更新日: / 公開日:2020.06.23
リースバックとは、資産を売却した後もそのまま使い続けられる資産活用の取引手法です。
「セール・リースバック」や「セール・アンド・リースバック」とも呼ばれ、所有している資産を第三者に売却し、同時にリース契約を結ぶことで、売却後もその資産を継続して利用できる仕組みです。
近年では、不動産事業者によるリースバックサービスの提供が増加しており、「リースバック」という言葉が、特に住宅に関するサービスとして定着しつつあります。住宅におけるリースバック(以下、「リースバック」)は、自宅を売却して現金を得た後も、賃料を支払うことで同じ家に住み続けられるサービスです。老後資金の確保や住宅ローンの返済負担軽減など、さまざまな目的で注目されています。
この記事では、リースバックの仕組みやメリット・デメリットを徹底的に解説します。
リースバックは、自宅を売却した後も、同じ家に住み続けられる仕組みです。
一般的には、リースバック運営会社と個人との間で、以下の2つの契約を同時に締結します。
リースバックは、住み替えや老後資金の確保、相続対策など、幅広い目的で活用されています。ただし、リースバックはまだ認知度が低く、契約内容も少し複雑です。事前にしっかり理解しておかないと、後悔することもあるので注意が必要です。
リースバックは、自宅に住み続けながら資金を得られるという点で、リバースモーゲージと比較されることがあります。しかし、両者は契約形態や仕組みが大きく異なります。
以下の表は、主な違いをまとめたものです。
リースバックとリバースモーゲージとの違い
種類 | リースバック | リバースモーゲージ |
---|---|---|
契約の形態 | 不動産売却契約 不動産賃貸借契約 | 金銭消費貸借契約 |
年齢制限 | なし | あり(通常60歳以上) |
借り入れの有無 | なし | あり |
所有権の移転 | あり | なし |
資金使途 | 自由 | 原則生活資金 |
支払い | 家賃 | 利息 |
契約終了の条件 | 引っ越し 買い戻し | 死亡 借入金完済 |
※筆者作成
リースバックは「資産の売却」、リバースモーゲージは「資産を担保にした借り入れ」という違いがあるため、目的や状況に応じて選択することが重要です。
リースバックには、以下のようなメリットがあります。
通常の不動産売却では、まとまった資金を得られる一方で、引っ越しの手間や費用が発生します。特に高齢者の場合、新居の購入や賃貸借契約の締結が難しくなるケースも少なくありません。
リースバックなら、売却した自宅にそのまま住み続けられるため、資金を得ながらも、慣れ親しんだ環境で生活を続けることができます。これは、精神的・身体的な負担を軽減する大きなメリットです。
自宅を所有していると、固定資産税や管理費、火災保険・地震保険など、さまざまな費用が発生します。リースバックでは、所有者が運営会社に変わることで、住居費用は毎月一定の家賃にまとまり、支出の見通しが立てやすくなります。また、将来の支出が予測しやすくなるため、家計管理にも役立ちます。
不動産を所有していると、以下のようなリスクを抱えることがあります。
特に戸建て住宅は、マンションに比べて価格変動や災害の影響を受けやすい傾向があります。リースバックでは、所有権が運営会社に移るため、これらのリスクから解放されます。
リースバックには多くのメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。契約前に以下の点をしっかり理解しておくことが大切です。
リースバックでは、一般的に自宅の売却価格が市場価格よりも低くなる傾向があります。これは、不動産仲介を通じて個人に売却するのではなく、不動産業者が直接買い取るためです。
また、リースバック運営会社は、買い取った不動産を所有するリスクや維持コストを負担するため、その分を見込んで価格が抑えられるケースもあります。
持ち家であれば、原則として自由にリフォームや建て替えが可能です。しかし、リースバックを利用すると、所有権は運営会社に移るため、改修や建て替えには許可が必要になります。
もし「自宅を自分好みにリフォームしたい」と考えているなら、リースバックでは自由にできないこともあるので注意が必要です。
リースバックでは、売却後も自宅に住み続けることができますが、契約形態によっては将来的に退去が必要になる場合もあります。
長く住み続けたい場合は、契約形態が「普通借家契約」であるかを事前に確認することが重要です。
リースバックは、さまざまなライフステージや状況に応じて活用できる柔軟なサービスです。ここでは、代表的な活用事例を6つご紹介します。
老後の生活資金が不足していても、住み慣れた自宅から離れたくないという人は少なくありません。リースバックを利用すれば、自宅を売却して資金を得ながら、引き続き同じ家に住み続けることが可能です。年齢を理由に断られる心配もなく、安心して利用できます。
新居への住み替えを検討しているものの、頭金や手付金が不足している場合にも、リースバックは有効です。自宅を売却することで資金を確保できるほか、新居が決まるまで現在の住まいに住み続けられるため、仮住まいを探す必要がありません。
住宅ローンの返済額が家計を圧迫している場合、リースバックによって支出を抑えることができます。家賃が住宅ローンの返済額よりも低くなるケースでは、月々の支払い負担が軽減され、資金繰りの改善につながります。
