「制度」の記事一覧

  • 住所変更登記等の義務化はいつから?手続き方法や注意点も解説

    不動産所有者の氏名や住所などに変更があった場合の、法務局での住所等の変更登記はこれまで任意でしたが、不動産登記法の改正により登記申請が義務化されることになりました。変更登記をしないと罰則を科される恐れもあるため、制度内容を理解しておくことが大切です。 この記事では、住所変更登記等の申請義務化の概要や注意点について解説します。 住所変更登記等の申請義務化の概要 住所等の変更登記とは、不動産の所有者である登記名義人の氏名や住所などに変更があった際に行う登記手続きのことです。2021年(令和3年)4月に成立した不動産登記法の改正により、住所等の変更登記の申請が義務化されました。2023年11月現在も施行日は確定していませんが、2026年(令和8年)4月までに施行されることは決定しています。 申請が義務化された理由 住所等の変更登記の申請が義務化された背景には、所有者不明土地問題があります。近年では、所有者やその所在が分からない「所有者不明土地」が増加傾向です。 国土交通省の調査によれば、全国の土地のうち所有者不明土地は24%で、発生原因の33%を「住所変更登記の未了」が占めています。これまで住所等の変更登記は任意であり、そのまま放置されることが多くありました。そのため、所有者不明土地の解消や発生予防に向けて申請が義務化されました。 関連記事はこちら所有者不明土地の解消に向けた法改正とは?2つのポイントを解説 申請義務の内容 所有不動産の売却や転居などにより、登記名義人の住所等に変更が生じた場合は、その住所等の変更日から2年以内に変更登記の申請をしなくてはなりません。正当な理由なく申請義務を怠った場合は、5万円以下の過料の適用対象となります。 正当な理由の具体的な類型、過料を科す手続きの詳細については、通達や省令等で明確化される予定です。 出典)法務省民事局「民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要 P.2」 住所変更登記等の申請義務化の注意点 住所変更登記等の申請義務化については経過措置があり、施行日前に住所等の変更が発生していたケースについても適用されます。施行日前の住所等変更については、以下のように施行日から2年間が申請義務の履行期間となります。 施行日前に住所等の変更が生じた場合でも、申請義務が発生することに注意しましょう。 出典)法務省民事局「民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要」 住所等の変更登記の手続き方法 住所等の変更登記は、自分で行うか司法書士に代行してもらうかの二択で手続きを進めます。自分で行う場合は、「登記簿謄本(登記事項証明書)」「住民票」「登記申請書」などの必要書類を準備して法務局で申請手続きをします。その際は、登録免許税額分の収入印紙も必要です。 関連記事はこちら登記簿謄本(登記事項証明書)とは?取得方法や記載内容を解説 司法書士に代行してもらう場合は、手続きをすべて司法書士に任せることが可能です。ただし、司法書士報酬を支払う必要があるため、自分で行うよりもコストはかかります。司法書士によって報酬は異なるので、ホームページなどで料金を確認した上で、依頼するといいでしょう。 出典)法務局「不動産登記の申請書様式について」 法務局が職権で住所等の変更登記をする仕組みも導入される 法務局が職権で住所等の変更登記をする新たな仕組みも導入予定で、2026年(令和8年)4月までに施行されます。法務局の登記官が、個人の場合は「住基ネット」、法人の場合は「商業・法人登記システム」から取得した情報に基づき、職権で変更登記ができるようになります。職権で変更登記が行われた場合は、個人・法人ともに「住所変更登記等の申請義務は履行済み」とみなされます。 登記漏れや手続きにかかる手間などの理由から、基本的には職権による変更登記を了承しておくといいでしょう。一方で、詳細な手続きや費用について言及されていないので、今後の動向を注視しておきましょう。 職権による住所等の変更登記の手続き方法 個人はDV被害者等への配慮や個人情報保護の観点から、登記名義人の了解を得た場合に限り、職権による変更登記がされます。事前準備として、施行後に新たに登記名義人となる場合は、登記申請時に検索用情報を提供する必要があります。施行前に登記名義人であるケースでは、任意で検索用情報の提供が可能となる予定です。 一方、法人については、職権による変更登記の際に意思確認はありません。不動産登記法の改正に伴い、2024年(令和6年)4月1日から、登記名義人が法人の場合は会社法人等番号が登記事項となります。そのため、会社法人等番号を検索キーとして職権による変更登記を行うことが想定されています。 登記名義人への意思確認や検索用情報の提供など、具体的な手続き方法はインターネットの活用を含めて今後検討されます。現時点では、住所や氏名等の変更が生じる場合は自ら変更登記を行うと安心といえます。 出典)法務省「不動産登記法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について P.13~P.15」 まとめ 所有中の不動産について住所等の変更があった場合、今後は変更登記の申請が義務化されます。2026年(令和8年)4月までに施行される予定で、施行日前の変更も適用対象です。申請義務を怠ると罰則が科されるので、必要な場合は忘れずに手続きを行いましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 相続土地国庫帰属法とは?制度の概要や相続放棄との違いなどを解説 「維持管理の費用がかかる相続した土地を手放したい」と悩んでいませんか。相続土地国庫帰属法の成立により、今後は相続した不要な土地を国に引き取ってもらえるようになります。ただし、対象となる土地に...記事を読む

