「制度」の記事一覧

  • 生産緑地とは?制度概要やメリット・デメリット、2022年問題について解説

    生産緑地とは?制度のメリット・デメリットと2022年問題を解説

    生産緑地は、良好な生活環境を確保するために自治体が指定する農地です。生産緑地には「2022年問題」があり、今後の不動産価格に影響を与える可能性があります。住宅や賃貸不動産などの売買を検討している場合は、生産緑地について理解しておくことが大切です。 この記事では、生産緑地の制度概要やメリット・デメリット、2022年問題について詳しく解説します。 生産緑地とは 生産緑地とは、1992年の改正生産緑地法によって制定された農地のことです。無秩序な開発によって緑地が減少すると、住環境の悪化や土地機能の低下、災害発生などの恐れがあります。 そのため、良好な生活環境の確保に効用がある農地を「生産緑地地区」として都市計画に定め、都市部にある農地の計画的な保全を図っています。生産緑地には固定資産税などの税制優遇がある一方で、土地利用にさまざまな規制が設けられています。 国土交通省の調査によれば、2020年3月31日現在、全国の生産緑地は12,332.3haです。その半分以上を関東が占めており、首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)や愛知、大阪といった都市部に集中しています。 出典)国土交通省「令和2年都市計画現況調査(生産緑地地区)」 生産緑地の指定要件 市街化区域内にある農地で、以下3つの要件に当てはまるものを生産緑地に指定できます。 良好な生活環境の確保に相当の効果があり、公共施設等の敷地に供する用地として適しているもの 500㎡以上の面積 農林業の継続が可能な条件を備えているもの 自治体が都市計画を決定し、生産緑地地区を定めます。 出典)国土交通省 都市局 公園緑地・景観課 生産緑地のメリット 生産緑地のメリットは以下のとおりです。 固定資産税が軽減される 生産緑地に指定されると、固定資産税が軽減されます。固定資産税における農地区分は以下4つで、評価方法や課税方法が異なります。 農地区分評価方法課税方法 一般農地農地評価農地課税 市街化区域農地生産緑地地区農地農地評価農地課税 一般市街化区域農地宅地並評価農地に準じた課税 特定市街化区域農地宅地並評価宅地並課税 生産緑地は、固定資産税の評価や課税の取り扱いは一般農地と同様です。農林水産省の資料によれば、10aあたりの税額は一般市街化区域農地が数万円、特定市街化区域農地が数十万円であるのに対し、生産緑地は数千円に抑えられています。 出典)農林水産省「農地の保有に対する税金(固定資産税)」 相続税の納税が猶予される 農業を営んでいた者から生産緑地を相続し、その生産緑地で農業を続ける場合は相続税の納税が猶予されます。亡くなるまで一生農業を続けた場合は、猶予されていた相続税は免除となります。 ただし、あくまでも猶予である点に注意が必要です。「途中で農業をやめる」など納税猶予の要件を満たさなくなると、猶予されていた相続税に加えて、猶予期間に応じた利子税を納めなくてはなりません。 生産緑地のデメリット 生産緑地には以下のようなデメリットもあります。 30年間の営農義務が生じる 生産緑地に指定されると、30年間の営農義務が生じます。長期にわたって継続的に、農地として維持管理を行わなくてはなりません。また、生産緑地であることがわかるように掲示する必要もあります。 指定から30年経過後または主たる従事者の死亡・身体故障が生じた場合は、自治体に対して買取り申出が可能です。 行為の制限がある 生産緑地には行為の制限があり、建物の増改築や宅地の造成、土石の採取などを自由に行うことはできません。「公共施設の設置・管理に係る行為」「非常災害のために必要な行為」といった例外はありますが、基本的には自治体の許可が必要になります。 無断で開発行為をすると生産緑地の指定が取り消され、税制優遇を受けられなくなる恐れがあります。 出典)国土交通省 都市局 公園緑地・景観課 生産緑地の2022年問題とは 生産緑地の2022年問題とは、大量の生産緑地が2022年に指定解除されることで地価暴落の可能性があることです。 現在の生産緑地は1992年に一斉に指定されており、2022年に約8割の生産緑地が指定から30年を経過します。指定解除された生産緑地が宅地化されて大量に供給されることにより、地価暴落の発生が懸念されています。 ただし、この2022年問題に対応するため、2017年に生産緑地法は改正されています。主な改正内容は以下のとおりです。 面積要件を条例で300㎡まで引き下げ可能 行為の制限を緩和 特定生産緑地制度の導入 面積要件引き下げにより、これまで要件を満たさなかった小規模農地も生産緑地に指定可能となりました。また、一定の要件を満たす販売施設や農家レストランの設置も認められます。この法改正により、農地所有者の営農意欲や収益性の向上が期待できます。 所有者の意向をもとに、自治体が「特定生産緑地」として指定できる制度も導入されました。特定生産緑地に指定されると、買取り申出ができる期間が10年延期されます。10年経過後は、あらためて所有者の同意を得たうえで繰り返し10年の延長が可能です。 上記の対応により、2022年問題の影響緩和が期待できます。2022年4月時点で地価暴落は発生していませんが、今後の不動産価格の動向を注視する必要はあるでしょう。 出典)国土交通省 生産緑地制度 まとめ 生産緑地は税制優遇措置を受けられる一方で、30年間の営農義務や行為の制限が課されています。法改正により2022年問題の影響緩和が期待できますが、不動産価格への影響は不透明な部分もあります。不動産を売買する予定がある場合は、不動産価格の動向を確認しておきましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 都市計画法とは?概要や定められている内容を解説 都市計画法は、街づくりのルールを定めた法律です。都市の開発や利用に関するルールを設けることで、快適な都市生活を送れることは理解できるかもしれません。しかし、法律でどのような事項が定められてい...記事を読む

