借入金が残っていますが、親が残してくれた財産などで、債務を返して会社を終わらせるつもりです。そのほかにもいろいろわからないことが多いので、教えて下さい。 FP加藤:わかりました。まずひとことで「廃業」と言っても、債務が残っている状態での廃業は、特別清算や破産などいくつかのパターンに分かれます。 Sさん:廃業のパターン? まずそのあたりから教えてください。 FP加藤:債務が残っている状態で廃業する2つの方法は、大きく「特別清算」と「破産」に分かれます。 Sさん:特別清算、破産、どちらもあまり穏やかな単語ではないですね。 FP加藤:確かにイメージは良くはないと思います。ですが、それぞれ法律に則った手続きなので安心してください 関連記事はこちら倒産や破産、特別清算の違いとは?根拠法や用語の意味を解説 特別清算と破産の違いとは? FP加藤:特別清算と破産はどちらも、会社の財産をすべて処分して債務を支払い、残った債務は会社とともに消滅させるという廃業の手続きです。原則として、どちらも手続きをすれば、負債の返済義務がなくなります。 Sさん:2つにはどのような違いがあるんですか? FP加藤:言葉ではつかみにくいかも知れませんので、簡単な一覧表にして見ました。 2つの方法~「特別清算」と「破産」 特別清算破産 根拠法会社法破産法 申立人債権者、清算人、監査役、株主債権者、清算人、取締役、債務者 同意株主、債権者の同意が必要株主、債権者の同意は不要 出典) ・e-Gov法令検索(会社法:第511条) ・e-Gov法令検索(破産法:第18条、第19条) FP加藤:特別清算と破産の違いを比較すると上図のようになります。ここで出てきた新しい言葉「申立人」も簡単にポイントをお話しします。 Sさん:はい、お願いします。 FP加藤:申立人とは「特別清算や破産の手続きをする人」といった意味で、つまり当事者かつ手続きする資格のある人を指します。特別清算の申立人は、会社法により債権者・清算人・監査役・株主と定められています。一方で破産の申立人は、破産法で債権者・清算人・取締役・債務者です。 Sさん:それぞれ対応する法律があって、申立人も微妙に違うんですね。 FP加藤:そうですね、また特別清算では株主や債権者の同意が必要なのに対し、破産ではこうした同意が不要なところも違いますね。 Sさん:「特別清算と破産は根拠の法律は違い、当事者も微妙に違う」「特別清算は株主などの同意が必要だけれど、破産は当事者が単独で手続きできる」といった感じでしょうか? FP加藤:シンプルにまとめるとそうなりますね。 特別清算と破産、どちらが良いか Sさん:そこでいよいよ一番教えていただきたいことですが、特別清算と破産のどちらが良いんでしょうか? FP加藤:はい、そうですね。まず特別清算と破産は似て非なるものです。特別清算と破産のどちらが良いか? それは会社の状態により、ケースバイケースなんです。特別清算は、どちらかと言えば債権者と話し合いながら進めていく手続きと言えるでしょう。一方で破産は、債権者などの同意が不要な点からも、会社に残された資産がなく、裁判所の力を借りて強制的に会社を整理する手続きと言えます。 Sさん:では、私の会社はどうすれば良いでしょう? FP加藤:そうですね、会社の状況や資産内容など多角的に見てからでないと判断はできません。会社を廃業する場合において、すべての債務を返済することが可能であるなら、債権者の同意を得られるため特別清算の手続きを進めるのが良いでしょう。 廃業の注意点〜借入金を解消する2つの方法 FP加藤:ではここで、債務の中でも借入金をどうするか?について解説したいと思います。 Sさん:確かに、一番心配になるのは借入金のことですね。ぜひ教えてください。 金融機関からの借入金 FP加藤:銀行等の金融機関からの借り入れは、会社に完済できるだけの財産が残っていれば、そこから返済すれば終わりです。逆に財産がなければ、破産の手続きを選択し、債務を免れる選択が考えられます。ただし、代表者が会社の保証人になっていない場合の話です。 Sさん:それはどういう意味ですか? FP加藤:金融機関が会社に融資をする場合、代表者が会社の保証人になるのが一般的です。その場合、会社が特別清算と破産のどちらかを選択して会社の債務は消滅したとしても、 保証人になっている代表者の返済義務は残ります。そのため代表者に資産があるなら、特別清算を選択し代表者個人が会社の債務を返済するという対策も考えられます。一方で、会社だけでなく個人にも資産がない場合は、破産手続きにより廃業したあと、保証人である代表者個人も自己破産をするケースが想定されます。 役員からの借入金 Sさん:私の場合、会社に対して運転資金などを個人から融通し、会社決算でも個人からの貸付金としてかなりの額が残っています。こちらは廃業するときにどうすべきでしょうか? FP加藤:役員や代表者からの借入金については、悩ましい問題です。決算書に借入金と記載されているので、代表者からの借入金も会社から見れば金融機関からの融資や未払金と同じ債務です。とはいえ、金融機関からの融資や 仕入先への未払金を後回しにして、役員からの借入金を支払うと道義的にも問題が生じるでしょう。そう言った点から、役員からの借入は債務免除、つまりは帳消しになるケースが多いのです。 Sさん: なるほど、確かに役員など身内ばかりを優先してはいけませんね。ところで、個人が債務免除をした場合、税金などは大丈夫なのでしょうか? FP加藤:はい、その点ですが「得をした人が税金を払う」「もらった人が税金を払う」のが大原則です。例えば贈与税は、贈与を受けた人、つまりもらって得をした人が払うのが贈与税で、 贈与した人・あげた人には税金がかかりません。この考え方を引用すると、債務免除をした場合に得をするのは、借金を帳消しにしてもらった会社です。そして債務免除、つまり借金を帳消しにした個人に利益はないので、税金がかかりません。会社に対しては、債務免除益が発生し税金の課税対象になりますが、廃業する会社のほとんどは赤字企業なので、債務免除益は赤字に吸収されて終わりなのが一般的です。 まとめ Sさん:廃業について考え始めても、実は何をどこからどう手をつけていいか?全く分からない状態でした。今回は今さら聞けない初歩的なことまでわかりやすく説明してもらい、目の前が明るくなった気がします。 FP加藤:そう言っていただければ、私も嬉しいです。廃業については慎重に検討するべきですが、やはり弁護士などの専門家のアドバイスを求められるのが一番だと思います。ぜひ、信頼できる専門家に出会い、手続きをスムーズに進められることを願っています。 執筆者紹介 加藤 隆二(Ryuji Kato) 勤続30年の銀行員でマネーライター、 ファイナンシャルプランニング技能士2級。銀行員として事業資金調達から、住宅ローン、カードローンなど借入全般に従事。 次に読むべき記事 ”明るい廃業®”を掲げる新生銀行に ニッポンの経営者の本音を聞いた 日本には、2021年6月時点でおよそ367万4000社の企業があります。(総務省・経済産業省による発表)そのうち中小・小規模事業者の数は99.7%を占めるといいます。 そして、2017年に中...