    2022.11.09制度
  • 老齢年金とは?受給要件や年金額、請求手続きについて解説

    老齢年金とは?受給要件や年金額、請求手続きについて解説

    老齢年金は、老後の生活を支える重要な収入源です。公的年金に加入している人は、一定の年齢に達すると老齢年金を受け取れます。老齢年金はどんな仕組みで、いくら受け取れるのでしょうか。 この記事では、老齢年金の受給要件や年金額、請求手続きについて詳しく解説します。 老齢年金とは 老齢年金とは、公的年金制度の加入者だった人に対して老後の保障として給付される年金です。原則65歳から支給開始となり、一生涯受け取れます。ただし、保険料納付済期間と保険料免除期間などを足した資格期間が10年以上あることが受給要件となります。 老齢年金は、加入していた年金制度により、国民年金の「老齢基礎年金」と厚生年金保険の「老齢厚生年金」の2種類が支給されます。 老齢基礎年金 老齢基礎年金は、国民年金もしくは厚生年金保険や共済組合等に加入していた人が受け取れます。20歳から60歳になるまでの40年間の国民年金加入期間などに応じて年金額が計算されます。 国民年金保険料を納付した期間のほか、会社員として厚生年金に加入していた期間や保険料の免除を受けた期間も年金額の計算に含まれます。 原則65歳から受給開始ですが、60歳から75歳の間で受給開始年齢を選択する「繰り上げ受給」や「繰り下げ受給」も可能です。 老齢厚生年金 老齢厚生年金は、会社員や公務員など厚生年金保険や共済組合等に加入していた人のみが対象です。厚生年金加入時の報酬額や加入期間などに応じて年金額が計算されます。老齢厚生年金も原則65歳から受け取ることができ、老齢年金と同様に「繰り上げ受給」や「繰り下げ受給」も可能です。 老齢年金の受給要件(資格期間) 老齢年金を受給するには、10年以上の資格期間が必要となります。資格期間とは、以下3つを合計した期間のことです。 保険料納付済期間 保険料免除期間 合算対象期間 国民年金保険料を納めた期間や厚生年金加入期間はもちろん、国民年金保険料の免除や納付猶予を受けた期間も資格期間に含まれます。厚生年金加入期間は、加入した月から加入をやめた日(退職日の翌日など)の前月までの月単位で計算します。 合算対象期間は、海外在住者が国民年金に任意加入しなかった期間、または任意加入したが保険料を納付しなかった期間などが該当します。保険料免除期間や合算対象期間は資格期間の対象にはなりますが、年金額には反映されない点に注意が必要です。 老齢年金の年金額 老齢年金の年金額は、老齢基礎年金と老齢厚生年金で異なります。 老齢基礎年金は、保険料の納付状況に応じて年金額が決定され、20歳から60歳の40年間の保険料をすべて納めると、満額の年金を受け取れます。令和5年度(2023年度)の年金額(満額)は年795,000円(月66,250円)です。 老齢厚生年金は、「報酬比例部分」と「定額部分」の合計が年金額となります。 報酬比例部分は、平均報酬月額に一定の給付率と加入期間の月数を乗じて計算します。定額部分は「1,657円×被保険者期間の月数」で計算します。ただし、昭和31年4月1日以前に生まれた方は、1,652円となります。老齢厚生年金は基本的に収入が高く、加入期間が長い人ほど年金額は増えます。 令和3年度(2021年度)の老齢年金受給者の平均年金月額は、国民年金の56,479円に対し、厚生年金は145,665円です。 厚生年金加入者は同時に国民年金の加入者でもあるため、65歳から老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金を受け取れます。国民年金のみの自営業者に比べて、厚生年金に加入する会社員の年金額は手厚い傾向にあります。 出典)厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況P8、P20」 老齢年金の請求手続き 老齢基礎年金・老齢厚生年金を受け取るには請求手続きが必要です。手続きの流れは下記のとおりです。 「年金請求書」が自宅に届く 「年金請求書」を年金事務所や市区町村に提出する 「年金証書」「年金決定通知書」などが自宅に届く 1~2ヵ月後に年金の受け取りが開始される 老齢年金の受給権が発生する年の誕生月の約3ヵ月前に、日本年金機構などから年金請求書が届きます。必要事項を記入して、受給開始年齢の誕生日の前日以降に提出しましょう。 提出先は、年金加入期間が国民年金のみの人は住所地のある市区町村、それ以外の人は最寄りの年金事務所です。 請求時には、戸籍抄本や住民票などの添付書類が必要です。同封されているパンフレットを確認し、添付書類を準備しましょう。年金請求書の提出から1ヵ月程度で年金証書や年金決定通知書が届き、その約1~2ヵ月後に年金の受給が開始されます。 年金の請求をせず、年金を受けとれるようになったときから5年を過ぎると、5年を過ぎた分の年金については時効により受け取れなくなる恐れがあるので、注意しましょう。 出典)日本年金機構「年金の時効」 繰り上げ受給と繰り下げ受給 老齢年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、希望すれば65歳より前に年金を受け取る「繰り上げ受給」、受給開始を65歳より後に受け取る「繰り下げ受給」も選択可能です。 繰り上げ受給は60歳から65歳の間に請求でき、「繰り上げた月数×0.4%」の年金額が減額されます。たとえば、60歳時点では最大で24%の減額となります。年金を早く受け取れますが、減額された年金額は生涯変わらない点に注意が必要です。 繰り下げ受給は65歳から75歳の間に請求でき、「繰り下げた月数×0.7%」の年金額が増額されます。たとえば、70歳時点では42%、75歳時点では84%の増額となり、増額された年金は生涯変わりません。65歳以降も一定の収入があり、当面は年金なしでも生活できるなら、繰り下げ受給を利用して年金額を増やすのも選択肢の一つでしょう。 関連記事はこちら老齢年金の繰り上げと繰り下げ、どっちがお得? 在職老齢年金 在職老齢年金とは、60歳以降に厚生年金に加入して働きながら受け取る老齢厚生年金のことです。給与や賞与の額と老齢厚生年金の額によっては、年金の一部または全額が支給停止となる場合があります。 老齢厚生年金(比例報酬部分)の月額である「基本月額」と、給与や賞与をもとに計算する「総報酬月額相当額」の合計が48万円を超えると、老齢厚生年金の一部または全額が支給停止となります。 なお、「老齢基礎年金」は支給停止の対象外で全額支給されます。 まとめ 老齢年金は10年以上の資格期間が受給要件で、原則65歳から受け取れます。日本年金機構などから年金請求書が届いたら、忘れずに手続きを行うことが大切です。状況に応じて、繰り上げ受給や繰り下げ受給も検討しましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 夫婦の老後資金はいくら必要?足りない時の対処法も紹介 「人生100年時代」や「老後2,000万円問題」などに起因して、「老後資金」という言葉が注目を集めています。老後破産に陥らないためにも、夫婦で必要な老後資金を把握し、なるべく早くから準備して...記事を読む

