updated:2021.09.28
自営業の方は、会社員に比べて年金が少ないといわれますが、実際にはいくらもらえるのでしょうか。自営業の方と会社員では、適用される年金制度が異なります。そのため、自営業の方が老後の生活費を確保するには、年金制度を理解した上で必要な対策を講じることが大切です。
今回は、自営業の方がもらえる年金額や年金対策について詳しく解説します。
自営業の方の年金は、基本的に国民年金のみです。日本に住んでいる20歳以上60歳未満の自営業の方は、国民年金の第1号被保険者に該当します。国民年金保険料は、収入や所得に関係なく1ヵ月あたり16,610円(令和3年度)で、国民年金に加入することで受けられる給付の種類は下記の通りです。
一方、会社員は勤務先で厚生年金に加入します。厚生年金保険料は給与(標準報酬月額)や賞与(標準賞与額)の18.3%で、被保険者(従業員)と事業主との折半負担となっています。厚生年金には国民年金も含まれるため、会社員のほうが年金額は多い傾向にあります。
日本の年金制度は以下のような3階建てになっています。
1階部分の国民年金は、日本在住の20歳以上60歳未満の方はすべて加入するため「基礎年金」と呼ばれます。2・3階部分は、働き方や勤務先の状況によって変わります。
自営業の方は、国民年金基金・iDeCoへの任意加入が可能です。会社員は勤務先の厚生年金に加入し、3階部分は勤務先の年金制度に応じて加入します。
自営業の方が受け取る国民年金(老齢基礎年金)の年金額(満額)は、令和3年度で月額65,075円です。保険料の納付状況によっては、上記より少なくなります。
厚生労働省の資料によると、令和元年度の国民年金の平均年金額は月額56,049円となっています。それに対して、厚生年金の平均年金額は月額146,162円です。このように、国民年金と厚生年金では年金額に2.5倍以上の差があります。
参考)厚生労働省「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況P8、P20」
老齢基礎年金は、保険料の納付済期間と免除期間などを合算した受給資格期間が10年以上ある場合に65歳から支給されます。
40年間(20~60歳)すべての保険料を納めると、老齢基礎年金を満額受け取れます。保険料を全額免除された期間は年金額が2分の1、半額免除は4分の3で算出します。
将来もらえる年金見込額を知りたい場合は、日本年金機構の「ねんきんネット」を利用するか、最寄りの年金事務所に確認しましょう。
参考)日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・計算方法」
公的年金等の収入金額やその他の所得が一定基準額以下の場合、生活支援を目的に以下の給付金が年金に上乗せして支給されます。
老齢年金生活者支援給付金は、以下の支給要件を満たす方に支給されます。
給付額は月額5,030円を基準に、保険料納付済期間などに応じて算出されます。
障害年金生活者支援給付金は、以下の支給要件を満たす方に支給されます。
障害年金などの非課税収入は、前年の所得には含まれません。所得基準額は扶養親族の人数に応じて変動します。給付額は、障害等級1級が月額6,288円、2級が月額5,030円です。
遺族年金生活者支援給付金は、以下の支給要件を満たす方に支給されます。
所得基準額などの考え方は障害年金生活者支援給付金と同様で、給付額は月額5,030円です。ただし、2人以上の子が遺族基礎年金を受給している場合は、5,030円を子の人数で割った金額がそれぞれ支給されます。たとえば、3人の子が遺族基礎年金を受給している場合、1人当たりの金額は月額1,677円(5,030÷3人)です。
会社員より年金が少ない自営業の方は、将来に向けて何をすればよいのでしょうか。ここでは、自営業の方ができる年金対策を4つ紹介します。
国民年金基金とは、自営業の方と会社員の年金額の差を解消するために創設された制度です。自営業の方(国民年金第1号被保険者)は任意で加入でき、掛金を納めた期間に応じて年金が上乗せされます。国民年金基金のメリットは以下の通りです。
国民年金基金の掛金は全額所得控除の対象となるため、所得税や住民税が軽減されます。また、年金を受け取るときにも所得控除が適用されます。年金受取前や保障期間中に亡くなった場合は、遺族に一時金が支払われます。
一方で、以下のようなデメリットもあります。
国民年金基金は一度加入すると脱退できないため、加入は慎重に判断する必要があります。また、国民年金基金は国民年金法に基づいて設立されていますが、解散する可能性もあるので注意しましょう。解散する場合は、基金の解散時点での残余財産額を加入員および受給者等で分配します。その際、分配額は支払った掛金額の合計を下回ることがあります。
付加年金とは、国民年金保険料に付加保険料(月額400円)をプラスして納付すると付加年金が上乗せされる制度です。住所地の市区町村役場で申し込みできます。
付加年金のメリットは、保険料に対して受け取れる額の割合が高いことです。付加年金は「200円×付加保険料納付月数」で算出します。計算上は2年間で元が取れるため、お得な制度といえるでしょう。