    2022.06.01制度
  • 住宅の瑕疵保険とは?必要性や種類、メリット・デメリットを解説

    住宅の瑕疵保険とは?必要性や種類、メリット・デメリットを解説

    自宅を購入するとき、住宅に欠陥や不具合がないか気になるのではないでしょうか。安心して住宅を購入できるように、「瑕疵(かし)保険」という仕組みがあります。瑕疵とは、本来あるべき性能や品質を持っていないことです。住宅の場合、建築基準法に定められた基準を満たしておらず、重大な欠陥がある状態などを指します。 この記事では、瑕疵保険の必要性や種類、メリット・デメリットについて解説します。 瑕疵保険とは 瑕疵保険とは、住宅の検査と保証がセットになった保険制度です。国土交通大臣が指定した住宅専門の保険会社である住宅瑕疵担保責任保険法人が保険を引き受けることで、制度が成り立っています。住宅瑕疵担保責任保険法人は以下のとおりです。 ■住宅瑕疵担保責任保険法人一覧 株式会社住宅あんしん保証 住宅保証機構株式会社 株式会社日本住宅保証検査機構 株式会社ハウスジーメン ハウスプラス住宅保証株式会社 (一財)住宅保証支援機構 ※2023年11月現在 出典)国土交通省 住宅瑕疵担保責任保険法人 瑕疵保険は、住宅の購入者ではなく事業者が加入する仕組みで、購入した住宅に欠陥が見つかった場合は、補修等を行った事業者に保険金が支払われます。 新築住宅、中古住宅ともに瑕疵保険の加入対象となっています。新築住宅は、建設工事完了日から1年以内に引き渡しまたは売買契約の締結が行われた住宅で、中古住宅は、新耐震基準を満たすことが要件です。また、新築住宅、中古住宅ともに、建築士による検査に合格する必要があります。 瑕疵保険の必要性 住宅の瑕疵保険はなぜ必要なのでしょうか。ここでは、新築住宅と中古住宅それぞれについて瑕疵保険の必要性を解説します。 新築住宅の場合 新築住宅の売主は、住宅の主要構造部分の瑕疵について10年間の瑕疵担保責任を負う義務があります。しかし、売主の倒産などによって瑕疵担保責任を十分に果たせない場合、住宅購入者に大きな費用負担が生じます。 そのため、住宅購入者の利益保護を目的に、2007年に住宅瑕疵担保履行法が成立・公布されました。法律の公布によって、瑕疵担保責任の履行が確保されるように、新築住宅等の売主等に対して「保証金の供託」または「保険加入」が義務付けられました。 中古住宅の場合 中古住宅の瑕疵保険は、新築とは異なり「任意加入」です。中古は築年数や使用状況によって品質に差が生じるため、物件購入後に欠陥や不具合が見つかるかもしれません。 中古住宅の売買契約は、売主が「宅建業者」と「一般の人」の2種類です。売主が宅建業者の場合は、宅建業法上の瑕疵担保責任の義務に対応するため、2年間の保証が付くのが一般的です。一方で、不動産仲介による売買を含む、一般の人が売主となる場合、保証なしで売買されることも多いです。そのため、中古住宅市場では、特に売主が一般の人の場合の売買において、瑕疵保険の必要性が高いといえるでしょう。 瑕疵保険の種類 瑕疵保険は「新築住宅」と「既存住宅」の大きく2種類に分かれます。ここでは、それぞれの概要を確認してきましょう。 新築住宅 新築住宅の瑕疵保険を「住宅瑕疵担保責任保険」といい、住宅瑕疵担保責任保険は、「住宅瑕疵担保責任保険(1号保険)」と「住宅瑕疵担保責任任意保険(2号保険)」の2種類に分かれます。1号保険は、住宅瑕疵担保履行法に定める建設業者・宅建業者の資力確保義務に対応する保険で、2号保険は、売主に資力確保義務がない場合に加入する保険です。 いずれも加入にあたり、事業者は建築士の検査を受けて合格する必要があります。新築住宅に瑕疵があった場合、補修等を行った事業者に対して保険金が支払われるため、購入者は無償で直してもらえます。請負契約や売買契約の際に業者から説明が行われるので、内容を確認しておきましょう。 既存住宅 既存住宅の瑕疵保険は以下の4種類に分かれます。 既存住宅売買瑕疵保険 リフォーム瑕疵保険 大規模修繕工事瑕疵保険 延長保証保険 既存住宅売買瑕疵保険は中古住宅の売買における瑕疵保険で、売主が「宅建業者の場合」と「宅建業者以外の場合」に分かれ、宅建業者以外の場合では、さらに「検査事業者保証」と「仲介事業者保証」に分かれます。 宅建業者が売主の場合は、宅建業者が保険に加入し、一般の方が売主の場合は、仲介業者や検査事業者が保険に加入する仕組みです。新築と同じく、保険に加入するには専門の建築士による検査を受けて合格しなくてはなりません。 リフォーム瑕疵保険は、リフォーム時の検査と保証がセットになった保険です。リフォームの工事中や工事完了後に、第三者である建築士の現場検査が行われます。工事後に欠陥が見つかった場合、補修等を行った事業者に対して保険金が支払われる仕組みです。 大規模修繕工事瑕疵保険はマンションの大規模修繕における瑕疵保険であるため、一般の方が利用する機会はないでしょう。また、延長保証保険は、新築住宅の引き渡し後10年間の瑕疵担保責任期間が経過後に検査・補修した場合の保険です。延長保険契約時の現況検査やメンテナンス工事の実施が加入要件となります。 出典)国土交通省「住宅瑕疵担保制度ポータルサイト」 瑕疵保険のメリット・デメリット 住宅の買主側からすると、住宅購入後に欠陥が見つかった場合に、無償で直してもらえるのがメリットです。また、売主側からすると、瑕疵保険の加入にあたり、専門の建築士による検査を受けるため、購入希望者に物件の安全性をアピールできるでしょう。 買主側からすると、特にデメリットはありませんが、売主側からすると、保険料負担が生じることがデメリットです。さらに、検査を受けて欠陥が見つかった場合、瑕疵保険の加入基準を満たすために追加工事が必要になる場合もあります。また、中古住宅の保険期間は1~5年であるため、保険内容によっては短期間しか保証されない場合があります。 瑕疵保険の利用方法 売主が宅建業者の場合は、事業者が加入するため購入者は手続き不要です。売買契約時などに瑕疵保険の説明や書類への記入があるので、詳細はその場で確認するようにしましょう。また、引き渡しの際に保険の証明書を受け取る必要があるので、忘れないようにしましょう。 住宅に瑕疵が見つかった場合は、売主(事業者)に補修依頼をします。売主が倒産している場合は、保険法人に補修費用(保険金)の直接請求が可能です。保険の証明書を確認して連絡をとりましょう。 売主が一般の人の場合は、検査事業者に補修依頼をします。売主が事業者の場合と同じく、検査事業者が倒産している場合は保険法人に補修費用を直接請求できます。 売主との間でトラブルが発生した場合は、「住宅紛争処理支援センター」に相談できます。申請手数料1万円を支払えば、「住宅紛争審査会」に申請して、「あっせん」「調停」「仲裁」を受けることも可能です。 まとめ 自宅を購入する場合、瑕疵保険に加入している住宅なら欠陥が見つかっても無償で直してもらえます。特に売主が個人である中古住宅を取得する場合は、瑕疵保険の有無を確認してから購入しましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ リフォーム瑕疵保険とは?加入方法や適用条件を解説 住宅のリフォームを検討する際は、工事の依頼先を慎重に選ぶことが重要です。しかし、何らかのトラブルが生じたときに備えて、補償を受けられる保険に加入しておきたいと考えることもあるでしょう。 もし...記事を読む

  • 住宅購入時の優遇制度を解説、2022年以降の変更点も紹介

    住宅購入時の優遇制度を解説

    住宅を購入するときは、「住宅ローン控除」をはじめとしたさまざまな優遇制度が用意されています。一方で、どのような優遇制度があるのか詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。 この記事では、住宅購入で得られるさまざまな優遇制度について詳しく解説します。 住宅ローン控除 住宅ローンを借りて住宅を購入する場合は、住宅ローン控除が利用できる可能性があります。住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)とは、住宅取得者の住宅ローン金利負担の軽減を図るための制度です。住宅ローン年末残高の0.7%が10年間所得税から控除され、控除額と納税額に応じて所得税が還付されます。所得税から控除しきれない場合は、住民税から控除することも可能です。 関連記事はこちら【令和5年版】住宅ローン控除とは?取得した住宅の状況に分けて解説 印紙税の軽減措置 住宅を購入する際は、売買契約書に収入印紙を貼付して印紙税を納めなくてはなりません。不動産売買契約書の印紙税は、軽減措置によって税率が引き下げられています。2024年3月31日までに作成される契約書については、以下の軽減税率が適用されます。 表 印紙税の軽減措置(単位:円) 契約金額 本則税率 軽減税率 100万円超 500万円以下 2,000 1,000 500万円超 1,000万円以下 10,000 5,000 1,000万円超 5,000万円以下 20,000 10,000 5,000万円超 1億円以下 60,000 30,000 1億円超 5億円以下 100,000 60,000 5億円超 10億円以下 200,000 160,000 印紙税は、物件価格(契約金額)が高くなるほど税負担も増える仕組みです。軽減措置の適用期間中に売買契約を締結すれば、印紙税の節税になります。 出典)国税庁「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」 登録免許税の軽減措置 登録免許税とは、購入した住宅(土地、建物)の登記を行うときに納める税金です。課税標準額(固定資産税評価額)に税率を掛けて税額を計算します。 購入した住宅の所有権を設定するため、新築住宅は所有権保存登記、中古住宅の場合は所有権移転登記を行わなくてはなりません。住宅ローンを利用する場合は、抵当権設定登記も必要です。 住宅購入に関する登録免許税の軽減措置は以下のとおりです。 表 登録免許税の軽減措置(単位:%) 登記の書類 本則税率 軽減税率 土地の所有権移転登記 2.0 1.5 住宅用家屋の所有権保存登記 0.4 0.15 住宅用家屋の所有権移転登記 2.0 0.3 抵当権設定登記 0.4 0.1 土地は2023年3月31日、住宅用家屋と抵当権は2022年3月31日まで軽減税率が適用される予定でしたが、令和5年度の税制改正により、その適用期限がが令和8年3月31日まで3年延長されました 出典)国税庁「登録免許税の税率の軽減措置に関するお知らせ」 不動産取得税の軽減制度 不動産取得税とは、住宅などの不動産を取得したときに課される税金です。税額は、課税標準額(固定資産税評価額)に税率を掛けて計算し、税率は土地・家屋ともに3.0%です。 住宅購入では、土地・家屋にかかる不動産取得税の軽減制度があります。2024年までに取得した土地については、課税標準額が1/2となり、「土地を取得後3年以内に住宅が新築されている」などの要件を満たすと、さらに税額が軽減されます。家屋については、以下の床面積要件を満たす新築住宅を購入した場合、課税標準額から1,200万円が控除されます。 表 新築住宅の床面積要件 住宅の種類 床面積要件 一戸建て 50㎡以上 240㎡以下 一戸建て以外(マンションなど) 40㎡以上 240㎡以下 中古住宅についても同様の軽減措置がありますが、現行の耐震基準に適合していることが要件です。住宅が新築された日に応じて、100万円から1,200万円の間で課税標準額から控除されます。 固定資産税の軽減制度 住宅を所有すると、毎年固定資産税が課税されます。固定資産税の税額は、土地・家屋ともに課税標準額(固定資産税評価額)の1.4%です。ただし、住宅用地には課税標準の特例措置があり、小規模住宅用地(住宅1戸につき200㎡までの部分)は課税標準額の1/6、一般住宅は課税標準額の1/3で税額を計算します。 家屋については、新築住宅で「50㎡以上 280㎡以下」という床面積要件を満たす場合、固定資産税額の2分の1が減額されます。減額期間は一戸建てが3年間、マンションが5年間で、2022年3月31日までに新築された住宅が対象となります。 なお、税制改正により、2024年3月31日までに延長されました。 出典)国土交通省「新築住宅に係る税額の減額措置」 住宅取得等のための資金にかかる贈与税非課税措置 父母や祖父母などの直系尊属から自ら居住する住宅の新築・購入、増改築のために金銭の贈与を受けた場合、以下の金額まで贈与税が非課税になります。 一般住宅:1,000万円 質の高い住宅:1,500万円 本措置を申請する受贈者(贈与を受ける人)は、下記の要件を満たす必要があります。 贈与年の1月1日で20歳以上 贈与年の合計所得金額が2,000万円以下 贈与年の翌年3月15日までにその家屋に居住する また、対象となる家屋は、床面積50㎡以上240㎡以下で中古住宅は耐震基準に適合するものである必要があります。なお、「質の高い住宅」とは下記のような要件を満たす住宅です。 断熱等性能等級4又は一次エネルギー消費量等級4以上の住宅 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上又は免震建築物の住宅 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上の住宅 本措置を受けるには、確定申告時に税務署に申請する必要があります。申請の際は「受贈者の戸籍謄本」「贈与年の所得金額を証明する書類」「売買契約書」「登記事項証明書」などが必要です。手続きの詳細は税務署に確認しましょう。 出典)国土交通省「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置」 まとめ 個人の住宅取得を後押しするため、国はさまざまな優遇制度を用意しています。この記事で紹介した優遇制度を利用すれば、住宅購入費用の負担軽減が期待できます。なお、それぞれの制度には終了期限が設けられているので、常に最新の情報をチェックするようにしてください。住宅購入を検討しているなら、優遇制度を最大限に活用しましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 【令和5年版】住宅ローン控除とは?取得した住宅の状況に分けて解説 住宅ローン控除(住宅ローン減税ともいいます)とは、住宅ローンを利用して住宅の新築、取得又は増改築等をした場合に利用できる、所得税額等を控除する制度です。住宅ローン控除を利用する場合、自身の状...記事を読む