  • 所有者不明土地の解消に向けた法改正とは?2つのポイントを解説

    所有者不明土地の解消に向けた法改正とは?2つのポイントを解説

    「相続登記が行われない」などの理由で、所有者が分からない土地が増えています。この所有者不明土地問題を解消するために、2つの法律が成立して不動産のルールが見直されました。 罰則規定も設けられているため、変更点を理解しておくことが大切です。この記事では、所有者不明土地を解消するために成立した2つの法律のポイントを解説します。 所有者不明土地とは 所有者不明土地とは、以下のいずれかの状態になっている土地のことです。 不動産登記簿によって所有者が直ちに判明しない土地 所有者が判明しても所在が不明で連絡がつかない土地 国土交通省の調査によると、全国の土地のうち所有者不明土地の割合は24%で、その面積は九州本島の大きさに匹敵する規模に拡大しています。 出典)法務省民事局「民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要」 所有者不明土地の問題点 所有者不明土地の問題点は下記のとおりです。 土地所有者の探索に多大な時間と労力を要する 土地の利用が円滑に進まない 土地が適切に管理されず、周囲に悪影響を及ぼす 転居や相続の際に登記(名義変更)が行われず、長期間そのままになっていると、所有者の特定が困難になります。所有者の探索自体にコストがかかるほか、公共事業や民間取引における土地の利活用が阻害されます。また、土地の管理不全により、近隣の土地へ悪影響を及ぼす恐れもあります。 高齢化の進展による死亡者数の増加などによって、早期に対策を講じないと所有者不明土地問題が深刻化する恐れがあります。 所有者不明土地の解消に向けた3つの見直し 所有者不明土地の解消に向けて、2021年(令和3年)4月21日に以下3つの軸から法制の見直しが行われることとなりました。 不動産登記制度の見直し 土地利用に関する民法の見直し 相続土地国庫帰属法の創設 不動産登記制度の見直しと相続土地国庫帰属法の創設は「所有者不明土地の発生予防」、土地利用に関する民法の見直しは「土地利用の円滑化」を目的としています。 不動産登記制度の見直し ここでは、不動産登記制度見直しのポイントを紹介します。 相続登記の申請義務化 相続登記はこれまで任意でしたが、所有者不明土地の発生予防のために申請が義務化されました。施行日は2024年(令和6年)4月1日です。申請義務に関するルールは以下2つです。 相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなくてはならない 遺産分割によって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に相続登記の申請をしなくてはならない いずれも正当な理由なく義務に違反した場合、10万円以下の過料の適用対象となります。 相続人申告登記の新設 相続人が登記名義人の法定相続人である旨を申し出ることで、相続登記の申請義務が履行できる「相続人申告登記」が新設されました。2024年(令和6年)4月1日に施行されます。 現在は、法定相続分の割合を確定するために、すべての相続人を把握できる資料を準備しなくてはなりません。一方、相続人申告登記では、自分が相続人であることがわかる書類(戸籍謄本など)を提出するだけで済みます。1人の相続人が、相続人全員分をまとめて申し出ることも可能です。そのため、簡易に相続登記の申請義務の履行が可能となります。 ただし、あくまでも相続登記の申請義務を履行するための登記制度であり、遺産分割が成立した場合は従来どおりの相続登記が必要です。 住所等変更登記の申請義務化 現在、住所等変更登記は任意であり、行われないことが多いのが現状です。所有者不明土地の発生要因の1つとなっているため、登記申請が義務化されます。2026年(令和8年)4月までに施行される予定です。 今後、登記簿上の所有者は、その住所等を変更した日から2年以内に住所等変更登記の申請をしなくてはなりません。正当な理由なしに義務に違反した場合は、5万円以下の過料の適用対象となります。 関連記事はこちら住所変更登記等の義務化はいつから?手続き方法や注意点も解説 土地利用に関する民法の見直し 続いて、土地利用に関する民法見直しのポイントを紹介します。 土地・建物の財産管理制度の創設 所有者不明・管理不全状態の土地・建物を対象に、個々の土地・建物の管理特化した財産管理制度が創設されました。施行日は2023年(令和5年)4月1日です。 調査しても所有者やその所在が不明な土地・建物については、利害関係人が地方裁判所に申し立てることにより、弁護士や司法書士などの中から管理人を選任してもらえます。裁判所の許可を得れば、管理人は所有者不明土地の売却等が可能です。 所有者の管理が不適当で、他人の権利・法的利益が侵害される(またはその恐れのある)土地・建物については、利害関係人が地方裁判所に申し立てることにより、管理人を選任してもらえます。これによって、補修工事、ごみ・害虫の駆除などを管理人に依頼できるようになります。 共有制度の見直し 共有物の利用や共有関係の解消がしやすくなるように、共有制度全般について見直されました。2023年(令和5年)4月1日に施行されます。共有物の利用については、共有物の軽微な変更に必要な要件が緩和されました。全員の同意は不要で、持分の過半数で決定できるようになります。 所在不明な共有者がいる場合は、裁判所の許可を得れば、管理行為や変更行為が可能となります。管理行為は残りの共有者の持分の過半数、変更行為は残りの共有者全員の同意が必要です。 共有関係の解消については、所在不明の共有者の持分の取得、その持分を含めた不動産全体の第三者への譲渡が可能となります。その際は、持分に応じた時価相当額の金銭供託が必要です。 その他のポイント 上記のほかに、以下2つのルール変更が予定されています。 遺産分割に関する新ルール導入 相隣関係の見直し  ※いずれも2023年(令和5年)4月1日施行 被相続人の死亡から10年経過後の遺産分割は、原則として具体的相続分を考慮せず、法定相続分または指定相続分によって画一的に行うことになります。相隣関係については、「隣地の所有者やその所在が分からない場合は隣地が使用できる」などの仕組みが設けられました。 出典)法務省民事局「所有者不明土地の解消に向けて、不動産に関するルールが大きく変わります。P5~7」 相続土地国庫帰属法の創設 相続または遺贈により土地の所有権を取得した相続人が、土地を手放して国庫に帰属させることを可能にする「相続土地国庫帰属制度」が創設されました。今後は、相続で取得して管理や処分に困っている土地を国に引き取ってもらえるようになります。 相続土地国庫帰属法の詳細は、以下の記事で詳しく解説しています。 関連記事はこちら相続土地国庫帰属法とは?制度の概要や相続放棄との違いなどを解説 まとめ 不動産登記法・土地利用に関する民法の改正、相続土地国庫帰属法の創設によって、不動産ルールが大幅に変更されます。特に相続登記や住所等変更登記の申請義務化は、違反すると過料の対象となるため要注意です。不動産を取得・売却する可能性がある場合は、今回の不動産ルール変更の内容を理解しておきましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 不動産相続について徹底解説!知っておきたい手続きや費用 不動産を相続することになった場合、さまざまな手続きが必要になります。不動産相続では、相続税や遺産分割で、トラブルが発生することもあります。不動産相続をスムーズに進めるには、手続きの流れを理解...記事を読む