住宅ローンの返済が滞り、金融機関から残債の一括返済を求められるケースでは、リースバックの活用が有効です。自宅を売却して得た資金でローンを完済すれば、競売や任意売却を避けながら、同じ家に住み続けることができます。精神的・身体的な負担も軽減できるため、安心して生活を続けられます。
離婚に伴う財産分与では、自宅の扱いが難しくなることがあります。リースバックを利用すれば、住宅ローンの完済と現金化が可能となり、財産分与を円滑に進めることができます。離婚後も一方が住み続けたい場合にも対応可能です。
相続人が複数いる場合、自宅の分割をめぐってトラブルが発生することがあります。
リースバックによって生前に自宅を現金化しておけば、相続人間の争いを避け、公平かつスムーズな遺産分割が実現しやすくなります。
リースバックを契約する際には、事前に確認しておきたい重要なポイントがあります。以下の4つの観点を押さえておくことで、契約後のトラブルや後悔を防ぐことができます。
リースバックでは、売却価格が市場価格よりも低くなる傾向があります。ただし、相場よりも著しく安く買い取られてしまうケースもあるため、複数の事業者に見積もりを依頼し、相場感を把握することが重要です。1社だけで判断せず、比較検討することで適正価格を見極めやすくなります。
リースバック運営会社によっては、売却を担当する会社と賃貸借契約を管理する会社が異なる場合があります。このようなケースでは、契約更新や再契約の際にトラブルが発生する場合があります。事前に、売却先と賃貸人が同一かどうかを確認し、契約内容や再契約の条件についても明確にしておくことが大切です。
リースバックでは、毎月家賃の支払いが発生します。契約書には家賃の変更に関する条項が含まれていることが多いため、値上げがあるかどうかは、契約前に必ず確認しておきましょう。家賃が固定されている契約であれば、安心して長く住み続けられます。
将来的に自宅を買い戻したいと考えている場合は、売買契約時に買い戻しの条件を契約書に明記しておくことが不可欠です。口頭での約束では法的な効力が弱く、買い戻しができないこともあります。買い戻しに関する条件は、売買契約書の特約や売買予約契約などで定められるため、書面での確認と合意を取っておくことで、後々のトラブルを防ぐことにつながります。
リースバックを利用する際の一般的な流れは、以下の4ステップです。
それぞれの段階で確認すべきポイントを押さえておくことで、安心して手続きを進めることができます。
まずは、リースバック運営会社に相談し、仮査定を依頼します。この段階では、固定資産税額や管理費、共益費などの情報を求められることがあるため、事前に準備しておくとスムーズに進みます。仮査定の結果は、会社によっては当日中に提示されることもあり、概算の売却価格と家賃が確認できます。
仮査定の内容に納得できた場合は、次に物件の本調査が行われます。運営会社の担当者や査定会社が現地を訪問し、図面との相違や物件の状態を確認します。調査結果をもとに、契約可能かどうかが判断され、正式な売却価格や家賃が決定されます。物件の状態によっては、仮査定と異なる条件になることもあるため、事前に調整の余地があるかを確認しておくと安心です。
提示された条件に問題がなければ、売買契約・賃貸借契約・売買予約契約などを締結します。契約前には、以下の点を必ず確認しましょう。
契約手続きが完了すると、売買決済が行われます。早ければ契約当日に決済が完了し、同日から賃貸借契約が開始されます。家賃の支払い開始日や清算金の有無など、金銭面の詳細についても事前に確認しておくことが重要です。
リースバックに関して、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。契約前に気になる点を確認しておくことで、安心して検討を進めることができます。
はい、住宅ローンが残っていてもリースバックの利用は可能です。
ただし、売却時には対象不動産に設定されている抵当権を抹消する必要があります。抵当権の抹消には、売却代金をローンの返済に充てるなどの手続きが必要です。
リースバックの家賃は、売却価格を基準に算出されます。
そのため、売却価格を抑えることで、家賃を低く設定できる可能性があります。
ただし、物件の評価や運営会社の方針によって異なるため、事前に相談しておくと安心です。
リースバックでは、売買代金から諸費用を清算することができるため、基本的に手元資金は不要です。ただし、契約内容や会社によって異なる場合があるため、事前に費用の内訳を確認しておきましょう。
はい、高齢者や年金受給者の人でもリースバックを利用できます。
リースバックは融資商品ではないため、年齢や収入に関する制限が設けられていないケースが多く、幅広い人に対応しています。
リースバックは、自宅を売却した後も同じ家に住み続けられる仕組みで、「老後資金を確保したい」「住宅ローンの返済負担を軽減したい」といったニーズに応える選択肢として注目されています。
ただし、売却価格が市場価格よりも低くなる傾向があることや、契約形態によっては長く住み続けられない可能性があるなど、注意すべき点もあります。
後悔のない選択をするためには、メリットとデメリットを正しく理解し、契約内容を十分に確認したうえで検討することが大切です。不安な点がある場合は、複数の事業者に相談し、納得できる条件で進めるようにしましょう。
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