  • 建物状況調査とは?診断項目やメリット・デメリット、利用方法を解説

    建物状況調査とは?メリット・デメリットと手続きの流れを解説

    中古住宅は新築より割安な価格で購入できるのが魅力です。しかし、元の所有者の維持管理や築年数などによって、品質に差が生じるため、購入する際には、性能や品質に問題がないか不安を感じるのではないでしょうか。そのような時、建物状況調査を利用すれば、購入前に建物の状況や不具合を確認することができます。 この記事では、建物状況調査の概要や診断項目、メリット・デメリットについて詳しく解説します。 建物状況調査とは 建物状況調査とは、宅建業法で定められた基準をもとに実施する検査のことです。一定以上の知識や技術力を有する「既存住宅状況調査技術者」が実施します。既存住宅状況調査技術者とは、国の定める講習を修了した建築士のことです。 建物状況調査が生まれた背景 建物状況調査は2018年の宅建業法改正に伴い、従来の「ホームインスペクション」とは一線を画す形で生まれました。宅建業法改正により、中古住宅の売買に関する手続きについて、以下3つが宅建業者に義務付けられています。 媒介契約締結時に建物状況調査のあっせんに関する書面を依頼者に交付する 買主に対して建物状況調査の結果を重要事項として説明する 売買契約成立時に売主と買主の双方が確認した事項を書面で交付する 宅建業者に義務付けられているのは、あくまでも「説明」や「あっせん」です。「実施」が義務付けられているわけではないので、注意しましょう。 建物状況調査の診断項目 建物状況調査の診断項目は、「構造耐力上主要な部分」と「雨水の侵入を防止する部分」の2つに分かれます。たとえば、木造2階建ての戸建て住宅の場合は以下のとおりです。 <構造耐力上主要な部分> 基礎 壁 柱 小屋組 土台 斜材 床版 屋根版 横架材 <雨水の侵入を防止する部分> 屋根 外壁 開口部 国土交通省の定める基準に従い、検査機器を使用して目視や非破壊検査を行います。物件の状態や規模によりますが、所要時間は3時間程度が一般的です。 建物状況調査とホームインスペクションの違い 建物状況調査に関連して、ホームインスペクションという言葉があります。ホームインスペクションとは、住宅に関する検査全般を意味する言葉で、業者によって検査員の資格の有無や検査内容が異なります。 一方で、建物状況調査は、既存住宅状況調査技術者の資格を有している検査員が、宅建業法で定められた基準に基づく検査内容を行います。つまり、広義の住宅検査全般をホームインスペクションと言い、有資格者による一定の基準に基づいて行われる検査を建物状況調査と言います。 建物状況調査のメリット 中古住宅の売買に建物状況調査を活用することには、売主と買主の双方にメリットがあります。 買主のメリット 買主には、以下のようなメリットがあります。 安心して購入できる 購入後のメンテナンスの予定が立てやすい 専門家からアドバイスを受けられる 専門家の調査によって、建物の状況や不具合の有無を確認できるので、安心して物件を購入できます。あらかじめ修繕の必要性を把握することで、購入後のリフォームや修繕といったメンテナンスや、費用の見積もりが立てやすくなるでしょう。調査結果に応じて、専門家からアドバイスを受けることも可能です。 売主のメリット 売主には、以下のようなメリットがあります。 引渡し後のトラブル回避が期待できる 競合物件との差別化につながる 建物状況調査の結果を買主に伝えてから売却できるので、引渡し後のトラブルを回避しやすくなります。建物状況調査を実施したことをアピールすれば、(調査を受けていない)競合物件との差別化にもつながるでしょう。 建物状況調査のデメリット 一方で、建物状況調査には以下のようなデメリットもあります。 買主のデメリット 調査費用を買主が負担する場合、コストがかかるのがデメリットです。また、建物状況調査は、あくまで目視や非破壊検査で行われるため、壁の中などの見えないところまで細かく調査することはできません。建物状況調査の結果に問題がなかったとしても、全く不具合がないと保証できるわけではない点に注意が必要です。 売主のデメリット 調査費用を売主が負担する場合は、物件売却で得られる収益が減少します。また、建物状況調査を実施すると、物件に不具合が見つかるかもしれません。調査結果によっては、補修費用の負担や値下げの必要性が生じる場合があります。 建物状況調査の利用方法 建物状況調査を利用する場合は、「既存住宅状況調査技術者検索サイト」で調査実施者を探します。不動産業者が提携している調査実施者がいる場合は、あっせんを希望する旨を伝えて対応してもらう方法もあります。 調査実施者を選定したら、見積もりをとって診断内容や料金を確認しましょう。見積もりの内容に問題がなければ、診断日時を決定します。検査当日までに、以下のような書類が必要です。 間取り図 販売図面 確認済証 検査済証 住宅性能評価証 新耐震基準適合証明書 また、マンションの場合は、上記に加えて管理規約や長期修繕計画の写しなども必要です。調査を依頼する業者に確認して準備を進めましょう。 検査当日は基本的に依頼者も立ち合い、その場で説明を受けます。後日報告書が送られてくるので、不明点があれば問い合わせて確認しましょう。 出典)住宅リフォーム推進協議会「既存住宅状況調査技術者検索サイト」 まとめ 建物状況調査を活用すれば、取引前に建物の状況を把握できるので、中古住宅を安心して売買できます。広義のホームインスペクションとの違いを理解したうえで、依頼する調査実施者を探しましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 マンション管理計画認定制度とは?メリット・デメリットを解説 2022年4月から「マンション管理計画認定制度」がスタートします。マンション管理適正化の推進を目的に創設された制度で、マンションの管理や資産価値などに影響を与える可能性があります。 本制度の...記事を読む