    2022.10.12制度相続
  • 公的年金の仕組みとは?国民年金・厚生年金の基礎知識を解説

    公的年金の仕組みとは?国民年金・厚生年金の基礎知識を解説

    公的年金は、国民が安心して日常生活を送るために不可欠な制度です。老後だけでなく、病気・ケガで障害が残ったときや加入者が死亡したときも給付を受けられます。老後生活に備えて公的年金の仕組みについて理解を深めておくことが大切です。 この記事では、公的年金の概要や受け取り方、注意点などの基礎知識を解説します。 公的年金の仕組み 公的年金とは、国が運営する年金制度です。日本では、20歳以上60歳未満のすべての人が公的年金に加入する「国民皆保険」を採用しています。 公的年金は、現役世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てる「世代間扶養」が基本です。保険料収入を基本財源とし、そこに国庫負担金(税金)を組み合わせる「社会保険方式」によって、安定的に年金を給付できる仕組みになっています。 公的年金は国民年金と厚生年金の2種類 公的年金は、「国民年金」と「厚生年金」の2種類があります。 国民年金 国民年金とは、日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する公的年金です。自営業や無職の人などは国民年金の保険料を自分で納める必要があります。 厚生年金 厚生年金とは、会社員や公務員が加入する公的年金です。厚生年金加入者は同時に国民年金の加入者でもあります。厚生年金保険の被扶養者は、勤務先などの事業主が支払いを行うため、年金の加入者が保険料を直接納めることはありません。 公的年金の受け取り方は3種類 公的年金は老後だけでなく、障害や被保険者の死亡も給付対象です。具体的には、「老齢年金」「障害年金」「遺族年金」の3種類があります。それぞれの内容は以下のとおりです。 老齢年金 老齢年金とは、公的年金の加入者が一定の年齢に達したときに一生涯受け取れる年金です。 国民年金は、受給資格期間が10年以上ある場合に65歳から老齢基礎年金が支給されます。年金額は保険料の納付状況によって計算され、40年間(20~60歳)の保険料をすべて納めると満額の老齢基礎年金を受け取れます。 厚生年金では、65歳から老齢基礎年金に上乗せして厚生老齢年金が支給されます。そのため、老齢基礎年金の受給資格があることが要件です。年金額は厚生年金加入時の報酬額や加入期間などに応じて計算されます。 関連記事はこちら老齢年金とは?受給要件や年金額、請求手続きについて解説 老齢基礎年金と老齢厚生年金は、どちらも受給開始年齢の「繰り上げ」や「繰り下げ」が可能です。繰り上げは、受給開始を60~65歳に早めることで年金額が減額されます。繰り下げは、受給開始を66~75歳に遅らせることで年金額が増額されます。 関連記事はこちら老齢年金の繰り上げと繰り下げ、どっちがお得? 障害年金 障害年金とは、病気やケガなどで生活や仕事が制限される場合に受け取れる年金です。国民年金からは「障害基礎年金」、厚生年金からは「障害厚生年金」が支給されます。年金額は、保険の種類や障害の程度、家族構成などによって変わります。 障害基礎年金は、以下のすべての要件を満たしているときに支給されます。 障害の原因となった病気・ケガの初診日が以下のいずれかに該当する 1. 国民年金加入期間 2. 20歳前または60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間 障害の状態が障害等級1級または2級に該当する 被保険者期間のうち3分の2以上の納付済み期間があること 障害厚生年金は、以下のすべての要件を満たしているときに支給されます。 障害の原因となった病気・ケガの初診日が厚生年金保険の被保険者である間 障害の状態が障害等級1級から3級に該当する 被保険者期間のうち3分の2以上の納付済み期間があり、直近1年以内に未納がないこと 出典)※詳細はこちら(日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」)をご確認ください。 遺族年金 遺族年金とは、公的年金の被保険者(または被保険者だった人)が亡くなったときに、その人に生計を維持されていた遺族が受け取れる年金です。年金額は、保険の種類や家族構成などによって変わります。遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があります。 遺族基礎年金では、「子のいる配偶者」と「子」に遺族基礎年金が支給されます。子は18歳到達年度の3月31日まで(または20歳未満で一定の障害状態にあること)が条件です。 遺族厚生年金の場合は、「①配偶者・子」「②父母」「③孫」「④祖父母」のうち、優先順位が最も高い遺族に遺族厚生年金が支給されます。もし亡くなった人に配偶者や子がいなければ、第2順位の父母が受け取ります。 公的年金の被保険者の分類 公的年金の被保険者は、働き方によって以下の3つに分類されます。 第1号被保険者 第1号被保険者は、自営業者や学生など国民年金のみに加入する人です。国民年金保険料は、納付書や口座振替を利用して自分で納めます。令和5年度(2023年度)の1ヵ月あたりの保険料は16,520円です。 第2号被保険者 第2号被保険者は、会社員や公務員などの厚生年金加入者です。厚生年金保険料は、事業主と加入者で半額ずつ負担します。保険料は給与や賞与から天引きされ、事業主が納めてくれるので、納付手続きは不要です。 第3号被保険者 第3号被保険者は、第2号被保険者に扶養されている、20歳以上60歳未満の配偶者(年収130万円未満)です。保険料は、配偶者が加入する年金制度が負担するため、個別に納める必要はありません。 公的年金の注意点 公的年金について、以下の注意点を把握しておきましょう。 保険料を納めなければ受給できない 年金の受給資格を満たすには、保険料を納めなくてはなりません。厚生年金は給与や賞与から天引きされますが、国民年金は自分で納めるので納付漏れがないように注意が必要です。 保険料を納めるのが難しい場合は、最寄りの年金事務所で免除や納付猶予について相談し、自己判断での未納は絶対に避けましょう。保険料の納付状況については、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認できます。 関連記事はこちら「ねんきんネット」はこんなに便利!使い方を詳しくご紹介 自営業者は老齢年金が少ない 国民年金のみの自営業者は、会社員(厚生年金加入者)に比べて老齢年金が少ない傾向にあります。老後の生活資金に不安がある場合は、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」や「国民年金基金」などの私的年金に加入して年金額を増やすことを検討しましょう。 関連記事はこちら自営業の人の年金は少ない?年金対策も解説 まとめ 公的年金は老後だけでなく、病気やケガ、配偶者の死亡で仕事や生活が制限される場合にも給付を受けられます。ただし、保険料を納めていないと年金を受け取れないため、納付漏れのないように注意が必要です。 老後やもしものときに安心して生活できるように、公的年金への理解を深めておきましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 夫婦の老後資金はいくら必要?足りない時の対処法も紹介 「人生100年時代」や「老後2,000万円問題」などに起因して、「老後資金」という言葉が注目を集めています。老後破産に陥らないためにも、夫婦で必要な老後資金を把握し、なるべく早くから準備して...記事を読む

  • 2022年宅建業法改正のポイントを解説!不動産取引のデジタル化は進むのか?

    2022年に宅建業法が改正!不動産取引のデジタル化は進むのか?

    2022年5月に宅地建物取引業法が改正されました。押印義務が廃止され、交付書面の電子化が可能となったため、今後は不動産取引のデジタル化が進む可能性があります。今回の改正によって、不動産事業者にはどんな影響があるのでしょうか。 この記事では、不動産事業者向けに2022年宅建業法改正のポイントを解説します。 宅建業法が改正された背景 今回の宅建業法改正は、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(デジタル社会形成整備法)」に基づいて行われたものです。本法律は2021年5月19日に公布、2022年5月18日に施行されました。 デジタル社会の形成により、日本経済の持続的かつ健全な発展と国民の幸福な生活の実現に寄与することを目的としています。 不動産取引においては、改正前の宅建業法で義務付けられていた押印や書面手続きがデジタル化を阻む要因となっていました。そのため、デジタル社会形成整備法の施行に伴い、押印や書面交付に関する宅建業法の改正が行われました。 2022年宅建業法改正のポイント 今回の宅建業法改正のポイントは「押印義務の廃止」と「交付書面の電子化」の2つです。それぞれの内容を確認していきましょう。 宅地建物取引士の押印義務の廃止 不動産取引に必要な以下の書類について、これまでは宅地建物取引士の押印・記名が必要でした。 重要事項説明書 売買・交換・賃貸借契約締結後の交付書面 今回の法改正で押印義務が廃止され、今後は記名のみで可能となります。ただし、媒介契約・代理契約を締結したときに交付する書面については、引き続き押印が必要です。 交付書面の電子化 以下4つの不動産取引関連書類について、電磁的方法による交付が可能となりました。 媒介契約・代理契約締結時の交付書面 レインズ(指定流通機構)登録時の交付書面 重要事項説明書 売買・交換・賃貸借契約締結後の交付書面 依頼者の承諾は必要ですが、今後は紙による書面の交付が義務ではなくなります。電磁的方法による提供において、満たすべき主な基準は以下のとおりです。 依頼者が書面の状態で確認できるよう、出力可能な形式で提供する 電子署名等の方法で、記載事項が改変されていないことを依頼者が確認できるようにする 電磁的方法により書面を提供する場合、不動産事業者は依頼者が確実に受け取れるようにしなくてはなりません。 具体的には、電磁的方法の内容や記録方式を示した上で、出力可能な方法(電子メール、Web上での承諾など)や書面(以下、「書面等」という)で依頼者の承諾を得ます。たとえ事前に承諾を得た場合であっても、依頼者から書面等で「電磁的方法で受け取らない」と申出があれば紙の書面を交付する必要があります。 出典)宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方 不動産取引のデジタル化のメリット 不動産事業者にとって、不動産取引のデジタル化は以下のようなメリットがあります。 取引にかかる時間や手間が省ける 不動産取引のデジタル化は、取引にかかる時間や手間が省けるのがメリットです。依頼者と対面で会う必要がなく、オンライン上で契約手続きを完結できるようになります。また、書類の押印や郵送が不要になるため、事務手続きの効率化が期待できます。 印紙税の節税になる 不動産取引では、取引金額が大きくなるほど印紙税の負担が増える仕組みになっています。しかし、書類を電子化して紙の書面を発行しない場合は印紙税が発生しません。不動産取引のデジタル化を進めれば、印紙税の節税になります。 コスト削減が期待できる 不動産取引では、さまざまな書類のやり取りが発生します。関連書類を電子化すれば、書類の郵送料や保管スペース、ファイリング業務が不要となります。閲覧したい書類は検索ですぐに見つけられるため、業務の効率化や書類管理コストの削減につながります。 宅建業法改正が不動産取引に与える影響 今回の宅建業法改正により、不動産取引のデジタル化が加速する可能性があります。ITを活用した重要事項説明(IT重説)は、すでに2017年10月から不動産賃貸で運用が開始されています。2021年4月からは不動産売買においても認められました。 従来はIT重説でも契約は対面や郵送で行う必要がありましたが、今回の宅建業法改正で交付書面の電子化が可能となり、不動産事業者との契約がデジタルで完結できるようになりました。不動産取引のデジタル化は「契約手続きの簡素化」「コストの削減」など、不動産事業者にとって大きなメリットがあります。 一方で、デジタル化を進めるにはITシステムだけでなく、業務のオペレーションの整備が必要です。個人情報の流出を防ぐため、セキュリティ対策にも取り組まなくてはなりません。ITのノウハウを持たない中小不動産業者の場合、自社だけでデジタル化を進めるのが難しいケースがほとんどでしょう。 また、不動産業界は対面での説明や紙の書面交付が一般的であるため、長年の商慣行が変わるか不透明な部分もあります。制度開始直後は、トラブルが起こる可能性もあるため、今回の宅建業法改正が不動産取引に与える影響を注視することが大切です。 なお、ITを活用した重要事項説明や書面の電子化については、不動産事業者に向けて国土交通省がマニュアルを公表しています。不動産取引のデジタル化を進める際の参考にするといいでしょう。 出典)国土交通省「ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について」 まとめ 2022年宅建業法改正によって宅建士の押印義務が廃止され、交付書面の電子化も可能となりました。今回の改正によって不動産取引のデジタル化が加速するかもしれません。不動産事業者は変化にすばやく対応できるように、不動産取引に与える影響を注視しておくと良いでしょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 物件の仕入れは資金確保とネットワークが重要?! ーー不動産事業者インタビューvol.1(1) ひとくちに不動産業といっても、さまざまな事業分野があります。その中でも、不動産の物件の仕入れというのは、もっとも基本的かつ重要な業務といえるでしょう。どうすれば優良な物件を入手することができ...記事を読む