  • 倒産や破産、特別清算の違いとは?根拠法や用語の意味を解説

    倒産や破産、特別清算の違いとは?根拠法や用語の意味を解説

    会社の経営が立ち行かなくなると、廃業を検討することもあるでしょう。「倒産」「破産」「特別清算」はいずれも廃業に関する用語ですが、廃業時に適切な方法を選択するためにも、用語の意味や違いを理解しておくことが大切です。 この記事では、「倒産」「破産」「特別清算」の意味やそれぞれの根拠法、違いについて解説します。 倒産とは 倒産は、中小企業倒産防止共済法第2条おいて、下記のいずれかに該当する場合と定義されています。 破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始又は特別清算開始の申立てがされること。 手形交換所において、その手形交換所で手形交換を行っている金融機関が金融取引を停止する原因となる事実についての公表がこれらの金融機関に対してされること。 電子記録債権法第二条第二項 に規定する電子債権記録機関において、その電子債権記録機関で電子記録債権を取り扱う金融機関が金融取引を停止する原因となる事実についての公表がこれらの金融機関に対してされること。 前三号に掲げるもののほか、過大な債務を負っていることにより事業の継続が困難となっているため債務の減免又は期限の猶予を受けることを目的とするものと認められる手続であって、その開始日を特定することができるものとして経済産業省令で定めるものがされること。 出典)中小企業倒産防止共済法(第2条) この条文から、倒産とは、法人や個人が破産手続・特別清算開始などの申立て、金融取引の停止、業績不振などによって経済的に破綻し、債務弁済や事業継続が困難な状態になることと言えます。 破産とは 破産とは、負債の整理方法の1つです。裁判所に破産手続開始の申立てをし、破産手続開始決定がされることで、債務者が支払不能の状態にあることを宣言します。なお、支払不能は破産法第2条において、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいうと定義されています。 出典)破産法(第2条) 破産手続開始決定の際は、原則として裁判所によって破産管財人(弁護士など)が選任されます。破産管財人は、債務者の全ての財産を現金化して債権者に分配します。破産管財人が選任されると、債務者は次のような制限を受けることがあります。 居住制限を受ける(転居・長期の旅行は裁判所の許可が必要) 郵便物が破産管財人に転送されることがある 破産管財人に対して財産状況の説明義務を負う 個人の場合は、破産手続開始の申立てをすると、同時に免責許可の申立てをしたものとみなされます。ただし、破産手続開始決定だけで債務の支払義務が免除されるわけではありません。事案に応じて免責判断が行われます。虚偽の説明をした場合など、事由によっては免責が認められないこともあります。法人には免責制度はありませんが、破産によって解散すると法人格を失い、債務が消滅するのが一般的です。 出典)裁判所「自己破産の申立てを考えている方へ」 特別清算とは 特別清算とは、債務超過の状態で解散した株式会社を清算するための法的手続きです。会社法第510条では、特別清算を開始する事由について下記のように記載されています。 清算の遂行に著しい支障を来すべき事情があること。 債務超過の疑いがあること。 出典)会社法(第510条) 特別清算は破産に比べると厳格な手続きを要求されず、簡易かつ迅速に会社を清算できるのが特徴です。特別清算開始の決定後、会社が選任した清算人が財産目録や協定案の作成、債権者集会の招集などを行います。 債権者集会において、「出席者の過半数」および「総債権額の3分の2以上」の同意を得られると協定案が可決されます。その後、裁判所の協定認可の決定により、特別清算手続きが実施されます。 協定案の内容は、債務者の間で平等であることが求められます。ただし、不利益を受ける債権者の同意がある場合などは、債権者の間で差を設けることも可能です。 倒産や破産、特別清算の違い 「倒産」「破産」「特別清算」は、それぞれ根拠法に違いがあります。 倒産は「中小企業倒産防止共済法」で定義されている用語です。破産は「破産法」、特別清算は「会社法」において、申立てや手続開始、効力などについて記載されています。 また、倒産の根拠法である「中小企業倒産防止共済法」の中で、破産手続開始や特別清算開始が倒産の状態に該当すると記載されています。このことから、倒産は法人・個人が債務弁済や事業継続が困難な状態にあることを意味する大きな概念であり、破産や特別清算は倒産の1つであることがわかります。なお、負債の整理方法として、破産や特別清算のほかに「任意整理」「特別調停」「個人再生」「民事再生」などの方法を選択することも可能です。 まとめ 「倒産」「破産」「特別清算」はいずれも廃業に関する用語ですが、根拠法が異なります。実際に廃業を選択する際には、弁護士などの専門家に依頼し、その意味を正しく理解したうえで手続きを進めるようにしましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 次に読むべき記事 ”明るい廃業®”を掲げる新生銀行に ニッポンの経営者の本音を聞いた 日本には、2021年6月時点でおよそ367万4000社の企業があります。(総務省・経済産業省による発表)そのうち中小・小規模事業者の数は99.7%を占めるといいます。 そして、2017年に中...

    2023.01.04制度
  • 家族信託とは?仕組みやメリット・デメリット、手続き方法を解説

    家族信託とは?仕組みやメリット・デメリット、手続き方法を解説

    親の判断能力が低下した場合、子どもの判断で親の財産を運用・処分することはできません。親の認知症対策としては「成年後見制度」が一般的ですが、近年では新たな財産管理方法として「家族信託」が注目されています。家族信託とはどのような制度なのでしょうか。 この記事では、家族信託の仕組みやメリット・デメリット、手続き方法について解説します。 家族信託とは 家族信託とは、財産の管理・処分を家族に任せるための仕組みです。預貯金や不動産、有価証券のように換価できる財産を託すことができ、以下の三者で構成されます。 委託者(財産管理を任せる人) 受託者(委託者から任された財産を管理する人) 受益者(財産から生じる利益を受け取る人) 認知症などによる判断能力の低下に備えて、財産を管理する権限を家族(受託者)に与えます。本人(委託者)が判断能力を失った後は、本人の意向に沿って家族が財産管理を行います。家族信託では、委託者と受益者が同じ人になるケースが一般的です。 出典)家族信託普及協会「家族信託とは?(制度の概要)」 家族信託と成年後見制度の違い 成年後見制度とは、認知症などの理由で、財産管理や契約手続きなどを自分で行うのが難しい人を保護し、支援するための制度です。本人の判断能力が低下した後は、本人に代わって後見人が財産管理等の事務を行います。 成年後見制度は認知症対策として有効ですが、本人の財産保護の観点から、財産の運用や処分について柔軟に対応できないのがデメリットです。また、弁護士や司法書士などの専門職が後見人になる場合は、毎月2万円~6万円程度の支払いが発生し、原則として亡くなるまで続きます。 一方、家族信託は信託契約の内容を自由に決められるため、柔軟な財産管理と運用が可能です。 出典)東京家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」 家族信託と商事信託の違い 家族信託と商事信託の大きな違いは、「受託者」です。上述のとおり、家族信託では家族が受託者となるのに対し、商事信託は信託会社や信託銀行が受託者となります。 つまり、営利目的で業として行われる信託であるため、信託報酬や手数料等の費用が発生することになります。一方で、家族信託と違って専門家が適切に財産を管理してくれます。「家族に迷惑をかけたくない」、「専門家に適切な財産管理をお願いしたい」といった場合は、商事信託も検討してみましょう。 家族信託は商標登録されている 家族信託という言葉は、一般社団法人家族信託普及協会が以下の目的で商標登録をしている言葉です。 「家族信託」という言葉を使いながら、家族親族でない方が「業として」信託を引き受ける商品名にこの言葉を使用するなど、一般の方々に誤解を与えてしまう使い方をされないことを防止する目的 同協会によると、正しく「家族信託」の名称を使用する場合は、協会の許可等なく「家族信託」という名称を使用しても良いとされています。ただ、各種広告やホームページ等を見ると、商標登録されている「家族信託」という名称を避け、「民事信託」等の名称が用いられている場合もあります。 出典)一般社団法人家族信託普及協会「商標登録につきまして」 家族信託のメリット 家族信託には以下のようなメリットがあります。 認知症の親の財産を犯罪から守ることができる 認知症になると判断能力が低下するため、詐欺などの犯罪に巻き込まれる恐れがあります。判断能力があるうちに信託契約を締結することで、信頼できる家族に財産管理を任せることが可能です。また、親が認知症になった後も、本人の意向に沿って子どもが管理・運用できるため、財産を犯罪から守ることができます。 子どもの判断で親の財産の管理・運用・処分ができる 家族信託では、受託者が委託者の財産を管理します。親が認知症になった場合は、受託者である子どもの判断で親の財産の管理・運用・処分が可能です。介護費用などが必要になっても、親の財産を現金化できるので安心です。 相続対策として活用できる 家族信託では、契約で財産の承継順位を定めることが可能です。最初に指定した受益者が亡くなっても、次の受益者を誰にするかを指定できます。生前贈与や遺言には、このような機能はありません。 また、不動産を複数の相続人で共有する場合、賃貸経営や処分を行う際は共有者全員の同意が必要です。家族信託で共有者の1人に不動産の管理処分権限を与え、不動産から生じる収益は各共有者に公平に分配することによって、相続トラブルの防止が期待できます。 家族信託のデメリット 家族信託は信託財産の金額に応じて、弁護士や司法書士への報酬、公正証書の作成費用、登記費用などがかかります。専門家への報酬は基準がないため、事前に料金を確認した上で依頼することが大切です。 信託財産から年3万円以上の収益が発生する場合は税務署への書類提出が求められるなど、受託者は税務申告の手間がかかる恐れがあります。 また、信託財産から生じた損失は、信託財産以外から生じた所得との損益通算ができません。大規模修繕の予定がある不動産などがある場合は、信託契約を締結する前に税理士と相談しましょう。 家族信託の手続き方法 家族信託の手続きの流れは以下のとおりです。 ①家族信託の目的、信託財産、受託者と受益者の決定 まずは家族信託を利用する目的を明確にした上で、信託する財産の範囲や管理方法、受託者と受益者を誰にするかなどを決めます。信託や相続に関する専門知識も必要になるため、弁護士などの専門家に相談しましょう。 ②信託契約の締結・公正証書の作成 次に、信託契約書を作成して契約を締結します。信託契約の際は、金融機関で信託口口座を開設する際に提出が求められるため、公正証書を作成しましょう。契約時に公証人が意思確認を行うため、信託契約の有効性を証明することができます。 ③信託財産の名義変更 信託契約を締結したら、信託財産の名義を委託者から受託者に変更します。信託財産に不動産が含まれている場合は、「所有権移転登記」と「信託登記」の2つが必要です。 所有権移転登記は、不動産の名義を委託者から受託者に移転する手続きで、委託者と受託者が共同で申請します。 信託登記は、不動産が信託財産であることを第三者に対抗するための登記です。受託者等の住所・氏名や信託の目的、不動産の管理方法などを登録します。 ④信託口口座の開設 受託者には分別管理義務があり、受託者固有の財産と信託された財産を明確に分けて管理することが求められます。信託財産を分別管理するために、金融機関で信託口口座を開設します。信託口口座の財産は、信託契約で定めた目的に従って、受託者の判断で管理・運用が可能です。 まとめ 家族信託を利用すれば、家族に財産の管理や処分を任せられます。成年後見制度に比べると柔軟な財産管理が可能で、相続対策に活用できるのもメリットです。親の財産管理を行う予定がある場合は、家族信託を検討してみてはいかがでしょうか。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 次に読むべき記事 相続争いを生まないためのリースバックという選択肢 自宅を所有していると、老後も住み続けられる安心感がある一方で、相続に不安を感じることもあるのではないでしょうか。不動産は実物資産であるため、相続人が複数いると簡単に分けられません。また、相続...