    2022.05.04制度
  • 雇用保険マルチジョブホルダー制度とは?適用要件や失業給付、手続きの流れをわかりやすく解説

    雇用保険マルチジョブホルダー制度とは?内容をわかりやすく解説

    2022年1月1日から65歳以上の労働者を対象に「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が新設されました。雇用保険に加入できる条件が緩和されたため、非正規社員として短時間の勤務をする場合でも、失業に備えることが出来るようになりました。 この記事では、雇用保険マルチジョブホルダー制度の概要や適用要件、失業給付についてわかりやすく解説します。 雇用保険マルチジョブホルダー制度とは 雇用保険マルチジョブホルダー制度とは、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、2つの事業所において一定の要件を満たす場合に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)になれる制度です。 従来の制度では、65歳以上の労働者が雇用保険に加入するには「労働時間週20時間以上、かつ31日以上の雇用期間」などの条件を満たす必要がありました。 現在は少子高齢化が進み、「老後資金の確保」「労働力不足の解消」が課題となっています。雇用保険の加入条件緩和によって高齢者の労働機会が増加すれば、勤労収入を老後の生活費を充てられます。また、若年層だけでは足りない労働力を補う効果も期待できます。 出典)厚生労働省「マルチジョブホルダー制度とは」 雇用保険マルチジョブホルダー制度の適用要件 雇用保険マルチジョブホルダー制度を利用するには、以下の要件をすべて満たす必要があります。 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること 2つの事業所の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満) 2つの事業所それぞれの雇用見込みが31日以上であること 3つ以上の事業所で勤務している場合は、労働時間や賃金などを考慮して、マルチ高年齢被保険者として申出をする本人が2つの事業所を選択します。 加入後の取扱いは通常の雇用保険と同じで、原則として任意脱退はできません。上記の適用要件を満たさなくなった場合を除き、加入する事業所を任意に切り替えることもできないので注意しましょう。 雇用保険マルチジョブホルダー制度の資格取得手続きの流れ 通常の雇用保険は、事業主が資格取得・喪失の手続きを行います。一方、雇用保険マルチジョブホルダー制度では、適用を希望する本人が手続きをする必要があります。手続きの流れは以下のとおりです。 ハローワークまたは厚生労働省HPから「雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届(マルチ雇入届)」などを入手する 2つの事業所にマルチ雇入届の記入、確認資料(雇用契約書など)の交付を依頼する 本人の住居所を管轄するハローワークへ必要書類を提出する ハローワークから本人および2つの事業所に通知される ハローワークで申請内容を確認のうえ、問題がなければ申出日に被保険者の資格を取得します。必要書類の入手方法や手続きのやり方がわからない場合は、ハローワークに問い合わせて確認しましょう。 ハローワークに提出する書類一覧 手続きの際は、ハローワークへ以下の書類を提出します。 事業主から交付されたマルチ雇入届と確認資料(2社分) 個人番号登録・変更届 被保険者資格取得時アンケート 本人確認資料・個人番号の確認できる資料 また、事業所に依頼する主な確認資料は以下のとおりです。 賃金台帳 出勤簿(記載年月日の直近1ヵ月分) 労働者名簿 雇用契約書 労働条件通知書 雇入通知書 雇用主との関係(親族の会社に勤めているなど)によっては、別途確認資料が必要になる場合があります。 雇用保険マルチジョブホルダー制度のメリット 雇用保険マルチジョブホルダー制度は事業主と労働者の双方にメリットがあります。 事業主のメリット 事業主は、雇用保険資格の取得・喪失手続きが簡便化されるのがメリットです。雇用保険マルチジョブホルダー制度では労働者自身が手続きを行うため、事業主は必要事項の記載や証明などを行うだけで済みます。 労働者のメリット マルチ高年齢被保険者であった労働者が失業した場合、一定の要件を満たすと高年齢求職者給付金を一時金で受給できます。給付額(基本手当日額×支給日数)は以下のとおりです。 <基本手当日額> 離職以前6ヵ月の賃金合計÷180×(50~80%) <支給日数> 被保険者期間1年未満:基本手当日額の30日分 被保険者期間1年以上:基本手当日額の50日分 「離職日以前1年間に被保険者期間が通算6ヵ月以上あること」が受給要件です。2つの事業所のうち、1つのみを離職した場合でも受給できます。 ただし、3つ以上の事業所で勤務している場合、3つ目の事業所と併せてマルチ高年齢被保険者の要件を満たす場合は、被保険者期間が継続されるので受給できません。 また、2つの事業所のうち1つのみを離職した場合、基本手当日額の計算に離職していない事業所の賃金は含まれないので注意しましょう。 雇用保険マルチジョブホルダー制度の注意点 雇用保険マルチジョブホルダー制度では、資格取得の日から雇用保険料の納付義務が発生します。申出日より前にさかのぼって被保険者となることはできません。 事業主には、手続きの際に必要な証明を行う義務があります。申出を理由に労働者に対して不利益な取り扱い(解雇、雇止め、労働条件の不利益変更など)を行うことは認められません。もし事業主の協力を得られない場合はハローワークに相談しましょう。 まとめ 65歳以上で2つ以上の事業所で働いている場合、一定の条件を満たせば雇用保険に加入できます。また、短時間勤務で働いている場合であっても、雇用保険マルチジョブホルダー制度を利用できるように別の企業で働くことで、雇用保険に加入できます。より安心して働き続けるために、本制度の積極的活用をおすすめします。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 老齢年金の繰り上げと繰り下げ、どっちがお得? 老齢年金の受給開始年齢が近づいてくると、受給開始年齢の繰り上げや繰り下げを検討する人も多いのではないでしょうか。受給開始年齢を変更することで、受け取れる年金の見込み額は大きく変わります。 こ...記事を読む

    2022.04.20制度
  • マンション管理計画認定制度とは?認定基準やメリット・デメリットを解説

    マンション管理計画認定制度とは?メリット・デメリットを解説

    2022年4月から「マンション管理計画認定制度」がスタートします。マンション管理適正化の推進を目的に創設された制度で、マンションの管理や資産価値などに影響を与える可能性があります。 本制度の開始によって、具体的にどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。この記事ではマンション管理計画認定制度の概要や認定基準、手続きの流れについて詳しく解説します。 マンション管理計画認定制度とは? マンション管理計画認定制度とは、マンション管理計画が一定の基準を満たす場合に地方公共団体の認定を受けられる制度です。「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」の改正により、2022年4月から開始されます。 マンションは重要な居住形態ですが、国土交通省によると、2022年末時点で、築40年超のマンションは125.7万戸あります。10年後には260.8万戸(約2.1倍)、20年後には445.0万戸(約3.5倍)に増加する見込みです。築年数が古いマンションが増加傾向にあり、維持管理には多くの課題があります。 マンション管理計画認定制度の創設は、マンション管理の適正化を推進することが目的です。マンションの管理水準を底上げするため、必要に応じて地方公共団体が管理組合に指導や助言、勧告を実施します。 なお、認定を受けることができるのは、地方公共団体が「マンション管理適正化推進計画」を作成している地域にあるマンションです。 マンション管理計画の認定基準 マンション管理計画認定制度の創設を踏まえ、2021年9月には「マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な指針(管理適正化指針)」が策定されました。本指針では、管理計画認定制度の認定基準などが定められています。主な認定基準は以下のとおりです。 修繕その他管理の方法 修繕その他の管理にかかる資金計画 管理組合の運営状況 管理適正化指針・市区独自の管理適正化指針に照らして適正なものであること 「長期修繕計画の計画期間が一定期間あるか」「計画に基づいて修繕積立金が設定されているか」「定期的に総会を開催しているか」といった点が審査されます。また、管理適正化指針や市区独自の指針に照らして、管理計画が適正なものであるかも判断されます。 助言・指導・勧告の判断基準の目安 地方公共団体は、管理適正化指針や市区独自の指針に基づき、必要に応じて管理組合の管理者などに助言や指導、勧告を行います。助言・指導・勧告の判断基準の目安は以下のとおりです。 助言・指導・勧告の判断基準の目安 判断項目助言・指導・勧告の判断基準の目安 管理組合の運営管理者が定められていない総会が開催されていない 管理規約管理規約が存在しない 管理組合の経理管理費と修繕積立金額が区分されていない 長期修繕計画の作成および見直し修繕積立金が積み立てられていない その他組合員名簿、居住者名簿がない 上記のような状況の場合、マンション管理が不適切と判断される恐れがあります。 マンション管理計画認定制度のメリット マンション管理計画認定制度のメリットは以下のとおりです。 マンション管理水準の維持向上につながる 市場評価・地域価値の向上が期待できる 購入希望者がマンション管理状況を把握しやすくなる 金利優遇を受けられる(新築の場合) 管理者や区分所有者のマンション管理に対する意識が高まり、管理水準の維持向上につながります。地方公共団体の認定を受けたマンションであることをアピールすれば、市場評価や立地している地域価値の向上も期待できるでしょう。 現在は、購入希望者がマンションの管理状況を把握するのは簡単ではありません。しかし、今後は認定の有無を確認すれば、一定の管理水準を満たしているかを把握できるようになります。 また、中古だけでなく、新築マンションにも管理計画を認定する制度が開始される予定です(予備認定)。予備認定を受けた新築マンションを取得する場合は、住宅金融支援機構の「フラット35」の金利が一定期間引き下げられます。 出典)住宅金融支援機構 「【フラット35】令和4年4月の制度変更事項のお知らせ」より マンション管理計画認定制度のデメリット マンション管理計画認定制度のデメリットは、マンション管理組合の事務負担が増えることです。 認定を受けるには認定申請書や長期修繕計画を作成し、必要書類を準備して地方公共団体に申請しなくてはなりません。一度認定を受けたら終わりではなく、5年ごとの更新もあります。管理水準の底上げは期待できますが、管理組合の負担は大きなものになるでしょう。 ただし、マンション管理センターによる「管理計画認定手続き支援サービス(オンライン申請)」を利用すれば、事務負担の軽減が期待できます(詳細は後述)。 マンション管理計画認定の流れ マンション管理計画の認定申請方法は、「オンライン申請」と「窓口への直接申請」の2つがあります。オンライン申請の流れは以下のとおりです。 マンション管理センターへ認定申請依頼 マンション管理士の事前確認 事前確認適合通知(適合証)の発行 地方公共団体へ認定申請 認定(マンション管理センターの閲覧サイトで公表) オンライン申請でマンション管理士の事前確認を受けて適合証が発行されると、地方公共団体が審査の事務手続きを省略できる仕組みになっています。オンライン申請のほうが、申請手続きをスムーズに進められるでしょう。 窓口への直接申請は地方公共団体によって手続きの流れが異なるため、申請する地方公共団体に直接確認してください。事前確認や認定申請では手数料がかかる可能性もあるので、申請前に確認しておくことが大切です。 認定申請の必要書類 認定申請に必要な書類は以下のとおりです(神奈川県の場合)。 認定申請書 総会議事録の写し 管理規約の写し 貸借対照表 収支決算書 各戸の修繕積立金滞納額がわかる書類 長期修繕計画の写し 組合員・居住者の名簿の保証書 必要書類を準備する際は、記載内容や事業年度などの諸条件を地方公共団体に確認しておきましょう。神奈川県の場合、長期修繕計画については「計画期間30年以上」「残存期間内に大規模修繕工事2回以上含まれている」といった要件があります。 マンション長寿命化促進税制が与える影響 令和5年度税制改正の大綱にて、マンション長寿命化促進税制の創設が決定しました。この制度は、一定の条件を満たしたマンションを所有する区分所有者の固定資産税を減額できる制度です。 マンション長寿命化促進税制の適用を受けるには、マンションと管理計画の面で、条件を満たす必要があります。マンション管理計画認定制度の認定を受けることで、管理計画の面での適用条件を満たすことができます。 マンション長寿命化促進税制の創設により、マンション管理計画認定制度利用件数の増加が期待されます。 関連記事はこちらマンション長寿命化促進税制とは?概要やメリットを解説 まとめ マンション管理計画認定制度を利用して地方公共団体から認定を受けると、マンションの価値向上につながるかもしれません。ただし、認定基準はマンションを適切に維持管理するうえで最低限の基準を定めているものなので、認定を受けることが必ずしも価値の向上に寄与するとは限りません。 マンション管理組合の事務負担が増えるデメリットがあり、認定制度の効果には不透明な部分もあります。認定制度創設の影響は冷静に見極める必要があるでしょう。 出典) ・神奈川県県土整備局「マンション管理計画認定制度管理組合向け説明会」 ・国土交通省 「マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針」の策定について 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ DINKsマンションとは?メリットや注意点を解説 ここ数年、”DINKsマンション”や”コンパクトマンション”の供給戸数が再び増加しており、今後さらに人気が高まる可能性があります。DINKsマンションを購入するメリットがある一方で、購入する...記事を読む