  • 相続土地国庫帰属法とは?制度の概要や相続放棄との違いなどを解説

    相続土地国庫帰属法とは?制度の概要や相続放棄との違いなどを解説

    「維持管理の費用がかかる相続した土地を手放したい」と悩んでいませんか。相続土地国庫帰属法の成立により、今後は相続した不要な土地を国に引き取ってもらえるようになります。ただし、対象となる土地には要件があるため、制度の内容を理解しておくことが大切です。 この記事では、相続土地国庫帰属法の概要やその制度を利用する際の条件、相続放棄との違いなどを解説します。 相続土地国庫帰属法とは 相続土地国庫帰属法とは、2022年4月28日に交付された「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」のことです。相続した不要な土地を国に引き取ってもらえる「相続土地国庫帰属制度」が創設されました。2023年(令和5年)4月27日に施行されます。 相続土地国庫帰属法が成立した背景 相続土地国庫帰属法が成立した背景には、「相続した不要な土地を手放したい」というニーズの増加があります。 都市部への人口移動や人口の減少・高齢化の進展などを背景に、相続によって望まない土地を取得したことで所有者の負担感が増し、管理不全を招くケースが増加しています。増加傾向にある所有者不明土地の発生を抑制するため、相続土地の所有権を国庫に帰属させることが可能となりました。 関連記事はこちら所有者不明土地の解消に向けた法改正とは?2つのポイントを解説 相続放棄との違い 不動産を相続したくない場合は、相続放棄をするのも選択肢のひとつです。しかし、相続放棄ははじめから相続人ではなかったとみなされるため、相続財産(資産および負債)のすべてを放棄する必要があります。そのため、不要な土地・建物だけを放棄することはできません。 また、相続放棄をすれば土地の管理義務がなくなるというわけではありません。他の相続人が管理を始められるようになるまでは管理義務を負うことになります。 一方、相続土地国庫帰属制度は相続放棄と異なり、「相続開始を知ったときから3ヵ月以内」といった制限はありません。制度を利用するために負担金を払う必要はありますが、相続土地を国庫に帰属させれば管理義務はなくなります。 相続土地国庫帰属制度の概要 相続土地国庫帰属制度は、相続または遺贈により土地の所有権を取得した相続人が土地を手放して国庫に帰属させることを可能にする制度です。土地の管理コストの国への不当な転嫁やモラルハザードを防止するため、一定の要件を設定し、法務大臣が要件審査をすることとなっています。 承認申請できる人 単独所有の土地は、相続等により土地の全部または一部を取得した人が申請権者です。 複数人で共有している土地は、共有者全員で共同して承認申請を行います。共有者のうち、1人が相続等により持分を取得していれば、共同して承認申請が可能です。 対象となる土地の要件 相続土地国庫帰属制度を利用し、土地を手放すためには、「通常の管理・処分をするにあたり、過分の費用や労力を要する土地」に該当しないことが必要です。 具体的には、以下5つに該当する土地は承認申請が却下されます。 建物のある土地 担保権または使用および収益を目的とする権利が設定されている土地 通路など他人による使用が予定される土地 土壌汚染対策法上の特定有害物質により汚染されている土地 境界が明らかでない土地、その他の所有権の存否、帰属または範囲について争いがある土地 たとえば、建物が残っている場合は取り壊して更地にしなくてはなりません。抵当権が残っていると申請できない点にも注意が必要です。 関連記事はこちら抵当権とは?根抵当権との違いや設定・抹消登記について解説 また、以下5つに該当する土地は不承認処分とされます。 崖がある土地で、通常の管理に過分の費用または労力を要するもの 土地の通常の管理・処分を阻害する工作物、車両または樹木などが地上にある土地 除去しなければ土地の通常の管理・処分ができない有体物が地下にある土地 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ通常の管理・処分ができない土地 上記のほか、通常の管理・処分に過分の費用または労力を要する土地 このように、相続した土地を国庫に帰属させるには一定の要件を満たす必要があります。却下・不承認処分のいずれも、行政不服審査・行政事件訴訟により不服申立てが可能です。 相続土地国庫帰属制度のメリット・デメリット 相続土地国庫帰属制度は、相続で取得して管理や処分に困っている土地を国に引き取ってもらえることがメリットです。土地の所有権が国庫に帰属されれば、相続した土地の管理から解放され、固定資産税の負担もなくなります。維持費のみがかかり、処分がしづらい山林なども制度対象です。 一方で、相続した不要な土地を引き取ってもらうには、10年分の土地管理費相当額の負担金が発生します。粗放的な管理で足りる原野で約20万円、市街地の宅地(200㎡)で約80万円が目安です。 また、制度対象となる土地が限定されるのもデメリットです。建物がある状態では引き取ってもらえないため、更地にしなくてはなりません。建物の構造や広さ、土地の状況によってはまとまった費用負担が生じる可能性があります。 相続土地国庫帰属制度の利用手続き 相続土地国庫帰属制度の利用手続きの流れは以下のとおりです。 承認申請 法務大臣(法務局)の要件審査・承認 負担金の納付 国庫帰属 まずは承認申請書と政令で定める額の手数料を納めましょう。法務大臣には調査権限があり、必要に応じて実地調査が行われます。申請が承認されたら、承認通知を受けた日から30日以内に負担金を納付します。期限までに納付しないと承認が取り消されるので要注意です。 まとめ 相続土地国庫帰属法の成立により、相続後に処分に困っていた土地を国に帰属させることができます。相続放棄とは異なり、土地だけに限定して処分ができることから、要件を満たせば維持管理に負担がかかる不要な土地を手放すことができるかもしれません。 相続した土地を手放したい場合は、相続土地国庫帰属制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。 出典)法務省「相続土地国庫帰属制度について」 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 不動産相続について徹底解説!知っておきたい手続きや費用 不動産を相続することになった場合、さまざまな手続きが必要になります。不動産相続では、相続税や遺産分割で、トラブルが発生することもあります。不動産相続をスムーズに進めるには、手続きの流れを理解...記事を読む