  • <介護と保健ガイドブック>介護におけるコミュニケーション

    <介護と保健ガイドブック>介護におけるコミュニケーション

    介護におけるより良いコミュニケーションとは 介護される人の心理状態を理解しよう より良い介護を行うためには、介護される人、介護する人、この両者間のコミュニケーションが非常に大切なものになります。介護をされる人の心理状態を知っておくことはとても重要です。相手がどういう心理状態なのかを理解できれば対応の方法もわかり、お互いの関係を良好に保つことにつながります。 一見わがままだと思えることも、介護されることへの申し訳ないという思いや家族に負担をかけることへの罪悪感、今までできていたことができないことへのいら立ちなどからくるものなのかも知れません。ここでは介護を受ける人が一般的にどのような気持ちを持つことが多いのかを紹介します。 ただし、実際にはひとりひとりに個人差がありますので、紹介する心理状態が必ずしも当はまる訳ではありません。介護される人と介護する人がよく話し合い、お互いの気持ちを知り、思いやりを持って接することが大切です。 【介護を受ける人の心理状態】 それまで、できていたことができなくなることによるイライラ、焦り、不満などを抱えていることがある。 自由にできていたことが人の手を借りないとできなくなることによる欲求不満から、攻撃的になる場合もある。 介護してもらうことに申し訳ないという罪悪感を持っていたり、負い目を感じていたりする場合もある。 排泄や入浴などの介助を受ける場合、恥ずかしいという意識をもつ場合もある。 高齢者の一般的な心理背景 介護を受ける人との接し方のポイント 介護を受ける人と接する場合、具体的にどのようなことに配慮して、どのような心がまえ、態度で対応したらよいのでしょうか。そのポイントを紹介します。 傾聴、受容、共感が大事 相手の気持ちや考え、状態を理解するには、まず相手の話にじっくりと耳を傾ける「傾聴」が大事です。また、話を聞いたら否定せず、ありのままを受け入れる「受容」、そして、相手の喜怒哀楽に「共感」する姿勢を持つことも大切です。相づちを打ちながら聞く、相手の言ったことに質問をしたり、聞いた言葉をそのまま繰り返したりするなど、相手の話をよく聞いているということを示すようにしましょう。相手と目線の高さを合わせ、相手の表情も見ながら話すように心がけると、より良いコミュニケーションにつながります。 非言語コミュニケーションも大事 コミュニケーションは、言葉だけで行われるものではありません。例えば、声の大きさや発し方にも気を配りましょう。「高齢者は耳が遠いから大声で話す」と思いがちですが、十分に聞こえている人もいます。相手の状態を見て、声の大きさは調整するようにします。一般的に、少し低めの声で、ゆっくり、はっきりと話すと聞き取りやすいといわれています。また、言葉で説明するだけでは伝わりにくいと思う場合、身ぶりや手ぶりを交える、文字で書いて示す、現物を見せるなどの工夫も有効です。さらに、肩に手を置く、手を握るなど、スキンシップも有効な場合があります。このように相手の状態をよく観察しながら、上手にコミュニケーションがとれるように工夫しましょう。できるだけリラックスして話せるように静かな環境を整えることも大切です。 「できることは本人にやってもらう」のが基本 介護というと、なんでもかんでもお世話をするものと思いがちですが、手を出し過ぎるとその人の機能低下を招くことにもなりかねません。「できることは本人にやってもらう」のが基本です。そのためには、衰えた機能ばかりに目を向けるのではなく、その人ができることは何かを見つけて、その能力を引き出すような援助を心がけましょう。また、介護を受ける人は、それまで自力でできていたことが他人の手を借りなければできなくなっていることに負い目を感じている場合もあります。その人ができることを見つけ、何かの役に立っているという自己有用感を持ってもらうことも大切です。それが生きる喜び、生きたいという意欲にもつながります。いたずらに「頑張れ」と励ますだけではなく、その人の意に沿った具体的な目標を決め、達成できたらそれを一緒に喜び合うという姿勢を持ちましょう。 その人らしさ、その人らしい暮らしを大切に ここに挙げたのは一般的にいわれていることです。人にはそれぞれ個性があります。杓子定規に考えて決めつけることはせず、一人ひとりに合った対応を心がけましょう。本人の意志、その人らしい暮らし方を尊重することが、より良い関係を築くためにとても重要です。 よくある事例への対応 物を盗られたと訴える 物を盗られたと訴える「物盗られ妄想」は、アルツハイマー型認知症に多く見られる症状で、一番身近な介護者を疑うことも多いのです。このような場合、本人に理屈を説明しても納得してもらうことはむずかしく、介護者が見つけるとより疑いが強まる場合もあります。一緒に探し、本人が見つけるように誘導しましょう。 入浴や着替えをいやがる 服を脱がされることが恥ずかしくて拒否していることも考えられます。その場合は、同性の家族が一緒に服を脱いであげると抵抗感がなくなることもあります。また、入浴は浴室でするということにこだわらず、部分的な清拭を行ったり、ベッドサイドで足浴をしたりすることでもよいでしょう。無理をすると思わぬ事故につながることもあるので、介護サービスなどの入浴サービスを利用することも一案です。 知らない間に出て行き、帰れなくなる 昔住んでいた家や思い出深い場所に行ってみたくなり、知らない間に出て行き、帰る場所がわからなくなって徘徊し保護されるケースも…。このような場合は無理に止めず、一緒に出かけて近所を一周すると落ち着くこともあります。また「今日はもう遅いので、明日にしましょう」などと声がけをし、延期してもらうことで落ち着くこともあります。声がけで止めるのがむずかしい場合、玄関などにセンサーをつけておく、夜間などは二重ロックをかけるなどの対応策をとることも考えましょう。 介護をする人自身が健康を損なわないように まじめな人ほど、介護の手を抜いたり他人任せにすることに罪悪感を感じ、頑張ってしまいがちです。しかしそれが続くと、介護をする人が体調を崩したり、精神的に追い詰められたりしてしまいます。ここでは、介護をする人の心身を守るために心がけておきたいことを紹介します。 周りに協力を求め、一人で抱え込まない もっとも大切なのは、ひとりで抱え込まないことです。協力してくれる人を周りにたくさんつくっておくことで精神的な余裕が生まれます。家族内で分担をする、それが無理ならば離れている兄弟や近所の人、あるいは介護ヘルパーなどのプロの手もぜひ借りましょう。 介護を支援する制度をうまく利用する 介護保険制度だけではなく、その他の公的なサービスも徐々に増加しています。まずは自治体の窓口で、どのようなサービスが利用できるのかを相談してみましょう。各自治体ごとに提供されるサービスが異なりますので、情報収集をしっかりと行うことが大切です。また、福祉用具や機器の貸し出しなど、経済的な負担を軽減する制度もあるので上手に利用しましょう。 家族だからできる介護とは? 介護のための技術を習得しているプロの手を借りたほうが安全であったり、介護される人も気が楽だったりする場合もあるでしょう。しかし家族には、苦楽をともにしてきた経験や時間という、他人には共有できないものがあります。あるベテランのヘルパーは「私たちがどんなに頑張っても、家族の間でのやりとりから生まれる自然な笑顔を引き出すことはできない」と言います。公的サービスも大いに活用すべきですが、家族だからこそできることを同時に考えていくことが、より良い介護につながります。 広がり始めた「見守りサービス」 超高齢社会を迎え、一人暮らしの高齢者や高齢の夫婦のみといった「高齢者だけの世帯」が増えています。離れて暮らす家族にとって、高齢の親や親族の安否をつねに確認できることは、安心につながります。高齢者が住み慣れた土地で自立して暮らし続けるには、周囲の見守りが欠かせません。現在、地方自治体や多くの民間事業者などが、効果的な高齢者の「見守りサービス」に取り組んでいます。 見守りサービスには、安否の確認や通報、駆けつけを代行してくれるものなど、さまざまなタイプがあります。自治体が実施している見守り関連事業には「安否確認」「緊急通報システム」「配食サービス」「コミュニティ活動や学習活動」「サロンの運営・管理」などがあります。介護保険によるサービスに加え、多くの自治体では、民生委員や地域包括支援センターによる一人暮らしの高齢者への見守り活動、民間事業者と連携した支援の提供などに取り組んでいます。 サービスの情報 新型コロナウイルスの影響により、離れて暮らす高齢の家族を訪ねることが困難な状況の中で、カメラ型やセンサー型などの見守り装置の設置が注目されています。パソコンやスマホを使って、遠隔で家族を見守ることが可能です。 自治体が行う支援やサービスについては、内容や要件などが各自治体によってそれぞれ異なります。利用する際は、居住する市区町村の福祉課や地域包括支援センターなどに問い合わせてください。民間事業者が手がけるサービスについては、企業の公式サイトなどで情報を入手することができます。自治体と連携しているサービスでは、機器の設置などが助成対象になる場合があります。 出典)一般社団法人日本保健情報コンソシウム発行 『介護をする家族のための介護と保健ガイドブック』より引用