    2022.03.02制度
  • 自営業者が加入可能な国民年金基金とは?

    自営業者が加入可能な国民年金基金とは?

    自営業者やフリーランスは、会社員に比べて年金が少ないと言われています。しかし、国民年金に上乗せして国民年金基金に加入すれば、年金額を増やすことが可能です。 国民年金基金について名前は聞いたことがあっても、どんな制度なのかはよくわからないのではないでしょうか。国民年金基金にはデメリットもあるため、加入する前に特徴を理解しておくことが大切です。 そこでこの記事では、国民年金基金の仕組みやメリット・デメリットについて詳しく解説します。 国民年金基金とは 国民年金基金とは、自営業者やフリーランスなどの国民年金第1号被保険者が安心して老後を過ごせるように、国民年金(老齢基礎年金)に上乗せして加入できる公的な年金制度です。掛金を納めた期間に応じた年金が将来支給されます。 国民年金のほかに厚生年金や企業年金に加入している会社員に比べると、国民年金のみに加入している自営業者の年金額は少ない傾向にあります。厚生労働省の資料によれば、2019年度の平均年金額は厚生年金が月額146,162円に対し、国民年金は月額56,049円です。 自営業者が国民年金基金に加入すれば、会社員との年金格差の解消が期待できます。 出典)厚生労働省「令和元年(2019年)度 厚生年金保険・国民年金事業の概況P8、P20」 国民年金基金に加入できる人 国民年金基金の加入資格は以下のとおりです。 20歳以上60歳未満の国民年金第1号被保険者 60歳以上65歳以下または海外居住者で、国民年金に任意加入している人 上記要件を満たしていれば、学生や主婦でも加入可能です。しかし、国民年金保険料を免除されている人は、国民年金基金には加入できません。 国民年金基金の成り立ち 1980年代後半に国会で「自営業者にも2階建ての年金を整備すべき」との議論が行われ、1989年に国民年金基金制度の導入が決定し、1991年に施行されました。当初は全国47都道府県で地域型国民年金基金、25の業種で職能型国民年金基金が設立されました。 その後の2019年には、加入員・受給者の利便性向上や運営基盤の安定性を図るために全国国民年金基金が成立し、全国47都道府県の地域型国民年金基金と22の職能型国民年金基金が合併しました。 国民年金基金の運営状況 2020年度末の国民年金第1号被保険者数(任意加入を含む)は1,449万人です。それに対して、国民年金基金の加入員数は2003年度末の約78万人をピークに減少が続いており、現存加入員数は約34万人にとどまります。 国民年金基金連合会の運用報告書によれば、2020年度の運用実績は国内外の株価上昇などもあって、年度ベースの収益率は24.44%で、1997年以降の累積実績では年率4.24%の収益率です。また、2021年3月末時点の積立金の運用残高は4兆6,679億円です。 足元の収益率の上昇の一方で、責任準備金は直近10年以上の不足が続いており、財政状況が好調とは言い難い状態が続いています。このまま加入員数の減少や財政運営の悪化が続くようであれば制度が破綻する可能性も低いとは言えなくなる恐れがあります。 出典) ・厚生労働省「令和2年(2020年)度の国民年金の加入・保険料納付状況P1」 ・国民年金基金「事業の概況・状況(現存加入員数の状況)」 ・国民年金基金連合会「2020年度 運用報告書」 国民年金基金のメリット 国民年金基金には以下3つのメリットがあります。 終身年金である 国民年金基金は、65歳から一生涯受け取れる終身年金が基本です。掛金によって将来受け取る年金額が確定するため、老後の資金計画を立てやすいでしょう。 終身年金のほかに、受取期間が決まっている確定年金も用意されています。終身年金に確定年金を組み合わせるなど、ライフプランに合わせて年金額や受取期間を自由に設計できます。 掛金の上限額は月額68,000円で、加入後も口数単位で年金額や掛金額の増減が可能です。iDeCo(個人型確定拠出年金)と併用できますが、その場合は国民年金基金とiDeCoを合わせて月額68,000円が掛金の上限額となります。 万が一のときには家族に一時金が出る 国民年金基金の掛金は掛け捨てではなく、万が一早期に亡くなったときには家族に遺族一時金が支給されます。年金受給前や保証期間中に亡くなった場合は、保証期間に応じた一時金を遺族に残すことができます。 税制優遇がある 国民年金基金には以下3つの税制優遇があります。 掛金は全額社会保険料控除の対象 受け取る年金も公的年金等控除の対象 遺族一時金は全額非課税 掛金は全額が所得控除の対象となるため、確定申告によって所得税・住民税が軽減されます。将来受け取る年金には「公的年金等控除」が適用され、一定額までは非課税で受け取れます。万が一のときに支給される遺族一時金も全額非課税です。 国民年金基金のデメリット・注意点 国民年金基金には以下のようなデメリット・注意点もあります。 任意脱退、中途解約ができない 国民年金基金への加入は任意ですが、自己都合での脱退や中途解約はできません。途中で掛金を払えなくなった場合は、払い込みの一時中断が可能です。年金額は未納期間に応じて減額されます。未納分は後から納付することも可能です(納付可能期間は2年以内)。 なお、自己都合の解約は認められませんが、国民年金第1号被保険者でなくなるなど、加入資格を失う場合は脱退となります。脱退した場合は加入期間の長さを問わず、納めた掛金は将来年金として給付されます。 加入期間中の死亡時には、遺族一時金が掛金を下回ることがある 国民年金基金は年金受給前や保証期間満了前に死亡すると、遺族に一時金が支給されます。しかし、遺族一時金の額は掛金を下回ることがあります。そのため、あらかじめ加入前に遺族一時金の額を確認しておきましょう。 破綻リスクがある 国民年金基金は国民年金法に基づいて運営されている公的な制度ですが、解散する可能性もあります。 上述のように好調な相場環境もあって、直近では収益率や積立金の額は上昇しています。しかし、加入者数は減少が続いており、ピーク時の半分程度に落ち込んでいます。財政運営も一時的に回復していますが、令和2年度の責任準備金の不足分は約8,000億円となっており、今後の状況によっては破綻リスクもゼロとはいえません。 もし解散する場合は、解散時点の残余財産を加入員および受給者で分配することになっており、分配額はそれまで支払った掛金額を下回ることがあります。 まとめ 国民年金基金は一生涯受け取れる終身年金であり、税制優遇を受けられるのが魅力です。国民年金に上乗せして加入できるので、自営業者やフリーランスの年金対策として活用できます。 ただし、任意脱退や中途解約はできないので、メリット・デメリットをよく比較した上で加入を検討しましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 自営業の人の年金は少ない?年金対策も解説 自営業の人は、会社員に比べて年金が少ないといわれますが、具体的にはどのくらい異なるのでしょうか。年金額が異なる理由は、自営業の人と会社員では、適用される年金制度が異なるためです。年金が少ない...記事を読む