    2022.07.27制度
  • 長期優良住宅とは?認定制度の概要やメリット・デメリット、申請手続きの流れを解説

    長期優良住宅とは?認定制度の概要やメリット・デメリットを解説

    住宅を購入しようとするときに、「長期優良住宅」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。長期優良住宅であることで、税制優遇措置や住宅ローンの金利引き下げなどのメリットがあるため、これから住宅を購入するなら選択肢の1つとなります。 この記事では、長期優良住宅の概要やメリット・デメリット、申請手続きの流れについて解説します。 長期優良住宅とは 長期優良住宅とは、長期にわたって良好な状態で使用するための措置が講じられた住宅です。「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づいて、2009年6月から「長期優良住宅認定制度」が開始されました。 背景には「ストック重視の住宅政策への転換」があります。環境負荷の低減や建て替え費用の負担軽減のため、従来の「作っては壊す」スクラップ&ビルド型の社会から、「いいものを作って、きちんと手入れをして、長く大切に使う」社会への移行を目指しています。 長期優良住宅の認定を受けるには、必要な措置を講じたうえで所管行政庁に申請する必要があります。一度認定を受けたら終わりではなく、工事完了後も維持保全計画に基づく点検などが求められます。 出典)国土交通省「長期優良住宅のページ」 長期優良住宅の認定状況 長期優良住宅の認定戸数の累計は、令和2年度末で120万戸以上(新築と増改築の合計)です。全体の約98%は戸建て住宅が占めています。認定戸数は年間10万戸程度で推移しており、新築戸建ての約4戸に1戸は長期優良住宅の認定を取得しています。 出典)住宅性能評価・表示協会「長期優良住宅認定制度の技術基準の概要について」 長期優良住宅の認定基準 長期優良住宅として認定されるためには、定められている認定基準を満たす必要があります。新築戸建ての主な認定基準をまとめました。 項目認定基準の内容 劣化対策数世代にわたり住宅の構造躯体が使用できる 耐震性耐震性能が高く、地震の振動に耐えられる 維持管理構造躯体に比べて耐用年数が短い内装・設備について、維持管理を容易に行うことができる 省エネルギー性断熱性を高めることで冷暖房負荷を軽減できる 居住環境良好な景観の形成、地域における居住環境の維持・向上に配慮している 住戸面積良好な居住水準の確保に必要な規模を有する 保持保全計画将来を見据えて定期的な点検・補修等に関する計画が策定されている 災害配慮自然災害による被害の発生・防止・軽減に配慮されている 「耐震性は耐震等級2以上」「住戸面積は75㎡以上」など、それぞれの項目について一定の基準が設けられています。 共同住宅(マンションなど)については、上記に加えて以下の基準もあります。 項目認定基準の内容 可変性居住者のライフスタイルの変化等に応じて間取りの変更が可能 バリアフリー性共用部分について将来のバリアフリー改修に対応できる 長期優良住宅のメリット 長期優良住宅のメリットは以下のとおりです。 補助金を受けられる 長期優良住宅を取得する際は、「地域型住宅グリーン化事業」の補助金を受け取られます。本事業の採択を受けた中小工務店などが整備する木造住宅を建築することが要件です。 令和4年度の場合、長寿命型の住宅は最大140万円、ゼロ・エネルギー住宅型は最大150万円が補助されます。 出典)地域型住宅グリーン化事業「令和3年度事業からの変更点」 税制優遇措置が設けられている 長期優良住宅の認定を受けた新築住宅には、以下の税制優遇措置が設けられています。 税目優遇措置の内容 所得税控除対象限度額を5,000万円に引き上げ(一般住宅は3,000万円)※ 登録免許税所有権保存登記の税率を0.1%に引き下げ(一般住宅は0.15%) 固定資産税減税措置(1/2に減額)の適用期間を戸建て5年間、マンション7年間に延長(一般住宅は戸建て3年間、マンション5年間) 不動産取得税課税標準からの控除額を1,300万円に増額(一般住宅は1,200万円) 住宅ローン減税は2023年12月31日までの入居、その他は2024年3月31日までの入居が要件です。 出典)住宅性能評価・表示協会「長期優良住宅認定制度の技術基準の概要について」 フラット35の金利が下がる 住宅金融支援機構のフラット35Sが適用されると、フラット35の借入金利から年0.25%引き下げられます。金利引き下げ期間は住宅の技術基準レベルによって異なり、Aプランが当初10年間、Bプランが当初5年間です。 出典)住宅金融支援機構「【フラット35】S」 地震保険料の割引がある 長期優良住宅は、住宅の耐震性に応じて地震保険料の割引を受けられます。耐震等級を有している建物の場合、割引率は耐震等級2が30%、耐震等級3が50%です。免震建築物の割引率は50%となっています。 出典)住宅性能評価・表示協会「長期優良住宅認定制度の技術基準の概要について」 長期優良住宅のデメリット 一方で、長期優良住宅には以下のようなデメリットもあります。 認定を受けるために費用がかかる 長期優良住宅は、認定を受けるための費用がかかります。具体的には、図面・計算書の書類作成費用や認定申請手数料、申請代行費用などです。所管行政庁や建築会社によって費用は異なるため、いくらかかるかを事前に確認しておきましょう。 一般住宅より建築コスト高い 長期優良住宅は、耐震性や省エネルギー性などの認定基準を満たなくてはなりません。品質の高い材料を使ったり、基準を満たす設計を行ったりする必要があるため、一般住宅よりも建築コストは高い傾向にあります。 住宅の維持保全に手間がかかる 長期優良住宅は、工事完了後に計画的な点検の実施、適切な補修・改良、記録の保存などが必要です。10年に一度の定期点検などを怠った場合、認定を取り消される場合もあります。 長期優良住宅の認定手続きの流れ 長期優良住宅の認定手続きの流れは以下のとおりです。 認定基準を満たすように設計を行う 登録住宅性能評価機関に審査を依頼する 必要書類を準備して所管行政庁に認定申請をする 認定通知書が届く(着工開始) 認定申請は着工前までに行う必要があります。申請手続きは施行事業者が代理で行うことも可能です。工事完了後は維持保全計画書に基づいて定期的に点検を実施し、必要に応じて調査・修繕・改良を行います。 まとめ 長期優良住宅は長期にわたって快適に住み続けることができ、取得する際は補助金や税制優遇制度、住宅ローンの金利引き下げなどを受けられます。一方で、建築コストが比較的高く、維持保全に手間がかかるというデメリットもあります。メリット・デメリットを比較したうえで、長期優良住宅の取得を検討しましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 低炭素住宅とは?認定基準、メリット・デメリットを解説 環境問題への意識の高まりから、マイホームの建築・購入の際に「低炭素住宅」を選ぶ人が増えています。環境にやさしい住宅であり、税制優遇を受けることもできますが、認定を受ける際の注意点もあります。...記事を読む