  • 中小企業退職金共済とは? 制度概要とメリット・デメリット、加入手続きの流れを解説

    中小企業退職金共済とは? 仕組みやメリット・デメリットを解説

    中小企業退職金共済(中退共)とは、中小企業のための退職金制度です。自社で退職金制度を持つのが難しい中小企業でも、中小企業退職金共済に加入することで、手軽に退職金制度を導入できます。 この記事では、中小企業退職金共済の仕組みやメリット・デメリット、加入手続きの流れについて解説します。 中小企業退職金共済とは 中小企業退職金共済とは、主に中小企業の常用労働者を対象とした退職金共済制度です。事業主が掛金を納付することによって、従業員に中小企業退職金共済から退職金が支払われます。 自社で従業員の退職金を管理・運用することが難しい中小企業でも、中小企業退職金共済に加入すれば簡単に退職金制度の導入が可能です。 制度開発の背景・目的 中小企業退職金共済は、1959年(昭和34年)に中小企業退職金共済法に基づいて設けられました。単独で退職金制度を持つことが困難な中小企業に対して、事業主の相互共済の仕組みと国の援助で退職金制度を設け、従業員の福利厚生の充実と雇用の安定を図ることによって、中小企業の振興・発展に寄与することを目的としています。 制度の仕組み 中小企業退職金共済制度は、独立行政法人勤労者退職金共済機構(中小企業退職金共済事業本部)によって運営されています。中小企業退職金共済の仕組みは以下のとおりです。 出典)厚生労働省「一般の中小企業退職金共済制度のしくみ」 事業主が中小企業退職金共済と退職金共済契約を結ぶ 事業主は毎月掛金を納付する 従業員が退職したときは、事業主が中小企業退職金共済に退職届を提出する 退職者本人からの請求により、中小企業退職金共済から直接退職金が支払われる 掛金は全額事業主負担であり、従業員に負担させることはできません。掛金月額は5,000円以上30,000円未満で従業員ごとに選択することができます。 加入条件 中小企業退職金共済に加入できるのは、「常用従業員数」または「資本金・出資金の額」のいずれかが次の範囲内である企業です。個人企業や公益法人等は常用従業員数で判断します。 業種 常用従業員数 資本金・出資金の額 一般業種(製造業、建設業など) 300人以下 3億円以下 卸売業 100人以下 1億円以下 サービス業 100人以下 5,000万円以下 小売業 50人以下 5,000万円以下 常用従業員には、一週間の所定労働時間が同じ企業に雇用される通常の従業員とおおむね同等で、「雇用期間の定めがない者」「雇用期間が2ヵ月超の者」も含まれます。中小企業退職金共済に加入するためには、短時間労働者等の従業員を除き、原則として従業員が全員加入する必要があります。 出典)厚生労働省「よくわかる中小企業退職金共済制度」 中小企業退職金共済のメリット 中小企業が中小企業退職金共済制度に加入するメリットは以下のとおりです。 掛金の一部を国が助成する 中小企業退職金共済には、掛金の一部を国が助成する制度があります。助成期間中は掛金月額から助成額を控除した額を納付するため、事業主の負担軽減が期待できます。国からの助成は次の2種類です。 助成の種類 助成額 助成期間 新規加入助成 (1)掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5,000円)(2)短期労働者の特例月額(2,000~4,000円)は、(1)に300~500円を上乗せ 加入後4ヵ月目から1年間 月額変更助成 18,000円以下の掛金月額を増額する場合、増額分の3分の1 増額月から1年間 ただし、同居親族のみを雇用する事業主などは助成の対象外となります。 掛金は非課税 中小企業退職金共済の掛金には、税法上の特典が設けられています。法人の場合は損金(税務上の費用)、個人事業の場合は必要経費として全額非課税となるため、事業主の税負担の軽減が期待できます。 管理に手間がかからない 中小企業退職金共済は、退職金制度の管理に手間がかからないのもメリットです。毎月の掛金は口座振替で、従業員ごとの納付状況や退職金の試算額は中小企業退職金共済が知らせてくれます。そのため、手間をかけずに退職金制度の導入・運営が可能です。 中小企業退職金共済のデメリット 一方で、中小企業退職金共済には以下のようなデメリットもあります。 掛金の減額は原則できない 中小企業退職金共済では、原則として掛金月額の減額はできません。掛金月額の減額が認められるのは、次のいずれかの場合に限られます。 従業員が同意した場合 現在の掛金月額の継続が著しく困難であると厚生労働大臣が認定した場合 掛金月額の増額変更はいつでもできます。しかし、減額は簡単にできないため、掛金月額の設定は慎重に行うことが大切です。 出典)厚生労働省「よくわかる中小企業退職金共済制度」 元本割れする恐れもある 中小企業退職金共済は、掛金の納付期間によっては元本割れする恐れもあります。 掛金の納付月数が11ヵ月以下の場合、退職金は支給されません。また、12ヵ月以上23ヵ月以下の場合は掛金納付総額を下回り、元本割れとなります。中小企業退職金共済で元本割れを避けるには、24ヵ月以上の掛金納付が必要です。 出典)中小企業退職金共済事業本部「従業員の退職金は中小企業退職金共済制度(9.退職金について)」 従業員しか加入できない 中小企業退職金共済に加入できるのは従業員のみで、経営者や役員は加入できません。経営者が老後の生活に備えるには、中小企業退職金共済以外の制度を利用して自分で退職金を準備する必要があります。 中小企業の経営者や役員は、一定の条件を満たせば「小規模企業共済」に加入できます。退職金の準備に活用できるため、必要に応じて検討しましょう。小規模企業共済については、以下の記事で詳しく解説しています。 関連記事はこちら小規模企業共済とは?メリット・デメリットと加入までの流れを解説 中小企業退職金共済の加入手続きの流れ 中小企業退職金共済へ加入する場合は、事業主が手続きを行います。加入手続きの流れは以下のとおりです。 加入申込書に必要事項を記入して金融機関などに提出する 中小企業退職金共済本部と退職金共済契約を締結する 中小企業退職金共済本部から従業員ごとの「加入通知書」および「退職金共済手帳」が送付される 加入申込書は申込先の窓口に用意されています。銀行や信用金庫といった金融機関のほか、商工会議所などでも申込み可能です。常用従業員数が一定規模以上の場合は、「中小企業者であることの証明」の提出も求められます。 出典)中小企業退職金共済事業本部「手続きのご案内」 まとめ 退職金制度は、従業員にとっては退職後の生活の安定に不可欠なものです。従業員の意欲向上や雇用の安定につながるため、企業経営にもプラスの効果が期待できます。自社で退職金制度を持つのが難しい中小企業は、中小企業退職金共済への加入を検討してみてはいかがでしょうか。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 次に読むべき記事 個人事業主などの自営業者は年金が少ない?年金対策も解説 個人事業主などの自営業者は、会社員に比べて年金が少ないと言われます。しかし、具体的にはどのくらい異なるのでしょうか。年金額が少ないと言われる理由は、自営業者と会社員では、適用される年金制度が...