    2021.12.29制度年金
  • 年金生活者支援給付金とは?給付対象や手続き方法を解説

    年金生活者支援給付金とは?給付対象や手続き方法を解説

    年金生活者支援給付金についてご存じでしょうか。この制度を利用することで、一定の条件を満たした方は、受け取れる年金の額が多くなる可能性があります。年金生活者支援給付金について知らない方は、ぜひ本記事の内容を参考にしてください。 年金生活者支援給付金とは? 年金生活者支援給付金は、生活の支援を図ることを目的に、年金に一定額を上乗せして支給する制度です。本給付金を受けるためには、以下のような要件を満たさなければなりません。 年金を受給していること 所得が一定額以下であること 年金生活者支援給付金の給付対象 年金生活者支援給付金の給付対象は下記3種類の年金受給者です。 老齢基礎年金 障害基礎年金 遺族基礎年金 年金生活者支援給付金の給付額と受給要件について、年金の種類ごとに見ていきましょう。 老齢基礎年金 老齢基礎年金受給者における給付金は月額5,140円を基準に、保険料納付済期間等に応じて算出します。また、老齢基礎年金の受給者が年金生活者支援給付金を受けるための要件は以下のとおりです。 65歳以上の老齢基礎年金の受給者であること 同一世帯の全員が市町村民税非課税であること 前年の公的年金等の収入金額とその他の所得の合計額が878,900円以下であること 障害基礎年金 障害基礎年金受給者における給付金は障害等級2級が月額5,140円、障害等級1級が月額6,425円です。また、障害基礎年金の受給者が年金生活者支援給付金を受けるための要件は以下のとおりです。 障害基礎年金の受給者であること 前年の所得が4,721,000円以下であること* ※ただし、扶養親族等の数に応じて増額 遺族基礎年金 遺族基礎年金受給者における給付金は月額5,140円ですが、2人以上の子が受給している場合には、5,140円を子の数で割った金額です。また、遺族基礎年金の受給者が年金生活者支援給付金を受けるための要件は以下のとおりです。 遺族基礎年金の受給者であること 前年の所得が4,721,000円以下であること* ※ただし、扶養親族等の数に応じて増額 年金生活者支援給付金の留意事項 ここでは、年金生活者支援給付金を受けるにあたり、確認しておきたい留意事項をお伝えしていきます。 給付額の改定について 年金ごとの給付額については上述のとおりですが、こちらは令和5年10月時点の金額です。毎年物価の変動による改定が行われるため、確認するようにしましょう。なお、給付手続きをした後に、給付額の改定が行われると「年金生活者支援給付金支給金額改定通知書」が送られてきます。 給付金が受給できないケース 以下のようなケースでは、給付金は受給できません。 日本国内に住所がない 年金が全額支給停止されている 刑事施設等に拘禁されている 手続きできない人はどうする? 目が見えない方や認知症の方など、自筆で書くことが困難な場合には、代理人による代筆が認められています。また、耳や発生が不自由な方はファックスなどで問い合わせすることも可能です。 年金生活者支援給付金の手続き方法 年金生活者支援給付金は請求手続きしなければ受給できませんが、請求手続き自体は非常に簡単に済ませることが可能です。日本年金機構から送られる封筒の中に、はがき型の請求書が入っているので、太枠内の必要事項(提出日や氏名、電話番号のみ)を記入し、切手を貼って送付すれば手続き完了です。 請求書を紛失した場合の手続き 請求書を紛失した場合、日本年金機構のホームページからダウンロードできる請求書に必要事項を記入し、近隣の年金事務所に持参する形で手続きができますが、以下のような内容を記入しなければなりません。 マイナンバーまたは基礎年金番号 氏名 生年月日 住所 届出年月日 はがき型と比べると記入内容が増えますが、いずれにせよ簡単に手続きできます。なお、本人が窓口で手続きする場合はマイナンバーカードやマイナンバーの分かる書類、身元証明書などの書類が必要です。 請求に関するよくあるご質問 最後に、請求に関してよくある質問について見ていきましょう。 所得はどう証明するの? 給付金を受けるには、所得の条件を満たす必要があります。この所得の判定は、市町村から所得情報等の提供を受けて行われるため、基本的には書類の提出は不要です。ただし、所得情報等を確認できない場合には、別途提出しなければならないこともあります。 給付金請求書はいつ届くの? 給付金請求書は、令和5年分については9月1日より順次発送が開始されています。万が一手元に届いていない場合は給付金専用ダイヤルか近隣の年金事務所に問い合わせするとよいでしょう。 毎年手続きが必要なの? 一度給付金の手続きをした場合、給付金の要件を満たしていれば、2年目以降の手続きは原則不要です。ただし、一度給付金の手続きをしたものの、所得が増えた等の理由で給付金の支給が停止された方が、再度要件を満たした場合には、改めて支給手続きをしなければなりません。 まとめ この記事では、年金生活者支援給付金についてお伝えしました。この制度は、簡単な手続きで利用を開始できるので、要件を満たしているのにまだ給付金を受けていないという方は、本記事の内容を参考に、手続きを進めると良いでしょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 自営業の人の年金は少ない?年金対策も解説 自営業の人は、会社員に比べて年金が少ないといわれますが、具体的にはどのくらい異なるのでしょうか。年金額が異なる理由は、自営業の人と会社員では、適用される年金制度が異なるためです。年金が少ない...記事を読む