    2022.07.06制度
  • マンション管理適正評価制度とは?仕組みや評価項目、メリット・デメリットを解説

    マンション管理適正評価制度とは?メリット・デメリットを解説

    2022年4月から「マンション管理適正評価制度」が開始されました。本制度は適切に維持管理されているマンションが、市場で評価されるための新たな仕組みです。同じ時期に国の「マンション管理計画認定制度」も開始されましたが、どのような違いがあるのでしょうか。 この記事では、マンション管理適正評価制度の仕組みやメリット・デメリット、マンション管理計画認定制度との違いについて解説します。 マンション管理適正評価制度とは マンション管理適正評価制度とは、2022年4月に開始された、マンションの管理状態や管理組合運営の状態を評価する仕組みです。 日本国内で築年数の古いマンションが増加傾向にあり、維持管理に課題を抱えています。このようなマンションの老朽化抑制や、維持管理の適正化を図るため、一般社団法人マンション管理業協会が不動産関連団体と協力して、全国共通の評価基準を創設しました。マンション管理適正評価制度ではマンションの状態が6段階で評価され、評価結果は毎年更新されます。 なお、国土交通省の資料によると、令和2年末で築40年超のマンションは103.3万戸です。10年後には約2.2倍の231.9万戸、20年後には約3.9倍の404.6万戸に増加すると見込まれています。 出典) ・国土交通省「築後30、40、50年超の分譲マンション戸数」 ・一般社団法人マンション管理業協会 マンション管理適正評価制度の評価項目 マンション管理適正評価制度では、マンションの管理状態を5つのカテゴリーに分類し、30項目について評価します。カテゴリーと各評価項目は下表のとおりです。 カテゴリー評価項目 管理体制(20ポイント)管理者の設置総会の開催、議事録の作成

    2022.06.29制度
  • 都市計画法とは?概要や定められている内容を解説

    都市計画法とは?概要や定められている内容を解説

    都市計画法は、街づくりのルールを定めた法律です。都市の開発や利用に関するルールを設けることで、快適な都市生活を送れることは理解できるかもしれません。しかし、法律でどのような事項が定められているかはよくわからないのではないでしょうか。 そこでこの記事では、都市計画法の概要や定められている内容についてわかりやすく解説します。 都市計画法とは 都市計画法とは、都市計画に必要な事項について定めている法律です。都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため、土地利用や都市施設の整備、市街地の開発などに関するルールが設けられています。 都市計画法第一条では、本法律の目的を以下のように定めています。 この法律は、都市計画の内容及びその決定手続、都市計画制限、都市計画事業その他都市計画に関し必要な事項を定めることにより、都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もつて国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。 出典)都市計画法 第一条(e-Gov法令検索) 都市計画法の構成と概要 都市計画法の構成は以下のとおりです。併せて概要も紹介します。 総則(第一章) 都市計画法の目的、基本理念、国・地方公共団体や住民の責務、用語の定義が主な内容です。都市機能を確保するために、適正な制限のもとに合理的な土地利用を進めることを基本理念としています。 国・地方公共団体には都市計画の適切な遂行に努めること、住民には目的達成に協力することを求めています。 都市計画(第二章) 都市計画の内容や決定・変更に関する内容です。都市計画に定められる区域区分の詳細や都市施設などが説明されています。都市計画は都道府県や市町村が定めるとしており、計画の決定や変更に必要な手続きについても決められています。 都市計画制限等(第三章) 開発行為や特定地域内における建築などの規制に関する内容です。無秩序に開発や建築が行われることがないように、土地利用の制限について詳細に定められています。また、開発行為や建築の許可を受けなくてはならない基準なども説明されています。 都市計画事業(第四章) 都市計画事業の認可や施行に関する内容です。誰が事業の認可を行うのか、認可や施行に必要な手続きなどについて定められています。 その他(第五章~第九章) 都道府県や市町村が施設設備予定者と締結する都市施設等設備協定、市町村長が指定できる都市計画団体の内容について定められています。また、都市計画に関する審議会や立入検査、罰則に関する説明もあります。 都市計画法で定められている主な内容 都市計画法で定められている主な内容を、大きく2つに分けて解説します。 ①土地利用に関する内容 都市計画法では、日本の国土を「都市計画区域」と「準都市計画区域」に分類しています。 都市計画区域は、都市として総合的に整備・開発が行われる地域のことです。原則として、都道府県が都市計画法に基づいて指定します。都道府県や市町村が策定した都市計画に基づき、都市施設の整備などが進められます。なお、2022年3月31日時点では、国土の約27%が都市計画区域に指定されており、全人口の約95%は都市計画区域内に居住しています。 さらに都市計画法では、無秩序な開発を防止し、計画的な市街化を図るため、都市計画区域を「市街化区域」と「市街化調整区域」に区分しています。どちらにも区分されていない地域を「非線引き区域」といいます。 市街化区域では、優先的かつ計画的に市街化が行われます。一方で、市街化調整区域は市街化を抑制すべき区域と位置付けられており、原則として開発行為は禁止されています。 図:都市計画法による土地区分 ※編集者作成 地域地区(用途地域) 都市計画区域内の土地を利用目的によって区分し、建築物などのルールを決めて地域地区を指定しています。地域地区にはさまざまな種類がありますが、代表的なものが「用途地域」です。 市街化区域では、必ず用途地域を定めることになっています。大きく「住居地」「商業地」「工業地」の3つに区分したうえで、13種類の用途地域を定めています。各用途地域では建築物の用途や容積率、建ぺい率、高さなどが規制されており、これに反する建物は建築できません。 関連記事はこちら「用途」からみた土地の種類 ②都市施設・市街地開発事業に関する内容 都市施設とは、都市生活者の利便性向上や良好な都市環境の確保のために必要な施設です。具体的には、「道路」「公園」「ごみ焼却場」「下水道」などが該当します。都市計画で都市施設の整備が決定され、その区域内に建築規制が及びます。 市街地開発事業とは、市街地を面的・計画的に開発する事業のことです。土地収用や換地といった手法により、宅地や公共施設の整備などが行われます。代表的な事業の種類に「土地区画整理事業」「市街地再開発事業」などがあります。 都市施設の整備や市街地開発事業は都市計画によって決定され、その区域内に建築規制が及ぶことになります。 都市計画とマスタープラン マスタープランとは、「長期的視点にたった都市の将来像を明確にし、その実現にむけての大きな道筋を明らかにするもの」とされています。都市計画法に基づき、都道府県が都市計画区域マスタープランを策定します。主な記載事項は以下のとおりです。 都市計画の目標 区域区分の決定の有無(区分を定めるときはその方針) 主要な都市計画の決定方針 なお、都市計画区域内の都市計画は、マスタープランに即したものである必要があります。 上記のほかに、市町村が策定するマスタープランもあります。市町村マスタープランは、市町村が属する都市計画区域マスタープランと市町村議会の議決を経た基本構想に即したものとなっています。 出典)国土交通省「都市計画制度の概要(都市計画法制P6)」 地区計画とは 地区計画とは、それぞれの地区の特性に応じて、良好な都市環境を形成するために定められる地区レベルの都市計画です。住民の意見を反映し、その地区独自の街づくりのルールを細かく定めます。地区計画で定められるルールは以下のとおりです。 地区施設の配置(生活道路、公園など) 建築物の規制(用途、容積率、建ぺい率など) 緑地の保全 地区計画は市町村が条例に基づき、土地所有者などに意見を求めて作成します。 まとめ 都市計画法のおかげで無秩序な開発行為が行われることなく、都市の計画的な整備を進めることができます。不動産に関する基礎知識として、都市計画法の概要を理解しておきましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 市街化区域とは?市街化調整区域との違いを解説 住宅や土地の購入を検討している中で、「市街化区域」「市街化調整区域」という言葉を聞くことはないでしょうか。 どちらも都市計画法で定められた地域で、土地の使いみちや建築できる建物に制限がありま...記事を読む