    2022.12.14制度
  • 資産承継と資金調達を同時に解決。「資産承継ローン」が次世代に残すもの

    資産承継と資金調達を同時に解決。「資産承継ローン」が次世代に残すもの

    総人口に占める65歳以上の割合が3割を超え、高齢者率が主要国の中で最高となった日本では、2025年には約800万人いる団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となり、国民の4人に1人が後期高齢者という超高齢化社会を迎えます。労働人口は減っていく中、年金や老後2,000万円問題など老後の資金についての不安が高まっています。 また、資産に関しては土地や家屋などの不動産が相続財産全体の4割を占めていますが、遺産としての不動産は管理や分配が難しく、トラブルに発展するケースも少なくありません。 図:相続財産の金額構成推移 出典)国税庁(2020年) こうした悩みを抱える方々のために新生インベストメント&ファイナンスは、資産承継における問題解決を目的とした「資産承継ローン」を商品化しています。今回は、新生インベストメント&ファイナンス株式会社 代表取締役社長 山田茂様にお話を伺いました。 老後資金の調達と資産の承継を同時にできる新しい形の不動産担保ローン ―――新生インベストメント&ファイナンス様について教えてください 新生銀行グループ唯一の不動産ノンバンクとして、個人や個人事業主、中小企業のビジネスサポートや資産形成など多様なニーズにお応えしております。また、第二種金商業者として、グループの中で行われている投資ビジネスのストラクチャーやプラットフォームを提供するというユニークな機能も持ち合わせています。 私自身は不良債権回収や回収管理のシステム構築、外資系サービサーへの出向など債権管理に関するキャリアを積み、2000年以降は債権投資のビジネスに携わってまいりました。その後、新生銀行の不動産ファイナンス部、不動産リスク管理部で不動産ファイナンスの営業、リスク管理を担当し、2020年より現職についております。 ――資産承継ローンとはどのようなサービスですか? 高齢者が、負債の整理や老後の資金の確保、相続対策などを目的に、親族や親族が経営する法人に不動産を売却する際に利用できる不動産担保ローンです。信頼できる人に不動産を引き継ぎながら資金ニーズも満たすこともできる、これまでにない新しい形のサービスです。 ――どのような経緯から生まれたサービスなのでしょうか? 老後の資金や会社の負債整理など高齢のお客様が資金調達を考えるケースは多数あります。しかし、不動産を所有されていたとしても返済期間の設定などの問題もあり、不動産を担保に借入をするのは難しいのが現状です。不動産を利用した資金調達方法としては「セール&リースバック」「リバースモーゲージ」などもありますが、第三者に大切な家や事業所を売却してしまう寂しさ、賃料を払い続けることに不安を感じる方もいらっしゃいます。 こうしたお悩みを持つお客様に寄り添えるサービスが必要なのではないかということから「資産承継ローン」が誕生しました。 ―――サービス開始からこれまでにどれくらいの方が利用されていますか? 2021年8月のサービス開始から34件が成約しています。店舗・事務所が主体の商業ビルをお孫さんが設立した新設法人に売却することによる資産承継、資産管理会社に収益用の不動産を売却されて、事業資金を捻出されるなど様々なケースがあります。 不動産の価値を最大限に活かす”第三の選択肢” ――ほかの不動産担保ローンとの違いはどこにあるのでしょうか? 老後資金対策として利用されるサービスには「セール&リースバック」や「リバースモーゲージ」などがあります。「セール&リースバック」は不動産を売却後に賃貸契約を結び住居を確保しながら資金を調達するもの、「リバースモーゲージ」は不動産を担保に老後資金を借入し、死後に物件を売却し借入金を返済する仕組みになっています。 どちらも不動産を第三者に売却することが前提のため、資産を受け継ぐ人がいない場合の選択肢として有効だと思います。ただし、不動産価値が下がるリスクを踏まえ、資金調達額は実勢価格より低くなる傾向があります。「セール&リースバック」で7~8割、「リバースモーゲージ」なら5割程度となっています。 また、「老後の資金調達」が目的の場合、余命を考えて賃貸や借入の時期の設定を行うのは困難で、どちらのサービスも資金不足などの不安が残ることは避けられません。 一方で「資産承継ローン」は不動産担保ローンビジネスを展開してきた当社のノウハウから不動産価値を的確に見極め、実勢価格の8割の資金調達ができます。ローンの返済が完了すれば不動産は承継者の手元に残りますので、愛着のある不動産や事業所が第三者の手に渡ることもありません。 ――資産承継ローンの最大のメリットはどこでしょうか? 単なる資金調達ではなく、大切な資産を「未来に残す」ことができる点です。資金を承継する方が設立した法人に不動産を売却することもできるので、個人の負債にはなりません。リスクを不動産担保に集約することで、買い主様の負担を減らすことができるのは大きなメリットだと思います。 代表者の個人保証も原則不要ですので、買い主様が個人の住宅ローンを契約する場合にも影響しません。負債がある場合には売却する新設法人に名義を移して、債務と不動産の切り離しを行うこともできます。 大切な資産を未来につなぎ活用する ――資産承継ローンが向いているのはどのようなお客様でしょうか? 負債や老後資金に関して身近に相談できる人がいる、事業や資産を受け継いでくれる親族や社員がいるという方には最適なサービスです。事業法人から資産管理会社への不動産売買の際にもご利用できますので、本業と、収益不動産の管理を分けたいというニーズにも対応できます。相続対策としては、身近で自分の世話をしてくれている人に確実に不動産を残したい、財産分与の際のトラブルを未然に防ぐ方法として利用されるのも有効です。 ―――具体的な事例としてはどのようなものがあるのでしょうか? アパート経営をされているお客様で一時家賃収入が滞った際に契約したアパートローンの一括返済を求められてご相談いただいたケースがあります。「返済のためにアパートを売却するのは避けたい、子供たちに引き継ぎたい」とのご希望でした。現在はアパート経営も順調で、返済に関しても問題ないと判断し、資産承継ローンをご利用いただきました。 お子様に売却することで負債となっていたローンを完済でき、お客様が長年続けてきた事業であるアパート経営もお子様に引き継ぐことができました。 また他の事例として事業承継と資産承継を同時に実現できたケースもあります。 自社ビルを所有して学習塾を経営されていたお客様は、「事業は信頼できる従業員に引き継ぎ、所有しているビルは子供に引き継がせたい」というご希望があり、資産承継ローンをご利用いただきました。お子様2人を株主とする資産管理会社を設立し自社ビルを売却。学習塾とは長期の賃貸借契約を結び、安定収入を生む優良不動産を承継することができました。 そして、当初の想定にはなかったのですが、予想外に多かったのが離婚された際の住宅ローンに関するご相談です。ご夫婦がそれぞれに住宅ローンを契約していると離婚時に一括返済が必要になります。しかし、売却はせずにそのままどちらかが住み続けたいという場合には資産承継ローンの活用が有効です。ご夫婦どちらかの持ち分を売買するという形で一人が不動産を所有し、資産承継ローンを利用して返済していくことで、不動産を手放すことなく円満に解決できます。 時代とともに不動産担保ローンのニーズも変化していくことを考えると、こうした事例も増えていくのかもしれないと感じています。 サステナブルな社会のために 課題に応える商品に ――老後資金の不安や企業の事業承継が進まないなど社会問題についてはどうお考えでしょうか? 日本は65歳以上が3割を占める高齢化社会ですが、同時に「企業の高齢化」「不動産の高齢化」といった問題もあります。中小企業において休廃業は倒産件数と比べても高い水準が続いています。また、不動産も市場で取引される中古物件の平均築年数は右肩上がりになっています。 「人」「企業」「不動産」、この3つの高齢化の課題に、適切なソリューションを提供する金融機関が少ないことが、スムーズな事業・資産の承継を妨げている可能性があります。 老後資金の不安や承継者問題、築年数を経た不動産の活用など、人生や企業の最終局面で生まれる資金ニーズに対してどのように応えていくか。そのひとつとして不動産をより良い形で活用する手助けができるサービスを提供していくことが必要だと思っています。 ――資産承継ローンに関する想い、今後の展開について教えてください ご高齢の方が資金調達を考える時には不動産を売却するか、土地を担保に借入をするかといった選択がほとんどでした。しかし、身近に相談できる人や資産承継者がいる場合には、資産承継ローンを使えば、資金調達と同時に、大切な資産を引き継ぐという選択肢も生まれます。サステナブルな社会に貢献できるサービスとして資産承継ローンを育てていきたいと考えています。 新生インベストメント&ファイナンス社「資産承継ローン」についてはこちら 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 次に読むべき記事 ”明るい廃業®”を掲げる新生銀行に ニッポンの経営者の本音を聞いた 日本には、2021年6月時点でおよそ367万4000社の企業があります。(総務省・経済産業省による発表)そのうち中小・小規模事業者の数は99.7%を占めるといいます。 そして、2017年に中...