付加年金のデメリットは、年金支給前に死亡すると付加保険料が戻ってこないことです。また、国民年金基金との併用ができない点にも注意が必要です。
参考)日本年金機構「付加年金」
iDeCoとは、自分で掛金を拠出して運用を行う私的年金です。掛金は将来給付として受け取れるため、年金の不足分を補うことができます。iDeCoのメリットは以下の通りです。
iDeCoは、保険商品や投資信託などから自分で運用先を選べます。運用次第では、給付額を増やすことも可能です。掛金は全額所得控除で、運用益は非課税などの税制優遇も用意されています。
一方で、iDeCoは運用損が生じる場合があるのがデメリットです。運用がうまくいかなければ、給付が掛金を下回る可能性があります。また、原則60歳まで掛金を引き出せないため、資金繰りにも注意が必要です。
個人年金保険は、保険会社が提供する保険商品です。積み立てた保険料を原資に、将来年金を受け取れます。個人年金保険のメリットは以下の通りです。
一定期間にわたって保険料を払うことで、年金の不足分を補うことが可能です。万が一保険会社が破綻した場合は、生命保険契約者保護機構によって一定の補償を受けられます。
個人年金保険のデメリットは、所得控除の対象額が少ないことです。生命保険料控除が適用されますが、個人年金保険料の控除額は年間で最高4万円にとどまります。また、商品によって年金の受取期間や保険料が変わる点にも注意しましょう。
上記のような対策を講じた上でも老後の生活費が不足する場合、持ち家であれば不動産が資金源となるかもしれません。自宅を担保に融資を受けたり、売却したりすることで、まとまった資金が手に入ります。具体的には、以下3つの方法があります。
不動産担保ローンとは、不動産を担保にお金を借りることができるローンです。自宅を所有している場合、まとまった資金を準備する手段として活用できます。不動産担保ローンのメリットは以下の通りです。
一方で、不動産担保ローンには以下のようなデメリットもあります。
不動産担保ローンについては、以下の記事で詳しく説明しています。
リースバックとは、不動産売買と賃貸借契約が一体となったサービスです。自宅をリースバック運営会社に売却後、その会社に家賃を払うことで、同じ家に住み続けることができます。リースバックのメリットは以下の通りです。
一方で、リースバックには以下のようなデメリットもあります。
リースバックについては、以下の記事で詳しく説明しています。
リバースモーゲージは、自宅を担保に老後資金の融資を受けますが、毎月の支払いは利子のみで、債務者の死亡後に自宅を売却して元本を返済する仕組みです。リバースモーゲージのメリットは以下の通りです。
一方で、リバースモーゲージには以下のようなデメリットもあります。
リバースモーゲージについては、以下の記事で詳しく説明しています。
基礎年金番号は下記の書類で確認が可能です。
令和4年度は月額16,590円です。なお、国民年金の保険料は毎年見直しが行われています。
年金制度改正法(令和2年法律第40号)等の一部施行により、令和4年3月31日をもって年金手帳が廃止されたため、令和4年4月1日より基礎年金番号通知書の発行が行われます。
年金手帳から基礎年金番号通知書への切替えにともない、令和4年3月31日までに「年金手帳再交付申請書」をご提出した場合であっても、処理状況によって交付年月日が令和4年4月1日以降となるものについては、基礎年金番号通知書が発行されます。
参考)日本年金機構 基礎年金番号通知書の再交付を受けようとするとき
年金は自動的に支払われるわけではなく、手続きが必要です。この年金を受ける手続きを決定請求といいます。国民年金の決定請求の手続きは市・区役所または町村役場の国民年金の窓口(第3号被保険者期間がある場合は年金事務所または街角の年金相談センター)で行います。65歳の誕生日が過ぎてから決定請求を行ってください。
参考)日本年金機構 国民年金に若いときから加入しています。65歳になると年金は自動的に受けられるのですか。
住所表示の変更のため、番地が変わった場合でも、日本年金機構にマイナンバーが収録されている方は住所変更届出は原則不要です。
日本年金機構にマイナンバーが未収録の方や住民票の住所と違う場所に住んでいる場合や、成年後見を受けている方等は、「年金受給権者 住所変更届」に、新しい住居表示、マイナンバーカードに記載されているマイナンバーまたは、年金証書に記載されている基礎年金番号と年金コード、生年月日などを記入して年金事務所または街角の年金相談センターに提出が必要です。なお、市区町村名のみの変更の場合、日本年金機構が対象の方の住所を一括して変更しますのでこの届は必要ありません。
参考)
・日本年金機構 住居表示が変わったとき。
・日本年金機構 年金Q&A
自営業の方は国民年金のみであるため、老後の生活費を年金だけでカバーするのは難しいでしょう。ただし、国民年金基金やiDeCoなど、年金対策として利用できる制度が用意されています。将来の年金見込額を確認し、なるべく早く老後資金の準備を始めましょう。
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