  • iDeCo(イデコ)の仕組みとは?メリット・デメリットを解説

    iDeCo(イデコ)は、公的年金だけでは不足する老後資金を準備するための制度です。iDeCoについて聞いたことはあっても、その特徴はよくわからない方もいるのではないでしょうか。iDeCoは2022年に制度改正が予定されているため、その内容を理解しておくことも大切です。 この記事では、iDeCoの仕組みやメリット・デメリット、加入手続きの流れ、制度改正の内容について詳しく解説します。 iDeCo(イデコ)とは iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、自分で掛金を拠出し、商品を選んで運用する私的年金です。運用した掛金は、原則60歳以降に一時金または年金として受け取ることができます。 iDeCoには税制上の優遇措置が講じられており、一般的な貯蓄や運用では得られない節税効果が期待できるのが特徴です。公的年金(国民年金・厚生年金)に上乗せして加入できるため、老後資金を準備する手段として活用できます。 加入資格 iDeCoの加入資格は以下のとおりです。 自営業者や会社員、公務員など多くの人が加入対象となっています。ただし、会社員は勤務先の年金制度によっては加入できない場合があります。詳しくは、勤務先の担当者に確認するといいでしょう。 出典)iDeCo公式サイト iDeCo(イデコ)の仕組み 掛金の上限額 iDeCoの掛金額は、加入資格に応じて以下のように上限額が決まっています。 加入資格掛金の上限額 自営業者月額6.8万円(年額81.6万円)※国民年金基金または付加保険料との合算 企業年金がない会社員月額2.3万円(年額27.6万円) 企業型DCに加入している会社員月額2.0万円(年額24.0万円) DB(確定給付年金)のみに加入している会社員DBと企業型DCに加入している会社員公務員等月額1.2万円(年額14.4万円) 専業主婦(夫)月額2.3万円(年額27.6万円) 国民年金のみの自営業者は、会社員や公務員に比べて掛金の上限額が大きくなっています。ただし、国民年金基金または国民年金付加保険料との合算となる点に注意が必要です。たとえば、付加年金に加入している場合、iDeCoの掛金上限額は月額6.7万円となります。 iDeCoは月々5,000円から始められ、1,000円単位で自由に設定できます。掛金額は1年(12月分~翌年11月分)に1回のみ変更可能です。 運用商品 iDeCoは、金融機関が提示する運用商品の中から、自分で商品を選んで運用する必要があります。運用商品は投資信託が中心ですが、定期預金や保険などの元本保証商品も用意されています。 運用商品を選定する際は、自分の運用方針に沿って配分比率(どの商品に掛金の何%を振り向けるか)を決めます。 掛金の給付 iDeCoの掛金は、原則として60歳以降に老齢給付金として受け取れます。受け取り方法は以下3つから選択可能 です。 一時金として一括で受け取る 年金として受け取る 一時金と年金を組み合わせて受け取る 一時金は、70歳までの間に受け取ります。年金は、5年以上20年以下の期間で金融機関(運営管理機関)が定める方法で受け取ることになります。金融機関によっては、一時金と年金を組み合わせて受け取ることも可能です。 iDeCoの通算加入期間が10年以上の場合は、60歳から受給を開始できます。通算加入期間が10年に満たない場合は、加入期間に応じて受給開始年齢が61~65歳に繰り下げられます。 出典)iDeCo公式サイト iDeCo(イデコ)の給付(受取方法)について 年金制度間の移換(ポータビリティ) iDeCoは、転職や離職の際に年金制度間での移換(ポータビリティ)が可能です。たとえば、会社員から自営業者になる場合、加入していた企業型DCやDBの資産をiDeCoに持ち運ぶことができます。移換手続きについては、金融機関の窓口で相談しましょう。 iDeCoの3つの節税メリット iDeCoは税制上の優遇措置が講じされており、節税効果が高いのが魅力です。具体的には、以下3つの節税メリットがあります。 掛金は全額所得控除 iDeCoの掛金は全額が所得控除の対象となるため、所得税と住民税が軽減されます。たとえば、掛金額が月額1万円で、所得税率と住民税率がそれぞれ10%だとすると、年間2.4万円の節税となります。 ただし、もともと税金を払っていない専業主婦(夫)は、所得控除のメリットを受けられないので注意が必要です。 自営業者は、国民年金基金連合会が発行する「小規模企業共済等掛金払込証明書」を使って確定申告を行いましょう。会社員は勤務先で年末調整を受けることが可能です。 運用益は非課税 投資信託などの金融商品の利益には、通常約20%の税金がかかります。しかし、iDeCoの運用益は非課税であるため、税金はかかりません。通常なら差し引かれる税金分を投資に回せるので、効率的に資産を増やせます。 受取時は所得控除の適用対象 iDeCoは、60歳以降に給付を受け取るときにも所得控除が適用されます。一時金で受け取るときは「退職所得控除」、年金の場合は「公的年金等控除」が適用されるため、一定額は非課税になります。 受け取り方法によって控除額が変わるため、状況に応じて有利な方法を選択することが大切です。自分で判断できない場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。 出典)iDeCo公式サイト iDeCo(イデコ)の3つの税制メリット iDeCoのデメリット・注意点 iDeCoは老後資金づくりに適した制度ですが、以下のようなデメリット・注意点もあります。 原則60歳まで引き出せない iDeCoの掛金は原則60歳まで引き出せません。掛金を無理に増やすと、手元資金が不足する恐れがあります。将来への備えは大事ですが、無理のない範囲で掛金を設定することが大切です。 運用成績によっては給付額が減少する iDeCoは、運用成績によって将来もらえる給付額が変動します。投資信託には価格変動リスクがあるので、運用がうまくいけば給付額は増えますが、資産価格の下落によって元本割れする可能性もあります。 運用のリスクを軽減するには、国内外の資産に分散投資ができる低コストの投資信託を選び、短期の値動きに一喜一憂せずに積み立てを長く続けることが大切です。 金融庁の資料によれば、資産や地域を分散した積立投資を長期間続けることで、結果的に元本割れの可能性が低くなる傾向にあります。どうしても元本割れを避けたい場合は、定期預金などの元本保証商品を検討しましょう。 出典)金融庁「つみたてNISA早わかりガイドブック」 手数料がかかる iDeCoは加入時や運用期間中に手数料がかかります。手数料は国民年金基金連合会に支払うものと、金融機関(運営管理機関)に支払うものの2種類があります。国民年金基金連合会の手数料は以下のとおりです。 加入・移換手数料(初回1回のみ):2,829円 加入者手数料(掛金納付の都度):105円 金融機関の手数料は、各機関によって異なります。比較検討した上で、なるべく手数料が安い金融機関を選ぶといいでしょう。 出典)iDeCo公式サイト 国民年金基金連合会の手数料について 金融機関によって運用商品が異なる iDeCoは投資信託や定期預金、保険商品などで運用できますが、金融機関によって運用商品の種類や数が異なります。特に投資信託は、商品によって投資対象資産や手数料(信託報酬など)に違いがあります。 複数の金融機関を比較して、自分の運用方針に合った商品を扱っている金融機関を選びましょう。iDeCoの金融機関は途中で変更も可能です。 iDeCoの加入手続きの流れ iDeCoの加入手続きの流れは以下のとおりです。 事前準備を行う 取扱金融機関へ申込書類を提出する ID・パスワードを受け取る 運用開始 まずは加入資格を確認し、掛金額や運用方針を決めます。複数の金融機関に資料請求を行い、手数料や商品ラインナップを比較しましょう。加入する金融機関が決まったら、申込書類を提出して加入手続きを行います。 国民年金基金連合会で確認・手続きが完了すると、加入者サイトにログインするためのID・パスワードが発行され、運用が開始されます。手続きについてわからないことがあれば、金融機関のコールセンターなどに確認しましょう。 企業型DC加入者は注意! 企業型DCに加入している会社員がiDeCoに加入するには、企業型DCの事業主掛金とiDeCoの掛金、これらの合計額について以下の要件を満たす必要があります。 企業型DCに加入している人がiDeCoに加入する場合企業型DCとDBに加入している人がiDeCoに加入する場合 企業型DCの事業主掛金(①)55,000円以内27,500円以内 iDeCoの掛金(②)20,000円以内12,000円以内 合計(①+②)55,000円以内27,500円以内 実際にiDeCoへの加入を検討する場合は、まず勤務先の担当者に確認するといいでしょう。 出典)厚生労働省「令和4(2022)年10月から企業型DC加入者がiDeCoを利用しやすくなります」 iDeCoの制度改正予定 iDeCoは法改正により、2024年12月1日から以下の制度変更が予定されています。 掛金上限の見直し 現状企業型DCやDBなどに加入している人がiDeCoにも加入する場合、iDeCoの掛金上限は12,000円となっています。この上限が、2024年12月1日より20,000円まで引き上げられることが決まっています。 ただし、企業型DC、DB、iDeCo等の合計金額の上限は55,000円です。そのため、iDeCo以外の制度での掛金合計額が35,000円を超えてしまう場合には、iDeCoの掛金の上限が20,000円を下回ってしまうので、注意が必要です。 出典)iDeCo公式サイト「2022年の制度改正について」 まとめ iDeCoは「掛金が全額所得控除」などの税制優遇があり、節税効果が高いのが魅力です。原則60歳まで掛金を引き出せませんが、公的年金だけでは不足する老後資金を確保できます。老後の生活費に不安がある場合は、iDeCoの活用を検討しましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 自営業の人の年金は少ない?年金対策も解説 自営業の人は、会社員に比べて年金が少ないといわれますが、具体的にはどのくらい異なるのでしょうか。年金額が異なる理由は、自営業の人と会社員では、適用される年金制度が異なるためです。年金が少ない...記事を読む