  • <介護と保健ガイドブック>家庭での介護

    <介護と保健ガイドブック>家庭での介護

    起き上がりと移動の介助 寝返りや起き上がり、ベッドから車イスへの移乗など、「移動」は、日常のさまざまな場面で必要となる介助です。力任せに動かそうとすると、介助する人が腰を痛める原因にもなってしまいます。無理な力を使わず、介護をする人にとっても介護をされる人にとっても安心で楽な方法を覚えましょう。 起きて座ることの意味 人にとって「起きる」ということは非常に重要な意味を持っています。まず、「起きて」「座る」ことは「食べる」「歩く」といった日常生活の基本となる行動です。起きて髪をとかす、座って食事をとるなど、自分でできることを自分で行えることは、自信の回復や生きる意欲にもつながります。 また、「起きて」「座る」ことは、意識を覚醒させるため、脳の活性化にもつながります。さらに、「起きる」ということは、重力に逆らって姿勢を保つ筋力を使います。寝たきりになってしまうと、この筋力が衰え、骨の弱化、換気障害なども起こしやすくなります。 体の一部にずっと重みが加わることによって褥瘡(床ずれ)の原因にもなります。生活にメリハリとリズムをつけるためにも、少しでも「起きて」「座って」過ごす時間を増やすような介助を行いましょう。 【2時間に1回を目安に】 寝返りの介助は、床ずれを防止するためにもとても大切です。できれば2時間に1回を目安に、こまめに体の向きを変えるようにしましょう。 【本人に動作を説明し、協力してもらう】 介助をされる人にも、始めようとする動作を説明し、協力してもらうとスムーズになり、お互い楽に動くことができます。 寝返りの介助-仰向けから横向きに 起き上がりの介助 生活の質を保つためには、できるだけ離床時間をつくることが大切です。近年は、介助する人が腰を痛めぬよう、高さの調整機能、背上げ機能があるベッドを利用することも多くなっています。自身で動ける場合はできるだけ自分の力で起き上がってもらうようにして、介助者は最低限の手助けをするようにします。 介助用ベッドを使用する場合 【動作と動作の変わり目には声がけを!】 「移動」は一気にしようとすると転倒などの恐れがあります。動作と動作の変わり目では必ず動きを止め、安定してから次の動作に移るようにしましょう。次の動作を言葉で伝えることも大切です。 【座ることは自立した生活への第一歩】 移動が楽にできるようになれば、ベッドで寝たまま過ごす時間が短くなり、生活の行動範囲も広がります。座ることによって大脳が刺激され、表情が生き生きとしてくることもあります。 【腰を痛めないコツと注意点】 起き上がりの介助は腰痛の原因になりがちです。腰痛を防ぐコツと注意点を紹介します。 足を広げて、重心を低くする。 腕の力や背筋の一部ではなく、全身の大きな筋肉を使う。力で動かそうとするのではなく、てこの原理を利用したり、体重移動で動かす。 水平移動、平行移動を心がけ、体を変な方向にねじらないようにする。 介助用ベッドを使用しない場合 ベッドから車いすに移乗する ベッドから車イスに移動する場合、少しでも自分で動ける場合はトランスファーボードの使用がおすすめです。全介助の場合はスライディングシートを使う方法もあります。 トランスファーボードを使った移乗 ベッドを車イスよりも5センチ程度高くし、ベッドに座ってもらう。この時、足の裏がしっかり床についているか確認。 車イスのアームバーは外しておく。 体を前に傾け、片方に体重をかけ、お尻を浮かせる。その隙間にトランスファーボードを差し込む。 骨盤を前傾させ、進行方向に体重を移動させる。 本人ができなければ、後ろから骨盤を持って移動を介助する。または、前から膝を押さえて移動を介助する方法もある。 ボードを抜く前に姿勢を直す。ボードを立てるようにして引き抜く。 これがコツ! 力まかせにしない!身体の自然な動きを考えよう。 動作と動作の間は、必ず1回止まってから! これから行う動作について、言葉で伝えることも大切! 【リフトで移動する福祉用具も上手に利用しよう】 持ち上げなければ移動が難しくなった場合、リフトを利用する方法もあり、介護者の腰痛防止にもなります。リフトにはベッド固定型、レール走行型、床走行型などがあり、目的、要介護者・介護者の状態、部屋の状況、費用などを考慮して選ぶことが大切です。 食事の介助 「食べること」は栄養をしっかりとることも大切な目的ですが、生きるうえでの大きな楽しみのひとつでもあります。加齢とともに噛む力や飲み込む力は低下しがちですが、食材選びや調理法をよく考え、楽しくおいしく食べられる工夫を心がけましょう。 気を付けたい「低栄養」と「過栄養」 高齢者で注意すべきポイントのひとつは「低栄養」です。低栄養とは身体に必要なエネルギーやたんぱく質などが不足している状態。それは噛めない、飲み込めない、偏食や食欲不振などにより食べる量が減る、また、あっさりした食事が中心で肉や卵、脂質が十分に摂取できていないことなどによって起こります。そしてもうひとつ注意したのは「過栄養」です。 加齢によりどうしてもエネルギー消費は低下し、過栄養となりがちです。過栄養は、肥満、脳卒中、心疾患を引き起こす要因にもなります。量よりも質を考えて、バランスのよい栄養を摂取することが大切です。 低栄養化どうかをチェック □最近、急に体重が減ってきた □食事がおいしいと感じない □食事はあっさりしたものが中心で、卵、肉はあまり食べない □脂っぽいもの、揚げものなどはあまり食べない □お菓子ばかり食べて、ちゃんとした食事をしていない □お酒とおつまみで食事を終えている □食事は好きなものばかり食べている □歯や歯茎が痛くて食べられない 食べる環境を整える 生活にメリハリをつけるためにも、食事はベッドから離れ、テーブルで食べるようにしたいもの。また、おいしく、楽しく食べるには姿勢も大切です。そのためにはテーブルやイス、食事の道具など、食べるための環境を整えることが重要です。そのポイントを紹介しましょう。 【注意したいポイント】 ・寝たままでの食事は、誤嚥の危険性あり!できるだけ上体を起こすように。 ・食器は手の届くところに置きましょう。 ・テーブルに置かれた食器と口との距離が遠い場合は、食器の下に台を置きましょう。 ・こぼしやすい場合には、ナプキンやタオルを。 【介護用の食器、道具をうまく活用しよう】 食事は使い慣れた食器、道具を使えれば良いのですが、つかみにくい、使いにくいなど、食べることがめんどうになってしまっては本末転倒。柄や色がきれいなものも増えていますので、介護用の食器、道具を上手に取り入れましょう。 食事をするときの姿勢 ・イスと背もたれの間にクッションなどを入れ、身体を安定させる ・姿勢は、イスの背にもたれず、少し前かがみがよい ※イスの背にもたれて食べると、食べ物が気管に入りやすくなるので注意 ・テーブルは、座ったときに肘をつけられる高さに調節する ・イスが高く、足が床に届かない場合は、雑誌や新聞などを重ねて置き、その上に足を置くようにすると安定する これはやっちゃダメ 食べるのが遅かったり、手が震えてこぼしたりしているのを見ると、つい、食べさせてあげたくなってしまうもの。でも、自分でできることは自分でしたほうが本人の機能維持にも役立ちます。自分のペースで食べられるよう、見守ることが大切です。 誤嚥を防ぐ  食事の介助でとくに気をつけたいのは「誤嚥」です。「誤嚥」は飲み込んだ食べ物が、食道ではなく気管に入ってしまうこと。肺炎や窒息の原因にもなりかねません。注意するポイントを紹介しましょう。 【誤嚥を防ぐためのポイント】 ポイント 1 ゆっくり噛んで食べるようにする。噛む力が落ちている場合、食材を細かくきざむ、すりつぶした状態にするなどの工夫をする。 ポイント 2 水のようにサラサラとしたものは誤嚥しやすい。食べ物にとろみをつける、すぐに飲み込まないで、一度、口の中にためてから飲み込むようにする。 ポイント 3 食べたものが逆流する場合もある。食後1〜2時間は上体を起こした姿勢にする。 嚥下体操 舌を出したり、引っ込めたりする。それを3回くらい繰り返す。 舌で左右の口角をさわるようにする。これも3回くらい繰り返す。 首をゆっくり左右に曲げる。3 回繰り返す。 顔をゆっくり左右に向ける。3 回繰り返す。 最後に唾をゴクンと飲み込んでみる。 出典)『今スグ役立つ!よくわかる!家庭の介護ハンドブック』(鎌田ケイ子監修、新星出版社) 食事中の事故への対応 食事中、急に元気がなくなり息が荒くなった、何を聞いても答えない、けわしい表情をしている、咳が止まらない…などの状態が見られたら誤嚥の可能性があります。その場合は次のように対処しましょう。 ・口を下に向ける。 ・口を大きく開き、咳や痰と一緒に吐き出すように促す。