    2022.06.22制度
  • 土地区画整理事業とは?概要や仕組み、事業の流れをわかりやすく解説

    土地区画整理事業とは?仕組みや事業の流れをわかりやすく解説

    土地区画整理事業は、住みやすい街づくりのために宅地や公共施設を整備する手法の一つです。言葉は聞いたことがあっても、実際にどんなことが行われるかはよくわからないのではないでしょうか。 この記事では、土地区画整理事業の概要や仕組み、事業の流れについて解説します。 土地区画整理事業とは? 土地区画整理事業とは、都市計画区域内で行われる市街地整備の代表的な手法の一つです。道路や公園などの公共施設と宅地の総合的な整備が可能となります。土地区画整理法では、土地区画整理事業を以下のように定義しています。 「土地区画整理事業」とは、都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、この法律で定めるところに従って行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業をいう。 出典)土地区画整理法 第二条(e-Gov法令検索) 古い市街地は道路が狭く、複雑に入り組んで、境界線が曖昧になっているところがあります。下図のように、土地区画整理事業によって整備することで、快適で住みやすい街に生まれ変わります。 出典)小樽市「土地区画整理事業」 なお、土地区画整理事業はさまざまな場面で活用されており、施行面積は2020年3月末現在で約37万haとなっています。これは、東京23区面積の約6倍にもわたる面積です。 出典)公益社団法人 街づくり区画整理協会「土地区画整理事業とは」 土地区画整理事業の仕組み 土地区画整理事業では、道路や公園などが整備されていない区域の地権者から少しずつ土地を提供してもらい、公共用地に充てます。提供してもらった土地を売却し、移転や整備といった事業資金の一部に充当します。 地権者の宅地は、新たな区画に合わせて再配置されます。減歩で面積は減少しますが、地形や形状の改善によって従前の土地に見合う評価を得られます。なお、不均衡が生じる場合は金銭(清算金)で調整されます。 出典)成田市「区画整理のしくみ」 主な区画整理の用語 区画整理の仕組みを理解するために、主な用語の意味を確認しておきましょう。 保留地(ほりゅうち) 土地区画整理事業で整備された宅地のうち、施行者が換地と定めない宅地のことです。施行者は保留地を売却して事業資金の一部に充当します。 減歩(げんぶ) 土地区画整理事業のために地権者が土地の一部を提供することです。減歩には「公共減歩」と「保留地減歩」の2つがあります。公共減歩は公共施設の整備、保留地減歩は事業資金に充てるための減歩です。 換地(かんち) 土地区画整理事業で公共施設などが整備された後に、従前の土地に対して新しく置き換えられた土地のことです。 仮換地(かりかんち) 仮換地指定によって、区画整理前の土地から使用収益権が移行した土地のことです。建物の建築が可能で、通常はそのまま換地となります。 事業の施行者 土地区画整理事業では、以下6者が施行者になれます。 施行者定めるもの同意認可 個人施行規約全員同意知事の認可 組合施行定款2/3以上の同意知事の認可 会社施行基準議決権の過半数2/3以上の同意知事の認可 地方公共団体施行施工規程土地区画整理審議評議会評価員知事または国土交通大臣の認可 国土交通大臣施行 都市再生機構等施行 出典)公益社団法人 街づくり区画整理協会「土地区画整理事業とは」 国や地方公共団体だけでなく、宅地所有者または借地権者である個人、その個人が共同で設立した組合が施行者となることも可能です。ただし、規約や定款を定めたうえで、施行地区内の土地所有者の同意や知事の認可を得る必要があります。 事業の費用負担 土地区画整理事業に必要な費用は、保留地の売却によって賄われます。また、国からの補助金や地方公共団体の助成金、公共施設管理者負担金も活用されます。 公共施設管理者負担金とは、公共減歩された土地の用地費相当額について地方公共団体などの施設管理者に負担を求めるものです。 土地区画整理事業で期待できる効果 土地区画整理事業では以下のような効果が期待できます。 地域のコミュニティがそのまま生かされる 安全で快適な道路に生まれ変わる 公園が確保される(子どもの遊び場、憩いの場) 宅地が利用しやすくなる(形が整う、境界が明確になる) 上下水道、ガスなどのインフラ施設を一体的に整備できる 整備前の権利を保全しながら事業を行うので、地域のコミュニティを維持しながら、宅地や道路をより使いやすい形に整備できます。公園などの公共施設が確保され、インフラ施設も一体的に整備されるため、治安の向上や災害の防止・被害軽減などにつながります。 土地区画整理事業の流れ 土地区画整理事業の流れは以下のとおりです。 企画・調査 都市計画決定 事業計画 換地設計 仮換地指定 移転補償・工事 換地処分・登記 清算 施行者は住民参加の機会なども作りながら企画・調査を進め、土地区画整理事業を都市計画として定めます。設計内容や施行期間、資金計画などをまとめて、都道府県知事などに事業認可を申請します。 認可を得たら換地設計を行い、工程にあわせて仮換地の指定をして地権者に通知します。地権者と補償契約を締結し、地権者は期日までに建物の移転を行います。 換地処分によって従前地の権利が換地へ移行し、清算金の額などが確定すると、施行者が一括して全宅地の登記を行います。換地について不均衡が生じる場合は、清算金の徴収・交付によって調整します。 関連記事はこちら都市計画法とは?概要や定められている内容を解説 まとめ 土地区画整理事業で道路や公共施設、宅地が整備されることで、より快適で安全な街に生まれ変わります。お住まいの地域で土地区画整理事業の実績や実施状況、予定を知りたい場合は地方公共団体のホームページなどで確認してみましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 市街化区域とは?市街化調整区域との違いを解説 住宅や土地の購入を検討している中で、「市街化区域」「市街化調整区域」という言葉を聞くことはないでしょうか。 どちらも都市計画法で定められた地域で、土地の使いみちや建築できる建物に制限がありま...記事を読む

    2022.06.15制度