  • 小規模企業共済とは?メリット・デメリットと加入までの流れを解説

    小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者向けの退職金制度です。自営業の方が、国民年金以外の老後資金を準備する手段として活用できます。一方で、小規模企業共済は、状況によっては損をする恐れもあるため、加入前に仕組みを理解しておくことが大切です。 この記事では、小規模企業共済の概要やメリット・デメリット、加入すべきかどうかについて詳しく解説します。 小規模企業共済とは 小規模企業共済とは、個人事業主や小規模企業の経営者・役員を対象とした積み立てによる退職金制度です。中小企業基盤整備機構が運営しており、廃業や退職時の生活資金の準備、年金対策などに活用できます。 小規模企業共済の加入人数は2023年3月末時点で、約162万人、資産運用残高は約11兆1,313億円です。 出典)中小企業基盤整備機構「小規模企業共済(現況)」 加入資格 小規模企業共済の加入資格は、以下のとおりです。 建設業、製造業、運輸業、宿泊業、娯楽業、不動産業、農業を営み、常時使用する従業員数が20人以下の個人事業主または会社役員 卸売業、小売業、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営み、常時使用する従業員数が5人以下の個人事業主または会社役員 事業に従事する組合員数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員数が20人以下の協業組合の役員 常時使用する従業員数が20人以下で、農業経営を主とする農事組合法人の役員 常時使用する従業員数が5人以下の弁護士法人、税理士法人などの士業法人の社員 1と2に該当する場合は、個人事業主1人につき共同経営者2人まで加入できます。「常時使用する従業員」には、家族従業員と共同経営者(2人まで)は含まれません。2つ以上の業種を行っている事業主・共同経営者は、主たる事業の業種で加入します。 掛金 小規模企業共済の掛金は、積み立て途中の掛金の増減額も可能で、月額1,000円から70,000円の範囲内で、一口を500円単位で自由に設定できます。掛金の前納にも対応しており、前納すると一定割合の前納減額金を受け取れます。 納付方法は個人の預金口座からの振替で、「月払い」「半年払い」「年払い」の3つから選択できます。なお、業績悪化や災害などで掛金を払うのが難しい場合は、一時的に支払いを停止する「掛け止め」も可能です。 小規模企業共済はいつ支払われるのか 小規模企業共済に一定期間以上加入し、個人事業の廃業や会社の解散などの事態が生じた場合に、掛金額と納付月数に応じた共済金が支払われます。そして、共済金は共済事由や掛金の納付月数によって額が変わります。 共済事由 共済事由とは、共済金や解約手当金が支払われる理由のことをいいます。共済事由は以下の4種類です。 共済事由の詳細 共済事由内容 A共済事由 (共済金A) ・個人事業の廃止・個人事業主・共同経営者の死亡・個人事業の廃業に伴う共同経営者の退任・会社の解散 B共済事由 (共済金B)・老齢給付(65歳以上で180ヵ月以上の掛金納付)・会社役員の疾病・負傷・65歳以上による退任・会社役員の死亡 準共済事由 (準共済金) ・法人成り(その会社の役員に就任しなかった場合)・会社役員の退任(疾病・負傷・65歳以上・死亡・解散を除く) 解約事由 (解約手当金) ・任意解約・12ヵ月以上の掛金滞納 共済金の返戻率 共済事由によって受け取れる共済金額の割合(返戻率)は変わります。各共済事由の返戻率は以下のとおりです。 各共済事由の返戻率 納付年数A共済事由B共済事由準共済事由 5年103.6%102.4%100.0% 10年107.6%105.1%100.0% 15年111.7%107.8%100.0% 20年116.1%110.8%100.0% 30年120.8%117.0%100.0% 納付年数が長くなると返戻率が上がります。例えば、毎月1万円ずつ掛金を払った人が20年間納付した後、事業の廃止によって共済金を受け取る(A共済事由に該当する)場合、掛金合計金額の240万円に返戻率の116.1%を掛け合わせた約279万円となります。 ・上記の算式 1万円/月 × 12回 × 20年 × 116.1% = 約279万円 なお、共済事由が任意解約に該当し、納付月数が20年(240ヵ月)未満の場合、解約手当金の額は掛金合計額を下回るので注意しましょう。 共済契約者が死亡した場合 共済契約者が死亡した場合は、遺族が共済金を受給できます。請求順位は配偶者(事実婚も含む)が第一順位者で、次いで子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、その他の親族の順となります。また、法定相続と異なり、第一順位の人がすべての共済金を受給することとなります。 ただし、子以下は共済契約者の収入によって生計を維持されていた者が優先されます。小規模企業共済法に規定された受給権者が存在しない場合、共済金は支給されません。 出典)中小企業基盤整備機構「小規模企業共済 制度のしおりP11~12」 小規模企業共済のメリット 小規模企業共済には、主に以下2つのメリットがあります。 税金対策になる 納付時 小規模企業共済の掛金は全額を課税所得から控除できるので、所得税と住民税の税金対策になります。例えば、課税所得金額が400万円、掛金月額が10,000円であれば年36,500円、30,000円なら年109,500円が節税額の目安です。 自身の節税額が気になる方は、小規模企業共済制度の加入シミュレーションをお試しください。 受取時 共済金の受取方法は、「一括」「分割」「一括と分割の併用」の3種類があります。 一括で受け取る場合は「退職所得控除」、分割の場合は「公的年金等控除」が適用されるため、所得税・住民税の負担軽減が期待できます。 資金の借り入れができる 小規模企業共済の貸付制度とは、掛金納付期間に応じた貸付限度額の範囲内で事業資金などの借り入れができる制度です。「一般貸付制度」のほかに、「緊急時経営安定貸付け」「傷病災害時貸付け」なども用意されています。 一般貸付の場合、2023年8月時点では、貸付限度額は掛金の7~9割が目安で、利率は年1.5%です。経済環境の変化により資金繰りが悪化したり、病気やケガで入院したり、災害で被害を受けたりした場合は、一般貸付よりも低金利で借り入れが可能です。例えば、「緊急時経営安定貸付け」は、2023年8月時点では、利率は年0.9%です。 小規模企業共済のデメリット・注意点 小規模企業共済には、主に以下のようなデメリット・注意点もあります。 元本割れすることもある 12ヵ月未満の任意解約 小規模企業共済は、加入期間12ヵ月未満で任意解約すると掛け捨てとなります。また、掛金納付月数が6ヵ月未満の場合は、共済事由に該当しても受け取れません。そのため、小規模企業共済は、長期にわたって掛金を納付する前提で加入することが前提といえます。 20年未満の任意解約は元本割れする 小規模企業共済は、掛金納付月数が20年未満で任意解約をした場合は元本割れします。業績悪化などにより掛金の支払いが厳しい場合は、掛金の減額や掛け止めをして、できる限り任意解約を避けるほうがいいでしょう。 なお、加入期間20年未満で元本割れするのは任意解約のみです。個人事業の廃止などに該当する場合は、加入期間20年未満でも元本割れしません。 事業規模が大きいと加入できない 小規模企業共済の加入資格には、常時使用する従業員数などの要件があります。事業規模が大きく、多くの従業員がいる場合は要件を満たさないため加入できません。 掛金は事業上の損金・必要経費に算入できない 小規模企業共済の掛金は、共済契約者が自身の収入から納付する必要があります。事業上の損金や必要経費には算入できないので注意しましょう。 小規模企業共済の加入手続きの流れ 小規模企業共済の加入手続きの流れは以下のとおりです。 必要書類を準備する 書類を窓口へ提出する 中小企業基盤整備機構から書類を受け取る 必要書類のうち、「契約申込書」と「預金口座振替依頼書」の2つは中小企業基盤整備機構に資料請求すると入手できます。その他に、加入希望者の立場に応じて必要になる書類があります。 例えば、個人事業主の場合は確定申告書の控えが必要です。開業したばかりで確定申告書がない場合は開業届の控えを提出します。会社役員は履歴事項全部証明書、共同経営者は確定申告書の控えや共同経営契約書の写しなどが必要になります。 必要書類が準備できたら、金融機関の窓口などで申込手続きを行いましょう。初回の掛金を現金で支払う場合は、払込区分に応じた現金が必要です。申込日から40日程度で、中小企業基盤整備機構から「共済手帳」や「加入者のしおり」などの各種書類が届きます。 小規模企業共済に加入すべきかどうか 小規模企業共済に加入すべきかどうかは、加入年数や退職金積み立てにおける自身の価値観によって異なります。小規模企業共済では、加入期間が12か月未満の場合や、解約が20年未満の場合には元本割れのリスクが存在します。 個人事業主や経営者にとっての退職金積み立ての方法は、小規模企業共済以外にも個人型確定拠出年金(iDeCo)や自己積み立て型のNISA、民間の個人年金保険などがあります。 もし自身で運用の自由を重視する価値観を持っているならば、iDeCoやNISAの方が適しているかもしれません。逆に、支払いを行うだけで運用を専門家に任せたいのであれば、民間の保険会社が提供する年金保険が適している可能性があります。 単に「個人事業主だから」や「加入資格があるから」といった理由だけでなく、競合する商品の知識を深めた上で、総合的な観点から判断することが重要です。 関連記事はこちらiDeCo(イデコ)の仕組みとは?メリット・デメリットを解説 まとめ 小規模企業共済を利用すれば、退職金がない自営業者でも老後資金を準備できます。掛金は全額所得控除となり、もしものときは貸付制度も利用できるので、加入資格を満たすなら活用したい制度です。一方で、価値観によってはより優れていると感じる商品もあるかもしれません。視野を狭めず、ライフスタイルに合った老後資金づくりを考えてみてはいかがでしょうか。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 自営業の人の年金は少ない?年金対策も解説 自営業の人は、会社員に比べて年金が少ないといわれますが、具体的にはどのくらい異なるのでしょうか。年金額が異なる理由は、自営業の人と会社員では、適用される年金制度が異なるためです。年金が少ない...記事を読む