咳やむせを我慢させない。タオル やティッシュを渡して、咳や痰を吐くのを遠慮しなくてよいようにするという配慮も。 ・大きな咳払いを数回するように促す。 調理の工夫 飲み込む機能が低下している場合、選ぶ食材や調理法を工夫することによって、食べやすくすることができます。ただし、食べることは楽しみのひとつ。例えば、魚の場合は魚の形のままお皿にのせ、本人が食べやすい大きさを確かめながら、本人の前で切り分けるようにすることも一案です。 【嚥下障害のある人が食べにくいもの】 ・ベタベタと粘り気のあるもの  例)もち、団子 など ・水分がなくてパサパサとしたもの  例)パン、クッキー、ゆでたまご、のり など ・固くて噛み切りにくいもの  例)タコ、イカ、厚切りの肉、ゴボウ、寒天 など 【嚥下障害のある人が食べやすいもの】 ・のどごしがよいもの  例)ゼリー、プリン、卵豆腐、茶碗蒸し など ・とろみのあるもの  例)おかゆ、カレー、シチュー など ・口の中で、バラバラになりにくいもの  例)うどん ・適度な水分、油分が含まれているもの 飲み込みにくい症状のほか、「むせやすい」「口の中が乾いている場合」など、その人の状態によって食べやすいもの、食べにくいものがあります。避けたほうがよいものを挙げましょう。 ◎むせやすいとき  酢の物、麺類(すすって食べるのでむせやすい)  細かくきざんだもの ◎口の中が乾いているとき  パン、クッキー、ゆでたまご など 排泄の介助 排泄の介助は、介護する人にとっても介護される人にとっても精神的、肉体的に大きな負担になりがちなケアです。介護される人の尊厳を保ちつつ、介護する人の負担を軽減するためにも、適切な介助のポイントを心得ておきましょう。 トイレ介助のポイントとは? 「排泄」はデリケートな問題です。排泄の機能が正常で、トイレまで歩行や車イスによって移動が可能な場合は、できるだけトイレで排泄が行えるようにします。そのためには、トイレの環境を整え、トイレまで行きやすいようにすることを考えましょう。 一方、身体が不自由でベッドから動くことができない、排泄障害があるという場合は、排泄用 具を適切に選んで使用することを考えます。 排泄障害とは? 排泄障害とは、排便、排尿に関して、何らかの問題がある症状をいいます。具体的には「尿失禁」「便秘」「下痢」などの症状が挙げられます。「尿失禁」は加齢によって尿道を締める筋肉が弱まり、くしゃみやお腹に力を入れることで尿漏れを起こしてしまう、尿意が大脳に伝わらずに漏れてしまう…などのケースがあります。 「下痢」は神経性のもの、アレルギー性のもの、細菌によるものなど、さまざまな原因が考えられます。それぞれの原因によって適切な対応が必要です。「便秘」は加齢により腸の働き、腹筋などが弱くなることによって起きやすくなります。また、食事や水分、あるいは運動が少ないことでも起きやすくなります。 負担を軽減するために環境を整備する トイレまで行きやすいようにする環境整備 自力歩行ができる、車イスや介助があればトイレまで行けるという場合は、トイレまで行きやすくするための環境を整えましょう。下図に示すような点がポイントです。 トイレ内の環境整備 トイレの中で、立ったり、座ったりしやすいようにすることが大切です。例えば、下図に示すような点に気をつけましょう。 排泄用具を使う ポータブルトイレを使用する場合 ベッドから起き上がることはできるけれど、トイレまで行くことがむずかしい場合は、ポータブルトイレをベッドサイドなどに用意し、使用するとよいでしょう。 ・ひとりでズボンや下着を下ろせない場合、自分に寄りかかってもらい下ろしてあげる。あるいは、壁や手すりにつかまり立ってもらい、後ろから脱がせてあげる。 ・自分に寄りかかってもらい、抱きかかえるようにして便座の中央に座らせる。 ・ひとりで排泄ができる場合は、便座に身体が安定して座っているのを確認したら、カーテンや衝立などで囲い、排泄中はプライバシーが守れるようにする。排泄が終わったら声をかけてもらうようにする。 ベッド上で排泄する場合 腰のあたりに防水布を敷き、肛門の中央にくるように差し込み便器をあてがう。腰を浮かせることができない場合は、本人に横向きになってもらい、便器をあてて、仰向けになってもらう。 女性の場合は、尿が飛び散らないように、トイレットペーパーを股の間に挟んでおく。あらかじめ便器の中に2〜3枚、トイレットペーパーを入れておくと後始末がしやすい。 排便が終わったら陰部の洗浄をする。便器を取るときは、腰を浮かせることができる場合、声がけをして腰を上げてもらう。上げられない場合は、本人の膝を片方の手で手前に倒すようにして横に向ける。このとき、便器のふちをもう片方の手で押さえるようにすると、排泄物がこぼれない。 ここがポイント 陰部の洗浄は手際よく。尿でおむつが汚れた場合、 汚れたおむつの上でシャワーボトルにお湯を入れ て陰部を洗い流します。 便の場合は、ウェットティッシュで便を拭き取り、新しいパッドを敷いてから洗浄するとよいでしょう。 おむつの交換 まったく動けない、尿意がない、尿もれの量が多いなどの場合は、おむつの使用を考えます。使用する人の状態、尿の量、使用する時間帯、ベッドで過ごす時間の長さ、介助する人の負担などを考えて選びます。 おむつの種類 ・テープ式おむつ 寝たきり、あるいは介助があれば起き上がれる人の場合。 ・パンツタイプおむつ 介助があれば座れるが、昼間の排泄は主におむつでするという人の場合に使用する。中に尿取りパッドを重ねるとよい。介助があれば立てる、トイレまで行ける、ポータブルトイレで排泄ができるという人の場合も、パンツタイプのおむつを単体で使用する。心配な場合は、尿取りパッドを併用する。 ・軽失禁パッド 尿もれはあるが、量が少ない人 の場合に使用する。 【ニオイが気になるとき】 汚物は、確認したら手早く処理する。 部屋の換気も忘れずに。 差し込み便器、尿器、ポータブルトイレなどに、 あらかじめニオイを防ぐ薬剤などを入れておく。また、時間をおくとニオイがとれなくなるので、こまめに洗浄する。 使用済みのおむつは小さく丸め、テープで止めてから処理する。フタ付きの容器を使用するなどしてニオイを防ぐ。 消臭剤、脱臭剤などを活用する。 ここがポイント 排泄介助を受ける人は、恥ずかしい気持ち、申し訳ない気持ちを持っていることが多いもの。おむつ交換のときは、腰のあたりをバスタオルで覆うなどの配慮を。そして、作業は手早くすることが基本です。 パンツタイプのおむつ交換 テープ式おむつの交換 入浴の介助 入浴は身体を清潔に保つだけではなく、血行を良くしリラックス効果もあるため、介護される人にとっては楽しみのひとつです。しかし、急激な温度変化が身体に負担をかけたり、浴室内での転倒は大きなケガにつながる恐れもあります。つねに安全を保つよう、十分に配慮しましょう。 安全な環境づくり 【入浴をする前に気をつけること】 ・体調の確認をする(体温、脈拍、血圧、顔色、 呼吸数などをチェック。心配な点がある 場合は、取りやめる判断も大切)。 ・食前・食後の1時間は避ける。 ・お湯の温度を確認する。適温は40度ぐらい。 心臓病、高血圧がある場合は40度以下に。 ・入浴は体力を消耗するので、入浴時間は10〜 15分程度に。 ・すべり止めマットを敷くなどして転倒しないように気をつける。 ここがポイント ・あらかじめ浴槽のフタを開けておく。 ・温水のシャワーを流すなどして、浴室を前もって温めておく。 ・バスボードには、あらかじめお湯をかけておくとヒヤッとしないですみます。 ・浴槽内は浮力があるので、姿勢が不安定になる恐れがあります。頭が後ろにいくとバランスが崩れるので、足の裏を浴槽の壁に当ててもらいます。また、両手で風呂のふちを持ち、前かがみの姿勢になってもらうと安定します。 浴槽に入るときの介助 浴槽の横にシャワーチェアを置いて座ってもらう。片マヒがある場合、マヒのない側から入ってもらうようにする バスボードに腰を移す。介助する人は腰を支え、腰を回転させながら、片足ずつ湯船の中に入れる。 バスボードに腰を移す。介助する人は腰を支え、腰を回転させながら、片足ずつ湯船の中に入れる。 ! 出るときは逆の動作で。マヒした側を先に出すことになるので、介助する人は気をつけること。 湯船に入れないときは、シャワー浴や足浴も シャワー浴 浴槽に入れない場合や浴槽に入ると体力を消耗する場合など。 シャワーイスに座ってもらう。お湯を張ったバケツを用意し、足を入れてもらう。 肩、腰にタオルをかける。 シャワーのお湯は、手足にかけてから胴体へ。石けんで洗う場合、手が届く範囲は本人に。届かない部分は介助する。 足浴 お風呂まで行けず入浴できない場合、ベッドサイドでもできる。 バケツ、または洗面器にお湯を張る。 防水マットかタオルを敷き、その上にお湯を張ったバケツ・洗面器を置く。 足を入れてもらう。 身体の清潔のための介助 洗髪や洗顔、着替えなど、身体を清潔に保つための介助は衛生面だけではなく、介護される人にとって、さっぱりとした気持ちで心地よく過ごすためにもとても大切なケアです。上手なコツを覚えて、できるだけこまめなケアを心がけましょう。 洗顔(ベッドから起きることができない場合) 目頭から目尻に向かって拭く。 額と頬を顔の内側から外側に向かって拭く。 鼻は上から下に向かって拭く。鼻のわきも内側から外側に向かって拭き取るように。 口のまわりを円を描くように拭く。 ※仕上げに熱めの蒸しタオルを当てるとさっぱりする。 ※しわとしわの間、耳、あごの下も忘れずに。 ※耳の中もときどき掃除を。綿棒に植物油をつけて掃除をすると、耳垢がやわらかくなり掃除しやすい。 【蒸しタオルのつくり方】 タオルを水でぬらして軽く絞ってからポリ袋に入れて電子レンジで加熱(加熱時間の目安はハンドタオル1本の場合500Wで30秒程度)。相手の身体に当てる前に、必ず自分の手に当てて熱さを確かめましょう。 洗髪(ドライシャンプー) ケープをかけたり、タオルなどで肩から下を覆う。 蒸しタオルを1本用意し、頭部を覆う。 1〜2分蒸した後、ドライシャンプーを髪につけ、頭皮をマッサージするように洗う。 蒸しタオルでシャンプーを拭き取る。これを何度か繰り返す(頭部を蒸しタオルで蒸すのは最初だけでOK)。 最後に、乾いたタオルでよく拭き取る。 ブラシで整髪する。 ベッドから移動できない場合の洗髪は、用意する道具も多く大変です。通常は、入浴サービスのときに行うのがよいでしょう。家族が洗髪を行う場合は、お湯で流す必要のないドライシャンプーが手軽でおすすめです。 全身を拭く〜清拭〜 室温は22〜24度ぐらいにしておく。拭き始める前に、熱い蒸しタオルで身体を包み、温める。タオルの温度は43度ぐらいが適温。 仰向けになってもらい、顔→両腕→首〜胸〜腹→両足の順に拭いていく。手は指先から心臓に向かって拭く。指の間、脇の下も忘れずに。お腹は強く押さえず、下腹部は「の」の字を書くように拭く。 横向きになってもらい、背中→腰→臀部を拭く。背中は円を描くように、下から上に向かって拭く。臀部は、外側から円を描くように内側に向かって拭いていく。背中、腰、臀部は褥瘡(床ずれ)ができやすいので、マッサージも兼ねて拭くように心がけるとよい。 もう一度、仰向けになってもらい、足のかかと→下腿部→太もも→陰部を拭く。膝の後ろは汚れやすいのでていねいに拭く。 最後に乾いたタオルで水分を拭き取る。 ※拭いている部分以外は寒くないよう、また羞恥心を感じさせないよう、タオルで覆っておくとよい。 口腔ケア 口の中は雑菌が繁殖しやすい環境なので、朝と食後には、必ずケアを行いましょう。むし歯や歯周病を防ぐことはもちろん、繁殖した菌を食べ物、あるいは唾液と一緒に誤嚥し、肺炎を発症するリスクを減らすという目的もあります。 入れ歯の場合 毎食後外して、ブラシでしっかり水洗いをする。研磨剤が入っている練り歯みがきは使用しない。外すときは下から、装着するときは上から先に入れる 寝たまま行う口腔ケア 片側にマヒがある場合、マヒしている側に食べ物のカスが残っていることがあるので、割り箸にガーゼを巻いたものなどを用意し拭き取るようにする。 イスに座って行う口腔ケア 介護される人が上向きになると、あごが上がり、誤嚥の恐れがある。介護される人があごを引く姿勢になるように、介助する人は立つ位置を調節する。 介護される人の歯を磨くときは角度や方向などがむずかしく、少し時間がかかります。そんなときは短時間で上手に磨ける電動歯ブラシがおすすめです。また、使用する介護者にとっても楽な姿勢でブラッシングができ、腰痛などの予防にもなります。 介助される人が寝た状態でのシーツ交換 介助する人が立つ側と反対側に転落防止柵を立てる。介助される人には、介助する人と反対側のベッドの端に移動してもらう ベッドの手前側から、古いシーツをはずし、扇子折りにして介助される人の下に入れていく。 シーツをはがしたマットレスを掃除したら、その上に新しいシーツを広げ、マットレスと角を合わせてマットレスを包み込む。反対側の端は古いシーツの下に入れ込む。 手前の転落防止柵を上げてから、介助される人に新しいシーツの上に移動してもらう。古いシーツをはずし、マットレスを掃除してから新しいシーツを広げ、同じように角を合わせてマットレスを包み込む。 ここがポイント 新しいシーツが敷けたら各コーナー部分を持ち、対角線の方向に引っ張るようにするとしわが伸びます(シーツは角にゴムが入ったものを利用すると便利です)。 マットレスの掃除は、ガムテープを使うとほこりを立てずにゴミを取ることができます。 介助する人が腰を痛めないように、ベッドの高さを調整してから作業するとよいでしょう。 着替え ズボンをはかせる(寝たきりの場合) 仰向けになってもらい、扇子折りにしておいたズボンを足に通す。片足ずつ、かかとを支え、ひざまでズボンを上げる。 片手でズボンのすそをくるぶしの位置で押さえ、もう片方の手でズボンを足のつけ根まで引き上げる。反対側も同じように。 ひざを立て、ハの字になるように両足を開いてもらう。お尻の下に手を入れ、ズボンの後ろの中心線に沿って扇子折りにする。 介助される人に足でベッドを踏み込んでもらい、腰を浮かせる。その間にズボンをお尻の側から引き上げる。踏み込めない場合はひざをくっつけ、足のつま先の方に押すと腰を浮かせることができる。 座れる人の場合は、49ページで紹介した「パンツタイプのおむつ ! 交換」と同じ要領でズボンをはかせる。 服を着替えることは生活にメリハリをつけるためにとても大切です。寝ている間にも人はかなり汗をかくもの。着替えを行うことでベッド周りも清潔に保つことができます。なお、片マヒがある場合は、マヒのある側から着て、マヒのない側から脱ぐのが原則。マヒのない側がズボンやシャツなどに通っていない方が、動きが制限されにくいためです。 前あきのシャツを着る(寝たきりの場合) 袖を扇子折りにし、介助する人の腕に通してから介助される人と握手をするようにして袖を通し、肩まで上げる。 介助する人に背中を向ける姿勢で横になってもらい、シャツの中心線と背骨を合わせる。反対の身ごろを体の下に入れる。 介助する人の側に顔を向けてもらい、体の下に押し込んだ部分を引き出す。❶と同じように、袖に手を通す。 腕が通ったら仰向けになってもらい、ボタンを留める。両脇の下の部分を足の方向に斜めに引っ張ると、背中側に寄ったしわが伸びる。 【ここがポイント】 着替えは、マヒがあったり認知症だったりする場合、動作がゆっくりになりがちです。つい手伝いたくなることもありますが、時間がかかっても、本人ができたり、やる気があれば、できるだけ本人にやってもらうことが基本です。ボタンを留めたりする動作はリハビリにもなるので、必要以上に手伝わないことも大切です。 老老介護・認認介護 日本では、配偶者の介護をする高齢者夫婦や、年老いた子がより高齢の親を介護するというような高齢者が高齢者の介護を行うケースが増えています。65歳以上の要介護者を 65歳以上の人が介護している場合を、いわゆる「老老介護」といいます。 厚生労働省の「令和元年国民生活基礎調査」によれば、老老介護は 59.7%と介護全体の 5割を超えています。老老介護の増加は介護者と要介護者がともに高齢化しているためです。 主な介護者は配偶者で、全体の約4分の1を占めています。介護の担い手が高齢の場合は、経済的、肉体的な負担はもちろん、精神的にも大きなストレスを抱えてしまうことが多く、「生活の質」の維持が心配されます。 また、さまざまな事例がある老老介護の中には、認知症の高齢者を介護する高齢者自身が認知症になり、適切な介護ができなくなる「認認介護」もあります。この場合は、第三者による早急なケアが必要です。いずれにせよ、老老介護を続けるにはひとりで抱え込まないことが大切です。 介護者自身の健康を守るためにも、周囲の人に頼ったり、身近な公的機関を活用することが必要です。最近では、介護者や要介護者を支える在宅サービスの整備も進んできています。介護で困ったときは、地域包括支援センターに相談しましょう。 常駐しているケアマネジャーや保健師などの専門家から適切なアドバイスや支援策を受けることができます。必要に応じて、レンタル用品やデイサービスなどの介護サービスの情報提供もあります。相談する際は、介護の悩みや気づいたことなどを書いたメモを持参することが大切。専門家の視点により、問題を解決する方法が見つかる可能性が高くなります。 出典)一般社団法人日本保健情報コンソシウム発行 『介護をする家族のための介護と保健ガイドブック』より引用